そこから飛彩達は年相応の少年少女のように遊びまわった。
再び買い物に回ったり、お洒落なレストランで華やかな食事に舌鼓をうつ。
そのあとは近くのテーマパークで絶叫マシンに乗って黄色い声を上げて喜びはしゃぎ回った。
「こっちには戦闘訓練用の乗り物があるのだな!」
「お前、ジェットコースターをそういう風に見てたんだな……ありゃ単純に、恐怖とか速さを楽しむもんだぞ?」
「恐怖を楽しむだと?」
陽が傾き始めたテーマーパークを歩き続ける五人の中でも、特にはしゃいで走り回っていたララクがやっと動きを止めた。
「こっちではそんなことをするのか?」
「他にもお化け屋敷とかがありますよ」
変装用のメガネとマスクをつけたホリィの言葉にも知らないことを教えられたような反応でララクは言葉を返す。
「そこではどんな恐怖楽しむのだ?」
「もちろん、びっくりしたり日常じゃ体験できない恐怖感を楽しむんです」
蘭華達は何を当たり前なことを話しているのか、という態度だがララクは依然として不思議そうに腕を組んでいる。
「そんなものが……よし、行ってみるのだ!」
「お、おい! 待てよ!」
駆け出したララクに追随するように走り出す一同は、この国で一番恐ろしいと評されるお化け屋敷へと辿り着いていた。
物々しい雰囲気のお化け屋敷は巨大な病院のような見た目をしており、所々汚れている演出が廃墟のような見た目を増長させていた。
「ふ、雰囲気の塊ですよぉ」
「作り物だろ? ビビってどうするんだ?」
「ララクを幽霊だと思ってビビってたのはどこの誰かしら」
「う、うるせぇな! さっさと行こうぜ!」
と、先陣を切ったものの案内係に見送られたスタート地点から飛彩達は一歩も動けていない。
「早く歩きなさいよ飛彩!」
「そうです飛彩さん!」
「ごめんね飛彩くん……」
右腕には蘭華、左腕にはホリィ、そして背後にぴったりとくっつくカクリ。
歩き出そうにも少女達の枷がずっしりと飛彩の身体を朧げな光が残る始点に縛り付けている。
「そそそ、そんなにビビることねぇだろ。歩きにくいから離れろよ」
「いつもみたいに無理やり進んでっててよ。ヴィランに掴まれた時みたいに」
「おい、ララクがいるんだからそのことは話すなって!」
お団子状態で騒ぐ一同を後ろから眺めていたララクは、闇など恐れぬと言った様子で飛彩の横を通り抜けた。
「何を怯える必要があるんだ? 恐怖を楽しむ場所なのだろう?」
「そ、そりゃそうだが……」
「ならば出発だ!」
大股で歩き出す少女から離れすぎるわけにはいかないと、女性陣を引きずりながら歩いていく飛彩。
もはやお化け屋敷の恐怖よりも重りを背負ったランニングにも似た地獄の特訓が始まっていた。
「あっ」
曲がり角に差し掛かったところで声を上げる蘭華は目を細めてその先に神経を研ぎ澄ませる。
どうやらお化け屋敷の定番、びっくりポイントが近づいてきたようだ。無様に驚きたくなければ予め覚悟しておくしかないと何度も息を呑む。
そして、深呼吸をして心を平生に保っている途中にも関わらずララクが平然と歩いて行ってしまう。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
「「「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
血塗れのゾンビ役が曲がり角の向こうにあった窓から廊下に向かって何度も手を伸ばす。
精神統一が終わっていなかった蘭華達は絶叫を上げ、その大音量に飛彩もまた飛び上がる。
「うるせぇな! テメェらの声の方が怖いわ!」
おかげで無様な姿は見せずに済んだと感じる飛彩は先に進んでしまったララクを見遣る。
ゾンビに向かって首を傾げるララクは少しも驚いた様子も見せずむしろ困惑していた。
「これが恐怖か……?」
「厨二みてぇなセリフはきやがって。ずいぶんと度胸あるじゃねーか」
「これは恐怖というより驚くではないか?」
「あ? こういう場所なら同じようなもんだろ?」
未だに窓を叩くゾンビから距離を取るようにゆっくり歩いているとララクは飛彩達のペースも考えずスイスイと進んでいってしまう。
「お、おい! ララク!」
呼び掛けても止まらないララクは全ての仕掛けにバッチリ引っかかるも一つも声を漏らさず、不思議そうな表情を浮かべて廃病院を踏破していく。
おかげで驚かせてくるポイントを少し後ろで見せつけられてしまった飛彩達も、冷めた様子でついていくしかなかった。
ものの数分で出口までたどり着いたララクは光差す出口でずっと飛彩達が到着するのを待っていた。
普通ならば光あふれる外が恋しくなってくる頃だったが、ララクのおかげで恐怖に対して全て覚悟した状態で望めてしまったことで何の感慨もないらしい。
「遅いなお前達。お化け屋敷とは微妙なところだな?」
「主にお前のせいでな。まー、おかげで楽だったけどよ」
怖くないお化け屋敷に物足りなさを感じていいのか、安心感を感じていいのかわからないままに一同は再び外に出た。
「にしてもララクさん、全然驚いてませんでしたねぇ?」
「そうですね。ホラー映画とかお好きなんですか?」
その問いに対してもララクは何と返答していいのか分からないと言った様子だったが、少し違うのははしゃいでいた時と違って幾分大人びた雰囲気を纏っていることだ。
「あれは恐怖じゃなかった。恐怖を好むと言いながら人は恐怖の本質を分かっていない、かな」
「……っ」
それは飛彩だけが感じていたララクに対する得体の知れない恐怖。
時折見せる威圧的な雰囲気を見せられるたびに悪霊やメイの忠告が飛彩の頭の中をよぎっていく。
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