「おっとチャレンジャーも準備できたようだ! ハンティングパーティーのルールは簡単! 十回の戦いの中で人間かいつ死ぬか賭けるだけ! さぁ、どんどんベッドしろぉ!」
地下から上がった飛彩とちょうど反対側の方には一際豪華そうなラウンジや客席がある。
そこから感じる多数のヴィランの気配に本当に賭けが始まるのだと飛彩は理解した。
目をこらすとちょうど飛彩がいる場所から侵略区域を二回り小さくした程度の円が広がっており、そこが戦闘スペースだとも理解させられた。
「ハンティングパーティ一戦目はバウンドバイソンの群れだ!」
戦闘スペースへと乗り込んだ飛彩の反対側に次元の裂け目が発生する。
異空間から聞こえてくる地鳴りに耳を澄ませていると、くぐもった咆哮が飛彩の聴覚を襲った。
「ブルゥォォォォォォォォオ!!!!」
現れた黒牛の体長は三メートルはあろうかという巨大さを誇っていた。
一切の脂肪分が感じられない筋骨隆々とした猛牛の群れが一目散に飛彩を狙う。
「別に赤い服着てるわけでもねぇんだがな?」
二角の角、天へと向く下顎から生える牙。
さらにガルムと同じく眉間に鎮座している三つ目の眼が血走りながら飛彩を捉える。
「ブモォォオォォォォォォォ!!!」
「ったく、舐められたもんだぜ」
腰に装備していたハンドガンを引き抜いた飛彩は、眉間でぎょろぎょろ蠢いている瞳へ銃弾を突き刺していく。
悲鳴を上げて頭を振るバウンドバイソン達だが、走り抜けようとする勢いは止まらない。
「おーっと、人間! おもちゃの銃で応戦かー!?」
観客席を包む笑い声。そんな騒音に一切集中を乱されることなく、飛彩は小太刀を携えて群れへと飛び込んだ。
「目にモノ見せてやる」
左腕の能力が発動しているだけあって、黒い群れの中に飛び込んでいくその姿は闇の流星。
黒光の軌跡を残し、飛彩は銃弾を撃ち込んだ場所へ的確に小太刀を突き刺していく。
「いっちょ……いや、何丁上がりだ?」
群れと飛彩が交差したかと思えば、バウンドバイソン達は次々と泡を拭いて倒れていった。
数十頭の群れが轟音を立てて倒れ込み、灰へと姿を変えていく。
「——な、何が起きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
けたたましい実況に耳をかさず、小太刀から血を払う飛彩。
銃弾と同じ箇所を小太刀で突き刺したことにより、分厚く断ち憎い頭部に刃を滑らせることが出来るだけでなく、めり込んでいる銃弾を押し込み、脳を潰すことに成功していたのだ。
その展開を解放しているだけあって飛彩の五感は極限に上昇している。
質実剛健な黒の群れでも飛彩を怯ませることは出来ないのだろう。
「遊ぶつもりはねぇ。とっとと親玉を出してくれないか?」
「人間のくせに生意気だ……! 次のウェーブを準備しろ!」
再び現れた次元の裂け目。そこから飛び出してきたのは巨大な吸血蝙蝠、バイトバットの群れだ。
かつて対峙したことのある飛彩はため息混じりで左腕に吸収した悪のエネルギーを小太刀から斬撃として放つ。
「邪魔だ!」
闇の波とでも言うべき飛ぶ斬撃はバイトバットの特徴である翼を千切り落としていき、観客席を大きく吹き飛ばした。
悲鳴を上げて逃げ出すヴィランがいる中、もはやどちらが悪しき存在なのか分からなくなっていく。
「溜まったエネルギーはいくらでも返してやるよ」
脳に直接流れ込む封印されし左腕の有効な使い方に従う飛彩はより洗練された動作で倒し損ねたバイトバットを撃ち抜いていく。
「無駄だって分かったろ?」
余裕な表情を崩さない飛彩にとうとうヴィラン達にも動揺が走る。
そんな様子から戦闘を行わないヴィラン、ひいては地位の高い貴族のようなヴィランもいるのかと飛彩は驚いた。
「そうか。ここは金持ちの道楽……本当にリゾート地ってわけか」
「くそっ、何だあの人間は!」
逃げ出したくてたまらない実況のヴィランが兜を震わせていると、伝令のような甲冑姿のヴィランが小さく耳打ちをした。
「……なんだって? ハハッ。面白い! もう賭けなんて関係ねぇ! あいつを殺した者に報奨金を授けるルールに変更になったぞぉぉぉ!」
逃げなかったヴィラン達が歓喜の咆哮を上げ、戦闘スペースへと次々と降り立った。
飛彩の前に立ち塞がるように現れたヴィランは全てFやEと言った一筋縄ではいかない相手達である。
それが何十人も飛彩を殺そうと牙を剥いており、もはや命乞いをしたところでどうにもならないのは明白だ。
「ほぉ、ここの管理人みたいなのがいるのか。面白ぇ。余計なこと言っちまったって後悔させてやるよ!」
右足に力を込めた飛彩は暴走する足を左腕の支配下に置く能力で押さえ込み、紅き装甲を顕現させる。
「いくぜ……残虐ノ王」
知っていたかのように能力の名を告げる飛彩は赤と黒の残像を残すほどの速さで戦場を蹂躙する。
不用意に近づいたヴィランは右足から放たれる脚撃で粉々に砕かれた。
反対側から仕掛けようとするものも、左腕の能力で力を吸われ、弱ったところを手刀で串刺しにされる。
「無駄だって言ってんだろ」
雑兵は一瞬にして無残な欠片へと姿を変貌させていく。
自分たちの世界を取り返すべく飛彩は右足に滾る力を解放し、紅い衝撃波で観客席ごとヴィランたちを薙いだ。
「なっ、あいつは何だ……何なんだァ!?」
一方的な殺戮ショーが始まると期待していたヴィランたちはまさか自分たちが狩られる側になるとは思ってもいなかったようで粉砕された建造物から蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
飛彩を映していた揺らめく炎も消え去り、どこにいるのか判別できない恐怖にヴィランはさらに混乱する。
「おい」
崩れた実況スペースに挟まっているヴィランへと飛彩は大地に罅を作りながら歩んでいく。
実況していたヴィランは声を失い、ただただ残虐な王を見上げるしか出来なかった。
「異世への入り口はどこだ? ここの親玉がいねぇなら乗り込んでやるからよ」
「か、観客席の方に……」
「そうか、ありがとな」
そのまま右脚を振り上げ、真紅の断頭台が落とされようとした瞬間。
轟音と共に瓦礫と化していた観客席が弾け飛ぶ。
散弾のように飛来する破片を躱した飛彩は身を翻して開けた場所へと着地し、全方位を警戒する。
「援軍か」
黒い砂埃が舞う中から闊歩する一人のヴィラン。
明らかな実力の違いに目的の実力者がやっと現れてくれたと目を細める。
異世の案内人が必要になると考えていた飛彩は少しでも情報を手に入れるために上位のヴィランを求めていたのだ。
「遅かったな。クソみたいなゲームだったんでよぉ、つまらなくてぶっ壊しちまったぜ」
「ふふっ、行儀の悪いお客さんだ」
遠くで聞こえていた声は一瞬にして飛彩の背後へとその音源を変える。
「!?」
驚きつつも右脚の回し蹴りで背後を斬り裂く。
しかしそれは硬い岩盤にぶつかったかのような錯覚と共に止められた。
「なるほど。面白い人間だねぇ〜君」
ヴィランを軽々と破片に変えた攻撃を簡単に受け止めた存在に兜はなく、柔和な笑みを浮かべる人物の視線に射抜かれる。
「人間……!?」
「やだなぁ。そんな弱っちい生き物じゃないよ」
腕と足で鍔迫り合いを続ける飛彩と人型のヴィラン。
必死な表情の飛彩に対し、ヴィランは薄ら笑いを浮かべる余裕がある。
そのヴィランは金色の髪を短く纏めており、いわゆるおかっぱ、もといショートボブにまとめている男のようだった。
飛彩と変わらぬ背丈だが物々しい重厚な鎧は重戦士と言うべき様相だ。
ただ、幼さ残る顔立ちのヴィランが纏うにはあまりにも不釣り合いで背伸びをしたいような印象をどうしても持ってしまうだろう。
鎧の下がどうなっているかは想像出来ないが飛彩と同じ少年そのものだろう。
暴れに暴れた飛彩に対し柔和な笑みを浮かべ続けるヴィランは目尻も口角も上げて楽しそうな雰囲気を崩さない。
「で、君は何をしに来たの? ここで死んだ奴に友達でもいた?」
旧友に話しかけるような感覚で言葉を投げてくるヴィランに対抗しようと足に力を込めるも、山を押そうとしているような不動の重圧に抗うことすら許されなかった。
「ぐっ……!」
攻撃を受け止める傍ら、左手の人差し指を唇に当てて考え込む仕草を見せるヴィラン。
すると何か思いついたのか青い瞳を輝かせ、飛彩の足を無理やり地面へと下ろす。
「何っ!?」
「まさかとは思うけど、逆に侵略しようとしてた? だとしたら無理だよ〜、そんなへっぽこなキックじゃ」
挑発の意志など微塵も込められていなかったことが尚更飛彩の怒りに火をつける。
下ろされた脚を引き抜き、ヴィランの頬へと音速に近しい速度で蹴り込む。
「そのまさかだよボケが」
ワザと外した蹴りだが、ヴィランの頬から黒い血が滴る。一瞬だけ驚いたように澄んだ青い瞳を広げる。
「——君、名前は?」
「隠雅飛彩だ。覚えとけ童顔野郎」
怒りと笑顔。対照的な二人は纏う気迫すら真逆のようで、剛の飛彩に対して柔のヴィランと行った様相だ。
未だに顔の脇へ伸びている飛彩の足へ、一撃のお返しと言わんばかりに飛び乗る。
重さを感じさせない無重力のような動きで飛彩の顔面を優しく爪先で撫でる。
狙いがわからず困惑した刹那、後方へ引き摺られたように吹き飛んで転がっていった。
砕けていた瓦礫をさらに細かくした飛彩は唾を吐きながらすぐに立ち上がる。
「テメェ……」
「僕はリージェ。リージェ・ワンダーディスト」
未だににこやかな笑みを崩さないリージェ。
初めて相対した人間のような名前を持つヴィランに、ギャブラン以上の底知れなさを感じさせられる。仮面のように張り付いた笑みが闘志も実力も何もかも隠すのだ。
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