【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

鈍感なアイツ

公開日時: 2020年9月7日(月) 00:03
文字数:1,872


——翌日。


「おーっす、私も一緒にご飯食べていい?」


「構わねぇ。食いもんを上納してもらうけどな」


「あはっ、そんなことだろうと思っておにぎり多めに作ってきたんだー」


「あ〜? 俺は梅干し一択だぜ?」


「へぇ〜、気が合うじゃん!」



「「って、おかしいでしょぉ!」」



 机を突き合わせていた蘭華とホリィが既視感のあるツッコミで勢いよく立ち上がる。


「うるせぇな。飯くらい静かに食おうぜ?」


 片耳を塞ぎ、気だるそうな顔をしながらおにぎりを食らう飛彩。

その飛彩を満面の笑みで見つめる翔香。

恐れていた事態が起きてしまったと、蘭華は先日に引き続き崩れ落ちる。

もう飛彩を天然ジゴロと認定した方が気が楽かもしれない、と小さくため息をついた。


「女の子の友達ばっかりで羨ましいですねぇ〜飛彩くんはっ」


「そーねそーね。クラスの男子からどういう目で見られてるのかわかってないみたい」


 呆れながら嫌味をつぶやく二人だが、自分よりも弱いクライスメイトなどに何を言われたところで歯牙にも掛けない飛彩ゆえに心に刺さることはなかった。


「そういえば飛彩くん、肩の怪我は……?」


肩に空洞ができたというのに平然と翌日学校で会うことになるとは思わなかったホリィは素直な感想を述べた。


「塞がったよ」


「へ〜、ってありえないでしょ!」


 一番怪我の具合を気にしていた翔香は目をこれでもかと見開き、褐色に染まった顔を飛彩の肩に近づける。

恐る恐る触れてみると、無傷であることが確認できたため腰を抜かしたように椅子に座り込んだ。


「本当に治ってる……」


「あんなのかすり傷だ、気にすんな。それにお前のせいでも何でもねぇ。全部自分で背負い込めるほどお前は強くねぇんだからよ」


 トゲのある言い方にむっとした翔香だったが、それが自分に余計な負い目を感じさせない気遣いだと一方的に理解する。

それに寄りかかるように甘えてはいけないとは思いつつも、顔の緩みを止めることは出来なかった。

肩にもかからないほどの黒い短髪が揺れる。


「ありがとね、隠雅」


「——いくらでも守ってやるよ」


 その言葉に頬を赤らめる翔香と、青筋を浮かべる蘭華とホリィ。

その様子も気にかけず牛乳をすすりながら言葉を続けた。


「エレナさんも熱太も刑もジーニアスさんも……ホリィも蘭華も、な」


気難しい顔を浮かべていた飛彩がやっと笑顔をこぼす。


「みんな俺が守ってやっからよ」


その言葉に肩を落とす翔香。ホリィと蘭華はやれやれと言った表情を浮かべる。


「そうよね、飛彩はそういうやつよね」


「翔香ちゃんもこちら側の仲間入り、ですね……」


「ち、違うよ!?」


「なんかバカにされた気がするんだが……?」


 いつもより賑わいを増した昼休みだが、蘭華の頭の片隅を支配し続ける不安と闘っていた。

いくら何でも傷の治りが早すぎる。

詳しい状況を徹夜でまとめあげてメイに提出している。

きっと飛彩の世界展開リアライズの秘密を究明してくれるだろうと。


これからはより暴走しないように自分が飛彩を見張らねばと決意を強めるのであった。



一方、メイの研究室では黒斗に対し、飛彩の世界展開リアライズについてまとめたものを報告している。


「——つまり、ヴィランの悪エネルギーを利用して戦えること以外、全然わかりませんッ」


蘭華の期待とは裏腹にメイはお手上げ状態だった。再び目の下に隈を作ってしまうメイは倒れこむように机に突っ伏す。


「人体に影響を及ぼす回復力……蘭華の言うようになんの代償も無しにとは思えんな」


「瞬時に変身出来る能力も踏まえて他の方法で調べてみるわ」


「——おい、前にも言ったが……」


「わかってる。無理はしないから」


 そう話しながら自分の端末とにらめっこするメイ。

間違いなく無理をすると理解した黒斗はため息をつきながらメイの研究室を後にしようと歩き出した。

栄養ドリンクだけではなく、無理矢理にでも有給を取らせるしかないかと頭を悩ませて。


「あ」


「何だ?」


「飛彩のこと、バレないようにしてるよね?」


「もちろんだ。努力はしているが……限界はあるだろう」


「——あれだけ目立てば、そうよね」


「特に『アイツ』にはバレたくないんだよね〜。そっちは任せるよ? 『アイツ』にバレたら飛彩を守る研究どころじゃなくなっちゃう」


 今まで見せたことのないような真面目な声音。

それに呼応するように黒斗も切れ長な瞳をさらに細める。


「——わかっている」


敵はヴィランだけではない。より厄介なものがいるとメイは嘆息した。


「普通の学校生活は、私たちが守ってあげなきゃね」


「ああ。その通りだ」



二人の心配をよそに魔の手は着実に忍び寄っていた。ただ、それを知るすべを誰も持ち合わせていないだけだった。



読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート