【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

変身能力、消滅!?

公開日時: 2021年4月22日(木) 00:11
文字数:2,106

「そ、そんな化物が……侵略に乗り出すなんて、どうしたらいいの?」


 ヒーロー数人がかりでの敗北、超常的な存在の顕現、その全てが人類に勝機はないと語っているようで蘭華は今度こそ立ち上がる気力を失った。


 これもメイが語ったことが信じるに値するものなのだと裏付けてしまっている。


「世辞など気味が悪い。それで、私に何を交渉しようというのだ……創造の悪『クリエメイト・ワンダーディスト』よ?」


「ふふっ、その名前で呼ばれるのも私も久しぶりだわ」


 明かされるメイの真名も二人の耳にはなかなか通らない。

 オーロラのような緑がかった展開力を波動にしてヒーローに与する面々を次々と吹き飛ばして自分たち以外を展開域から遠ざけた。


 それでもすかさず近づいていく飛彩だが、もはやその領域に一歩を踏み出す気力がなくただメイとフェイウォンの会話に耳を澄ますことしかできない。


「貴方、こちらの世界に興味がなかったから異世を作り上げたんでしょ? 全ての生物から悪意を奪い去ったのが何万年前だっけ?」


「女々しく数える趣味などない。確かに悪の出涸らしとなったこの世には興味がなかった。故にお前にもくれてやったような記憶があるが……」


 始祖であるが故に異世そのものの創造神であるという事実に、この男を倒せば全てが終わるというのにメイとの一件がどうしても飛彩から戦う意志を奪う。


 対する蘭華はこの世に興味がないのであれば、なんとか戦況を盛り返させるかもしれないと淡い期待を人類に抱かせる。


「気が変わった」


「え?」


「この世はもはや異世と同じく悪意に満ち溢れている。すべての悪を持ち去ったと思ったが、小さな火種がここまで大きく育つとは」


 ヴィラン以外にも人類は戦争を続け、利益のために友愛の心を忘れている存在などごまんといる。

 消え去ったはずの悪の種は長い年月をかけて花ひらいたのは誰しも想像出来ることだろう。


「悪を抜き取っても生ある者に悪の芽は復活した……世界の真実は悪! あの世とこの世を重ねる時がきた」


 何よりも悪を愛する存在。

 さまざまな定義があるのかもしれないがフェイウォンの求めるものこそ悪であり、悪の世界なのだろう。


 その根源であるフェイウォンが悪のレッテルを世界に貼ったのだからもはや善は尽きてしまったのかもしれない。


「ふ、ふざけるな! 誰がそんなことを……」


「まだ喚くか」


「黙りなさい、君もわかっているでしょう? 人々を守るはずのヒーローが利権に囚われて護利隊を奴隷のように使ったこの作戦を」


「それは……」


 自身が告げようと思っていた人にとって酷な真実をメイが言い放ったことでフェイウォンはかすかに眉を動かす。

 人の世で腑抜けたかと思えば、冷徹な眼孔を仲間だった者に放てているではないか、と。


「こんな汚い世界になったならば、創造の悪として作り替えるまで」


「さ、させるか……!」


「熱太……みんな!」


 二人のヴィランを囲むように次々と倒れていたヒーローが起き上がる。

 そこでメイは頭部の鎧も発生させて姿をよりヴィランへと近づける。


「グッ……何体も何体も超常者が現れようと関係ないね。僕らはヒーローとして戦う」


「はい、それが……ホーリーフォーチュンとしてなすべきこと、ですから」


 もはや変身が解けてしまったホリィたちはただの一般人に過ぎない。

 それでも立ち向かおうと世界展開ブレスを向けるのだから、やはりヒーローとは姿形ではなく心ではないかと飛彩の胸を強く打つ。


「みんな……よし! 俺がみんなを守……」


「茶番ね」


 その一言とともに世界展開ブレスは内包していた能力ごと無惨に砕け散った。

 ただの変身道具だけが壊れたのではなく、ヒーローに変化させてくれていた概念的なものごと砕け散ったと全員が知覚した。


「え、う、嘘……」


「この世にいる全てのヒーローの世界展開を無力化した」


「嘘だ、そんなわけが!」


 すかさず飛彩が能力を発動しようとした刹那、目にも止まらぬ速さでメイは地面へと叩きつける。


「ガハッ!?」


「世界展開は私が作ったもの……創るも壊すも創造者たる私の特権」


 瞬間の攻撃を見抜いていたフェイウォンはただ成り行きを見守るだけだ。


「ハハッ、クリエメイトよ。腑抜けだと思ったことは撤回しよう。それで自分の手を汚さず、この世界を守らせていたわけか」


「……まあ、そんなところよ」


 秘密裏に行われていたメイによる侵略。

 他のヴィランを寄り付かせず自分だけの世界を手に入れようとしていたフェイウォンにも近い我欲に叩きつけられたままの飛彩は一筋の涙を流す。


「嘘だ……嘘だって言ってくれよ、メイさん……」


「こうなったら仕方ないわ。私は私の計画のために生きるんだもの」


「優しかったメイさんを返……せ……」


 顔を離したかと思えば後方で震えている蘭華目掛けて飛彩を思い切り蹴り飛ばす。


「グハァ!?」


「私はヴィランよ? 優しさなんてあるわけないじゃない」


 ヒーローたちにも波及する動揺。

 二度と変身することが出来ないという絶望感。

 飛彩でも勝てなかったヴィラン、そして裏切り。


 人類に残された道をどんどんと打ち壊していく二人のヴィランが邪神よりも恐ろしいものに見えて仕方なくなっていく。


「してクリエメイトよ。貴様の旧友に付き合うのも飽きた……」

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