【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

アンブレラ・ランサー

公開日時: 2021年2月22日(月) 00:03
文字数:2,153

「こんにゃろ!」


 反動で反転し、素早く着地した翔香は地面で左足を軸に低い姿勢での足払いでララクの両足を刈り取った。


「あら?」


「今度こそ!」


 回転の反動を生かしたまま起き上がった翔香の回し蹴りは宙を待っていたララクの傘に再び防がれてしまった。

 攻撃の勢いで飛んでいったララクは傘を上に向けてゆっくりと地面に降り立ち、やっとのことで鋭い目つきに変わった。


「ララク。考え事してるし、不機嫌なんだけど?」


「じゃあさっさと帰ってよ、ね!」


 素早い脚撃を巧みに傘で防御するララクは微量ながら攻撃を受けるたびに、展開がこそぎ落とされるような感覚に苛まれた。


「これって……?」


「そこっ!」


 乱れぬ連続攻撃の合間を縫うように飛んできたのは細い長剣で突き刺そうと飛び込んできたエレナである。

 たまらず飛び退いたララクだが、何とエレナの持っていた長剣は分解してララクを追っていった。


 俗にいう蛇腹剣というもので、刃節の中にワイヤーなどをが入っていて等間隔に分離して鞭のようにして中距離の戦いをすることが出来る。


 元々鞭で戦うエレナの戦い方を反映したものなのだろう。


「うーん、やっぱりおかしいわねぇ?」


 傘を閉じ、片手剣のようにして二人の猛攻を迎撃するララクが違和感に眉を潜める僅かな隙を熱太は見逃さず、一気に斬り込んだ。


 駆け抜けながらの切り落としは正中線から一切ブレることがなくララクの体へと打ち込まれるも、機敏に反応された上に傘を両手で握り直したことで力強く鍔迫り合う形になる。


「言ったわよね? ララク不機嫌だって」


「それがどうした?」


「貴方で憂さ晴らししちゃうから!」


 体勢としては明らかに上から覆いかぶさるようにしていた熱太が明らかに有利だったが、片膝をつきかけていたララクが跳ねるだけで形成は逆転する。


 しかし、戦いにきたのは熱太たちだけではない。


「撃てッ!」


 高らかに叫ぶ部隊長は護利隊全員に個人領域(パーソナルスペース)を発動させて、四方八方からの銃撃を繰り出した。


 空中で逃げ場のなくなったはずのララクは光弾をヒールから射出して下がっていた熱太へと突貫する。


「ぐぅっ!?」


「さすがに仲間には撃たないわよね?」


 互いの得物がぶつかり合ったのは一瞬で、ララクが力を込めて傘を薙げば熱太も同じように吹き飛んでいく。


 廃墟の住宅の壁に叩きつけられてやっと止まった熱太は肺から痛みにむせぶ息を吐き出す。


「まだまだぁぁぁ!」


 気合で体勢を立て直し、ララクへと無数の閃斬をこれでもかと叩き込んでいく。

傘を開いて攻撃を受け流していくララクだが少しずつ削られていく展開が錯覚ではないと気づき、飛び退いて距離を取る。


「その武器、何かあるわね?」


「やはり気づいたか。この剣やエレナたちの武器にはお前から展開力を奪い去る能力がある」


「へぇ〜。そんなものが?」


 メイの開発したのは略式展開能力だけではない。

 それを補助するように敵の展開力を千切り取り、自身の展開発動のエネルギーに変換して展開にかかる時間を補助する武装まで開発していたのだ。


「戦っても変身、私が逃げても変身……便利な道具ね」


「では、遠慮なくお前の展開をもらうぞ!」


 打ち合いは相手の力を増すだけ、と理解したララクは距離を取り策を考え始めるが飛彩の一件で心に靄がかかっているララクはあまり集中力を発揮出来ていない。


「隙見っけ!」


 意識の狭間を縫うようにして再び割って入った翔香の飛び蹴りが飛来する。

 しかし頑強そうなヒールを履いている相手に一撃も入れることが出来ず、黒鎧のドレスが靡きながら紙一重でその全てを無意味な攻撃へと変貌させてしまう。


「重そうな鎧着てるくせにぃ!」


 回避行動が終わった瞬間を狙い、力を込めた前蹴りが顔面に向かって一直線に飛び出した。

 傘をさしている右手とは逆の方向から打ち込み。避けられるはずもなかった脚撃が黒い貴婦人のような手袋でいとも簡単に防がれてしまった。


「か、硬ったぁ!?」


「ララク、それが嫌いだから頑張ってこういう鎧に改造したのよ?」


 軽量化しつつも防御力は折り紙付きだと語るララクに翔香はどんどんと熱くなり血が上っていく。

 強化スーツのおかげで人間以上に動けるが、ヒーローより強いわけではない。


 いつもと同じような感覚で戦えてしまっていることが逆にフラストレーションを貯めていってしまっているのだ。


「このぉ〜!」


 逆に装甲の薄い拳部分での攻撃を放ってしまうほどに翔香は頭に血が上ってしまった。

 たかる虫に嫌気が差したのか、ララクは傘を畳んだ状態に戻しカウンターの要領で突撃する軌跡へと置く。


「しまっ……!?」


 腕を一本犠牲にする未来、それが翔香の脳裏を席巻した瞬間に後方から刃節が伸びたエレナの剣が翔香の攻撃に隠れるようにしてララクの傘へと迫っていた。


「あら」


 拳よりも先に傘に巻き付いたエレナの剣により、ララクは攻撃を取りやめて傘を開いて後方へと距離をとった。


「今だ! 射撃部隊!」


 すかさずそこへ向けられる不可視の部隊からの銃撃に対し、ララクは傘を使ってふわりと浮きながら廃墟街を駆け抜けていく。


 崩れた翔香から引き離すように熱太と護利隊の一員が足音もたてずに追いかけていった。


 それを見送った翔香の元にエレナが駆けつけ、軽く頭を小突く。


「熱くなりすぎよ。私たちはただの人間なんだから」


「……ごめんなさい」

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