【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

策士

公開日時: 2021年5月20日(木) 00:18
文字数:2,282

「はぁ!」


 小銃の突撃に対してユリラは開いた道を再び元に戻そうと住居を動かし始めるが、すぐに頭上から飛来する弾丸に再び意識が割かれる。


「その射撃能力をフェイウォン様のために使うなら助けてあげても良いんだけど?」


 銃弾は再びユリラを避けて地面に刺さる。その間も形はユリラ目掛けて走っていたが、距離はまだ百メートル近く離れていた。


 勧誘するにも仲間をいくつか殺してからにしようと壁の移動を早めた瞬間、ユリラの足元に刺さった弾から煙が噴出する。


「目隠し!?」


 煙による視界不良は互いにもデメリットになるが、構わず小銃による掃射が住居の隙間を縫って跳ね返りユリラの頭上へと再び降り注ぐ。


「くっ!?」


 今度は弾道を操ることなく展開力でシールドを作り上げて弾き返していく。


 音でそれに気づいた春嶺は険しい表情となりながら展開力を封じる能力もない通常の銃弾が込められていたマグナムも数発追加した。


「鬱陶しいわねぇ!」


 それとほぼ同時にユリラが煙を吹き飛ばす。

 音源へと飛んできていた弾丸を視認したことで目を見開くが、引き続き展開力で硬質化した鎧で防がれてしまった。


「はあぁぁぁ!」


 それを援護しようと刑が乱射した世界移動の亀裂をも掻き消す銃弾はあえなく地面に吸い込まれていった。

 ただ、それらの攻防により壁が迫る道を刑は通り抜け、一騎討ちの戦場へとさらに突き進んでいく。


「苦原刑、攻撃はどうだった?」


「僕のは指揮下に置かれたみたいだ」


「展開下にあって、見えるものじゃないとダメかと思ってたけど違うみたい」


 左右に移動しながら小銃を放ち続けるものの、刑の攻撃は手をかざされるだけで地面へと落ちていく。

 弾切れになったことで腰に装備していた拳銃を突きつけるも、残り少ない弾薬のせいで狙いをつけたまま攻撃に二の足を踏んでしまった。


「残る武器は?」


「ただの拳銃だけだ。後は近接武器のみ。蘭華ちゃんに追加物資を飛ばせないか聞いてみたいところだね」


 一時的に通信を二人だけに切り替えているのは、苦戦する様子を届けないためだった。ユリラを前にほぼ丸腰の刑が冷や汗を流した頃。


「煙は払えない、ただの弾丸は操れない……つまりその女は、物に含まれてる展開力を使って指揮してるんだ」


 春嶺のひらめきが刑にも伝播し、装備していた仕込み槍を一気に引き伸ばして突貫する。

 それを援護するために小銃の弾薬を通常のものに切り替えて銃弾の雨を降らした。


「つまり展開力がない今の僕なら……当たる!」


「生身の人間なんて遅過ぎてあくびが出ちゃうわ!」


 ユリラの心臓部目掛けて放たれた槍撃が弾かれる寸前、一直線だった槍は三節棍のようにパーツが分かれていく。


「遅かったんじゃないのかい?」


 予想外の変化についていけなかったユリラの足元へと思い切り仕込み槍を振り抜く。

 外れかけたパーツは一瞬で元に戻り、なぎ払いがユリラの膝裏を穿った。


 その一瞬でもバランスが崩れれば、春嶺が空に用意していた跳弾が退路を断つように鎧へと減り込んでいく。


「ぐああっ!?」


 美しい顔にも擦り傷がつき、薄い鎧はへこんで肉体へと直接衝撃を与えた部位も存在する。


「すまない。女性の顔に傷をつけて」


 そう口では言いつつも、振り払って遠心力が乗った槍をさらに回して渾身の振り抜きをユリラの顔面へと叩き込んだ。


「がぐっ!?」


 ホームランボールのように吹き飛んだユリラは転がりながら刑から離れていく。

 骨と肉が砕ける音が響いたことから、かなりのダメージが期待される。


 現に反撃を恐れて追撃しなかった刑だが、ユリラは微動だにせず髪を乱れさせたまま黒い地面と抱擁していた。


「やったな! 春嶺くんが敵の能力を暴いてくれたおかげだ」


「苦原刑の度胸のおかげだ。そういうキャラじゃないだろうに」


「この世界に観客はいないからね……熱太くんとホリィちゃんたちに合流しよう。蘭華ちゃんを単独行動させるのも不安だ」


 その通信に対しては数秒経っても返事はやってこない。

 不審に思った刑が春嶺の名を呼ぼうとした瞬間、倒れていたユリラの左腕が蛇のように跳ね上がる。


「何っ!?」


 展開力のオーラで操り人形のように動かされた一撃に予備動作はなく、リーチも大きく伸びていた。

 ユリラは以前倒れたまま故に気づいた時には遅く、今度は刑になぎ払いが直撃する。


「ぐがっ!?」


「人間相手に不意打ちなんて最悪ね……でも、いいわ」


 護利隊の強化スーツの防御力を一瞬で溶かした左腕を軸に、ユリラはゆっくりと立ち上がる。

 ありえない方向に曲がった首を元の位置に戻す時に響く不快な音に、うずくまる刑は思わず瞳を閉じた。


「少なくとも侵入者はあと三人いるのね」


「な、なぜそれを……」


「私の能力を見抜いたのは褒めてあげる。元々展開力が含まれているものを私の指揮下に置くっていうね」


 そのまま歩み寄ったユリラは刑の前髪を掴み上げ、無理やりに持ち上げた。

 苦悶の声が絞られる中、春嶺からの援護は未だにない。


「展開力のない貴方たちや煙とかは操れない……だけど私の展開力を無理やり入れ込めば別よ」


「質問には答えてくれないのかな?」


 痛みに歪みつつも嘲るようにユリラへと言葉を吐き捨てる。その様子に飽き飽きしつつも、美しく整った顔を刑へと近づけた。


「その通信機とやらは展開力で包んだ。貴方の声は私にだけ届くし、相方の声は届かないわ」


「まさか……」


「ええ。一回油断させれば情報を吐いてくれるかなと思ったのよ」


 そのままユリラは無表情なままに刑の顔面を思い切り地面へと叩きつける。

 受け身の取り用のない攻撃に視界が火花を散らした。



「顔への攻撃なんて展開力で治せるけど……お返ししないと気が済まないもの」

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