「私が本当に欲しいのは……!」
再び銃口を蘭華に向けようとゆっくりと腕を上げていく。
「そうだ! やれ! 春嶺! 私のためにそいつらを倒すんだ!」
その言葉に対して春嶺行ったのは天高くむけた銃で空へと波動を放つ不可解な行為。
「私が欲しいのは偽りの絆じゃない! この人たちのような、真に思い合う絆なんだ!」
「あなた……」
「バカな……春嶺! 何をやっている私に従え!」
地下の操縦室のモニターや機材が音を立ててショートする。
火花を散らし、爆煙をあげたそれのせいで英人は部屋へと投げ出された。
「何故だ……何故だ春嶺ぇ! お前の望むものは全てくれてやった! ならばお前も私に尽くせ!」
もはや届かない通信機へと暴言を吐き続ける英人。
それに引き換え、春嶺は清々しさをも感じさせる青い瞳と共に蘭華へ手を伸ばした。
「立てますか?」
「……う、うん」
拍子抜けした蘭華だったが、未だに暴走している飛彩は空気を読まずに二人へと右足を突き出しながら飛びかかった。
「これも、わかってよ」
空に撃った波動が展開とぶつかり何度も反響し、雷のように飛彩の右足を地面へと沈めた。
「グアッ!?」
しかし、距離をとるための峰打ち程度の威力だったようで、飛彩は再び四足歩行になって蘭華と春嶺を警戒する。
「彼を止めましょう」
「あ、ありがと……私に負けず劣らずのお人好しね?」
「償いたいことがいっぱいあるんです。まずは……貴方たちを救いたい!」
誰かに手を握ってもらうためには、誰かを心から信じて自分も手を差し出す必要がある。
今まで春嶺は愛を受け取ることだけしか考えない子供だったのだ。
だからこそ自分を守ろうとした蘭華を、蘭華が救いたい飛彩を助けたい、そう考えて。
「私は今度こそ変わる……ヒーローでも跳弾響でもない!」
二丁拳銃の型に戻った春嶺は銃口を飛彩に突きつけて高らかに叫ぶ。
「私は! |天弾《てんだん》|春嶺《はるみね》だ!」
計算し尽くした射撃は動きを抑制するように跳弾した。
飛彩の周りを掠めるように跳弾し続ける波動はまさに檻となる。速度を潰すような攻撃はまさに最大の防御となり飛彩の動きを封じた。
「今です! 護利隊の人!」
「私は蘭華! 弓月蘭華! 覚えておいてよね!」
落ちていたインジェクターを拾い上げ、飛彩へとインジェクターを搭載した特殊弾を放つ。
怒れる飛彩はその効果に気づいたのか春嶺の波動に穿たれることも気にせず、それを弾く。
「あっ!」
戦いに天賦の才があったのは飛彩の方だった。
インジェクター弾を通すために出来た僅かな檻の隙間へと攻撃を放ったのだ。
最低限の負傷のまま赤き残虐の王は咆哮を上げ続ける。
「あれはもう……|世界展開《リアライズ》に支配されているな」
再び蘭華の耳へ届く通信。黒斗は恐れと諦めを含ませた声音でいた。
司令官として命ずべきは飛彩の処分。しかし彼もまた人間ということだ。
「……蘭華、撤退も増援も命じないが……天弾春嶺と組んで飛彩を救え」
「言われなくてもよ! このパワハラ司令官!」
粗暴な言葉遣いをする飛彩の癖が感染したかと嘆息する黒斗は、司令室で祈ることしか出来ずに全てを部下に任せる事しかできない己を恨んだ。
「頼んだぞ」
そこからは再び春嶺と飛彩の高速戦闘が繰り広げられる。
今度は春嶺と蘭華が組んだことにより、背後を気にする必要がなくなった銃弾は再び相手を想定通りの方向へと動かすことができた。
「すごいわ……本当に動く檻ね」
固い容器で守られていたインジェクター弾の安否を確かめた蘭華は銃への装填をやめて強く握りしめる。
「でも、こうなったら直接打ち込むしか……」
「ぐっ……!?」
少しだけ戦場から目を逸らしただけの蘭華は絶句した。
追い詰めていたはずの春嶺はローブを引き裂かれ、傷だらけの姿を晒し蘭華の近くへと転がってくる。
「て、天弾!」
「隠雅飛彩……ますます速くなってる」
乱雑に口を拭いながら立ち上がる春嶺はロープの中に隠していた武装も剥ぎ取られ、アンダーアーマーと二丁のリボルバーのみという簡素な装備となってしまっている。
「そんな……」
この状況で直接インジェクターを打ち込むための隙を作れというのは非情な願いになった。
蘭華が口を閉ざしかけた瞬間。カクリが春嶺にも聞こえるくらいの大声を込めて通信機に叫ぶ。
「蘭華さん! 天弾さん! 私が蘭華さんを運びます! どうか隙を!」
「うわぁッ! 大声出さないでよ!? 私が説明するから!」
縦横無尽に飛び回る飛彩を避けつつ、再び春嶺と合流する蘭華。
カクリの存在を明かすと厄介なことになると踏んでいたが故に、具体的な部分を伏せて春嶺に作戦を提示した。
「天弾、私の瞬間移動の機能を使って飛彩の背後をとる。上手くフォローしてもらえるかしら?」
「——生身の貴方がそんな危険を負う必要が?」
「ある」
二人がかりの牽制射撃をしながらの会話は戦場にありながら、教室で会話する女生徒同士のようだった。
「本当に隠雅飛彩が好きなのね」
羨望を言葉にする春嶺は跳弾の計算をしつつ微笑んだ。
「あんなのになっても好きで好きで仕方ないの。絶対に死なせたくない」
臆面もなく告げるのも飛彩が暴走し、何も理解出来ていないからこそだろう。
通信機の向こうでカクリも愛の丈をを叫んでいるが黒斗がすぐにやめさせた。
「貴方のためを想って足止めに留めていたけどそれはやめにします」
「本気で当てにいくってわけね?」
「それくらいやって、やっと足止めできるはず」
ほんのまばたき程度、迷った素振りを見せた蘭華だったが意を決して春嶺の案に乗ることを決める。
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