最後の奪還作戦まで残り数日。今回の作戦からヒーローは外される。
隠密作戦の重要性はわかっていても熱太やホリィたちは胸のざわめきを抑えられない。
特にララクやリージェとの戦いで危険性を認知しているホリィは世界展開抜きでの戦いにあまり賛同できていなかった。
本部の休憩所でその知らせを聞いたホリィたちは抗議の気持ちが湧き上がりどうしようもなくなっている。
「熱くなったってどうしようもないでしょう」
それを冷静に収めたのは足を組んで椅子にもたれかかっていたエレナである。巻き髪を触りながら立ち上がろうとする熱太を言葉だけで制するエレナこそレスキューワールドの裏ボスと言えよう。
「しかし、飛彩や蘭華だけでは……!」
「この際だからはっきり言いましょう。私たちは世界展開できなかったただの護利隊の平隊員以下よ」
彼らを蔑むわけじゃないけどね、と言葉を続けるエレナに対し翔香は口を噤む。
事実ヒーローは守られなければ変身することは出来ないという前提がホリィたちの胸を穿つ。
「待っているとき、何をすればいいのか……考えないといけないわね」
「そんな、こと……!」
「戦う以外の道など考えられん! 俺は訓練しにいく!」
そう言って飛び出していく熱太は訓練場にでも行くのだろう。それを察してか翔香も辺りを気にするような素振りを見せてから走っていった。
「熱太くんはああ言って頭ごなしに言えば平気かもしれないけど……ホリィちゃんは違う、わよね?」
「な、なんのことですか?」
恋する乙女の暴走具合を知っているエレナはただ挑発するだけではホリィが止まらないことを知っている。
飛彩を護るためならば世界展開をせずに潜入までしてしまうだろう。
そしてそれが飛彩たち実働部隊の重荷になることをエレナはよく理解していた。
「まあ、ホリィちゃんには直接言ったほうがいいわよね」
「私が足手まといになると?」
「ええ」
無慈悲な宣告ではあったものの、変身できなければ荷物ということには同意せざるを得ない。
「だから、あなたは飛彩くんの帰る場所でありなさい」
「……エレナさん、一個くらいしか年変わらないですよね?」
「なぁに? おばさんって言いたいの?」
「達観してるってことです、私は……何もせずに待つなんて、どうしても」
「ホリィちゃんの意思が世界を救うなら従うべきよ。でも、正しく判断出来てなさそうだったからお節介しちゃった」
そう言い残して立ち去っていくエレナの後ろ姿を眺めるホリィは自分がどうすべきなのかを考え始めても答えは出ない。
手を出すなと言われても、飛彩を想うと昂る気持ちは止められないのだ。
「飛彩くん……」
悩むといてもたってもいられなくなってしまったホリィもまた部屋を飛び出し飛彩のスマートフォンに連絡を入れる。
しかし通じることのない電話にホリィの足は次第に止まってしまった。
「でも……やっぱり、四人じゃ危険すぎる」
ホリィは純粋に飛彩を心配に思うからこそだが、護利隊のみで行われる作戦というものは確実にヒーロー本部にも禍根を残していた。
未だ護利隊の存在を知らないヒーローもいるものの、ギャブランの大規模侵攻以降、護利隊の組織は少しずつヒーローたちにも浸透していった。
それは飛彩の能力開花によるものが多く、ヒーローを守る存在でありながらヒーローを超え始めたことでヒーロー本部と護利隊のパワーバランスが崩れていることを上層部のある派閥は憂慮している。
ヒーローが本来やるべき仕事だと本来光の存在であるヒーローたちに濃い影が落ち始めていることを飛彩たちは知る由もなかった。
そしてホリィのスマートフォンにも怪しい誘いが訪れることとなる……。
その頃、蘭華と黒斗の作戦立案にも力がこもっていく。
過去の地形データとヴィランの建設技術、さらにララクの過去に見た情報からどのようにヴィランを見つからずに追いやっていくかが昼夜を問わず話し合われていた。
飛彩とララクと春嶺は実戦に近い気迫で拳を交え続けて鍛錬を欠かさず行っている。
「痛ったぁーい! 飛彩ちゃん! 本気で蹴りすぎ! このおっ!」
「ぐぁっ! この蹴りの威力……、お前手ぇ抜いてたな!」
体術の乱打戦に互いの身体には生傷が絶えなかった。
二度とララクと戦わないと思っていた飛彩でも、本機を出さなければ訓練で死んでしまうと一切気を緩めることが出来ない。
「はぁ……二人とも、気合入れすぎ」
そうそうに体術の鍛錬を引き上げた春嶺は狙撃銃を明後日の方向に放ちつつも跳弾で寸分狂わず同じ場所に弾丸を命中させ続けていた。
瞳をあらわにする超集中状態をキープするための訓練ゆえに疲労が溜まりやすく、三人とも高ランクのヴィランと一戦を交えたかのような疲れを最終的には見せるのだ。
「はぁ……はぁ……! 実戦の前に死んじまうぜ」
「やり過ぎの自覚があるなら二人とも落ち着きなさいって」
「春嶺ちゃんは蘭華ちゃんみたいな小言を言うのね! 何だか似てるわ!」
「私と蘭華が似てる? そ、そんなに褒めないでくれ」
「おーい、どっちかっていうと貶されてるぞ」
苦言も聞き入れないほどに頬を染めている春嶺には何を言っても無駄だと思いつつ、飛彩は更衣室へと戻っていく。
ララクがちょっかいを出してこない唯一のオアシスが汗臭い部屋なのかとため息をついて。
「ん……ホリィ?」
ロッカーの中から取り出したスマートフォンに残る着信履歴。
そこでヒーローたちとは作戦が決まってから会ってなかったなと感じた飛彩は作戦の報告がてらホリィに電話をかけ直す。
「もしもし?」
「あ、ホリィか? 悪いな最近話せてなくて」
「うん……あ、あの! ごめん! 私、呼ばれてて……」
何か言い淀んだ後、ホリィは慌ただしさを見せて電話を一方的に切った。
驚く飛彩だが、ヒーローにも何か都合があるのだろうと思いつつも一抹の不安を感じさせられていた。
「作戦前に熱太やホリィ達に会いに行くか……まああの連中なら作戦のこと知ってるかも知れねーし、話しても大丈夫だろ」
守秘義務も何のそのという飛彩だが、心を許している数少ない相手なのだ。
余計な心配などかけたくないと思っているようだがすでにホリィを始めとするヒーロー達には筒抜けの情報なのだ。
その時は追求しようとは思わなかった飛彩だが、のちにこの選択を後悔することになる。
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