無論これは編集された偽りの変身シーンだが、この光景もファン達の心を掴んで離さないポイントである。
煌びやかな変身工程に食いつくのは幼い子供だけなく大きなお友達も一心不乱に画面を見つめていた。
「パパー! ママー! 私このお姉ちゃんみたいになりたーい!」
「うおぉぉ! 新ヒーローの初変身!」
「ふむ。このスカートの長さに逆に清楚みを感じるね」
「一生推す! 俺、ホリィちゃん単推しになるから!」
多種多様な感想が飛び交う中、二人の少年が部屋でだらけながらその戦いを眺めていた。
「なぁ。こんな変身に時間かかっていいのかな?」
一瞬だけ変な空気が流れ、もう一人の少年は嘲笑うように吹き出した。
「お前、本当にこんな時間かかると思ってんの? ありえねぇだろ」
「う、うるせぇな! 冗談だよ冗談!」
だがしかし。
妄言だと一蹴された彼の言葉こそ真理をついているのだ。
今でも可愛らしい変身シーンが続いているが、現実はこうも行かない。
「押せ! 飛彩が親玉を引き付けている間に頭数を減らせ!」
後方に控えていた狙撃部隊が光の柱に群がるコウモリをどんどん撃ち落としていくが焼け石に水のような状態だ。
コマーシャルが開けたことで蘭華はレポーターの準備に戻るしかなく、空からの支援も絶たれた。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ふむ。敵の展開力が高まってきている……そろそろ変身するのか。では腹ごしらえといこう」
眼前にバイトバットが迫ってきたことを確認した飛彩は、そのことよりも杜撰な変身シーンと編集で護利隊の戦いが隠されているのかと思うと腹が立ってしかたなかったのだ。
「やっぱ、ヒーローはいけ好かねぇ!」
牙を剥き出しにするバイトバットに対し、飛彩は個人領域を起動した。
少しだけ敵の展開に対する抵抗力を得るだけでなく、眼前から急に消えることでの動揺を誘ったのだ。
「どこだ!?」
頭を振って包囲網の中を探すバイトバッドを尻目に飛彩は右腕の注入口にインジェクターを突き刺した。
「まだ目の前だよ!」
『注入!』
「何ぃ!?」
渾身のアッパーカットが炸裂し、円形に取り囲んでいた包囲網を崩しながらバイトバッドは転がっていく。
首領が地面を転がされる光景は配下達を動揺の渦の中へ巻き込んだ。
方々に散らばるコウモリ達をハンドガンで撃ち抜きながら飛彩はゆっくりとバイトバットへ歩み寄っていく。
「何だあいつは……どこだ! 隠れてないで出てこい!」
「後頭部にも目をつけておくんだったな」
銃口を突きつけられた感触に流れるはずのない冷や汗を覚えるバイトバット。
高周波を放とうとした瞬間、突き出た口を飛彩が掴み上げた。
「鬱陶しい声出しやがって……ここでぶっ殺してやりてぇところだが、時間切れだ」
「は、はぁ!?」
素っ頓狂な声を出したバイトバットを蹴り飛ばし、テレビクルーの近くまで一気に下がる。
バイザーの中でカウントされていた時間が五分を告げたのだ。
「ちっ……俺がぶっ潰すつもりだったんだがな」
司令部にいた黒斗も安堵のため息をつく。
飛彩の実力ならばヴィランを一人で倒すことも不可能ではないのだが、黒い展開が圧倒的に戦場を支配していた状況で大きさを増していた光の柱が一気に収縮し、弾け飛んだ。
「キラキラ未来は私が決める! 聖なる世界へ! ホーリーフォーチュン!」
黒いバイトバットの展開力が一気に押し返され、パステルカラーのグラデーションが彩られた可愛らしい空間へと一気に変わっていった。
カメラの向こうにいる人々のボルテージも最高潮を叩き出し、視聴率や公式動画の同時接続数がうなぎ上りの状態になっている。
「きたー! あれがホーリーフォーチュン!」
「やばい尊い。尊すぎる……!」
「フィガマと、がらすろいど化決定したらしいぞ!」
「ママ! ホーリーフォーチュンのお洋服欲しい!」
正式な初陣ということもあり、硬い表情は生真面目さの現れということなのだろう。
地面に降りているバイトバットに向かって地面を踏み締めるように進んでいく。
「キィ……遊びすぎたか」
「何を言ってるんです? 戦いはこれから始まるんですよ?」
魔法少女のような見た目でありながら腰を低く落とし、右手を前へ突き出す。
格闘技も嗜んでいるであろうホリィは隙が一切ない構えを見せた。
「もちろん撤退するなら見逃しますが?」
その間も上空からコウモリがホリィ目掛けて飛来しているのだが、カメラに映る前に飛彩や他の護利隊が何とか狙撃しているのである。
誰もが勝手にヴィランとヒーローの一騎討ちだと勘違いしているが、それも飛彩達が横槍を入れさせないようにしているからなのだ。
護利隊としては早く倒してくれ、という感想しかないがお茶の間は最高に興奮している。
狩人として撤退を促されることが何よりも気に入らないのか、バイトバットは激昂して開戦のゴングを鳴らす。
「どいつもこいつも餌のくせに! 調子に乗るんじゃない!」
「分かりあえないのですか……でしたら私は! 私たちの世界を守ります!」
「グダグダうるさい! 俺も本気でいくぞー!!」
方々に散っていたコウモリ達を自身へと呼び戻すバイトバットの狙いに気づいた飛彩はテレビクルーの守りを他の隊員に任せ、一匹のコウモリを掴んで宙を駆け抜けていく。
「俺の目が黒いうちはフルパワー変身なんて許さねぇよ」
群れのところまで運ばせた後は小太刀を突き立て消滅させるだけでなく、他のコウモリの背中に飛び乗って斬撃や射撃を放ちながら、まさに空を駆け抜ける勢いだった。
配下の戻りがおかしいことに気づいたバイトバットは透明な戦士が近づいてきていると察する。
「やつめ……!」
「余計なことは喋るんじゃねぇ」
狙いを定めて発射された銃弾が、バイトバットの舌を撃ち抜いて悲鳴のみしか発せないように作り替えた。
ヒーローの防衛部隊らしからぬ口調と戦い方に、バイトバットは困惑することしか出来ない。
「ゴ、ゴノォォォォォォッ!」
さらに数を減らされたコウモリ達。
万を超える数は気がつけば四分の一にまで数を減らしており、バイトバットにその力を捧げても最大の強化は得られずに中途半端に人型に近づいた歪なヴィランが誕生した。
「何と不気味な……!」
「ビビってんじゃねぇ。他でもないお前が倒すんだからよ」
成り立つはずのない会話を投げかける飛彩。
自分の活躍を見せることができない飛彩はせめてこのホーリーフォーチュンことホリィ・センテイアが守るべきヒーローなのかを見極めることにする。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
その言葉に呼応したかのように飛び出したホリィはバイトパットを地面に叩きつけるビジョンを発生させる。
「な、何っ!?」
いきなり能力の真髄を見せるホリィ。
発生した幻影に向かって身体が勝手に動いてしまったバイトバットはなす術もなく地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを残す。
「ゲバァ!? な、ナニギャオギ……?」
「まだ終わりません!」
ほぼマウントポジションとなったホリィの乱打が余すところなく打ち込まれていった。
どんどんホリィの展開がバイトバットのものを上回り、殴打音が鈍いものからポコッというようなファンシーなものに変わっていく。
「ゲッ!? ゲギャァ!?」
しかし、痛みは最上級のもののようで、バイトバットは真の姿を見せても情けない姿を晒すばかりった。
「すごい! あれがホーリーフォーチュンの能力なのでしょうか!? まるで未来を決めてしまったかのようです!」
蘭華に声を当てているリポーターも興奮が冷めやらぬのか、蘭華の身振り手振りと若干乖離が生じ始める。
映像を見ているファン達は一斉に能力の考察を始めながら自身の見解をネットの海へ放流していく。
「操ってるのか?」
「いや、まるで未来を決めたかのような……」
「何にせよ、今回のヒーローもチート能力だな」
「「「だな!」」」
「いやいや能力だけで言ったら、苦原……」
話は一瞬にして逸れるのもヒーローの力がそれだけ多種多様であるという証左に他ならない。
そこからはガルムの時と同じで形成が逆転することはなかった。
むしろヴィランの形態変化があったことでデビュー戦ながらホーリーフォーチュンは強いという印象付けさせるのに一役買ってくれたようのものである。
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