「人間は恐怖を楽しんでくれると思ったんだけどなぁ……」
不思議な価値観に感じられるのはララクが不思議なオーラを纏っているからなのだろうか。
少なくとも飛彩以外にもララクに対する恐怖感が伝播していく。
「なぁ、そういやララクって、どこの国の……」
「あっ、! 今度はあれに乗ってみたいのだ!」
しかし、雰囲気をぶち壊す笑顔と行動に全員はすっ転ぶ思いになった。
恐怖はあっという間に消え去り、年の離れた妹が好き放題遊んでしまうような感覚に全員の顔に笑みが戻る。
「話聞けよララクーッ!」
「待ってくださーい」
話し込んでいたことも忘れたかのような勢いで走り出すララクを追いかける。
無邪気さを取り戻したララクが彼女の本質であって欲しいと飛彩は願わざるを得なかった。
そこからは遊園地定番の穏やかなアトラクションを全て遊ぶ勢いで場内を遊び回った。
夜の帳が降り始めた夕暮れに乗るメリーゴーランドは、美少女達が乗っていることでさらに幻想的な空間になっていく。
「なんで飛彩ちゃんは乗らないのだ〜?」
ぐるぐる回りながらの質問に答えようともララクはまた回転しながら奥へと消えていく。
一人外で待っていた飛彩はそんな子供っぽいもんに乗れるかよ、と愚痴をこぼした。
「にしても……あいつにビビってたのは、やっぱり俺の精神状態が不安定だったからか……?」
思案するには煌びやかすぎる空間だ、と頭の隅に考えを追いやった飛彩は乗り終えたララク達を迎える。
「面白かったぞ! 丁度いい刺激というものだな!」
「おう、戻ってきたか。日も暮れてきたしそろそろ帰るか? 飯食ってから帰るだろ?」
「ええ〜、もう終わりなのかぁ〜?」
子供のように駄々をこねるララクだが蘭華たちも久しぶりの休暇に満足したようで思い残すことは何もないという様子だ。
「じゃあ今日は帰ってもいいから、今度またボディーガードとしてついて来てくれるか?」
その駄々に対し、飛彩は呆れつつも芽生えた友情を大切にしようと優しく語りかけた。
「おいおいララク。俺はボディーガードじゃねぇが、ダチならいくらでも守ってやる……それじゃあ不満か?」
またキザなセリフを言って、と蘭華は呆れつつもそのセリフに続いていく。
「ちょっと私たちとは、もう遊んでくれないわけ? 友達、でしょ?」
横一列に並ぶ飛彩達に相対するようにしていたララクは無償の愛に似たものを感じたようで目を潤ませながら顔を綻ばせた。
「ララク、とっても嬉しいわ! 飛彩ちゃん達はとっても素敵ね! ずっと一緒にいたくなっちゃった」
歩き出したララクは飛彩達の間を抜けてテーマパークの出口へと歩き出す。蘭華達も踵を返して続こうとした瞬間、飛彩のスマートフォンが鳴った。
「ん? メイさん……悪い、先行っててくれ」
「わかったわ」
歩き出した蘭華達を見つめつつ、耳に端末を当てる飛彩は焦ったメイの声に驚かされることになる。
「飛彩! まだララクはいる!?」
「え……ええ。今から帰るところっすけど?」
飛彩から一歩ずつ離れていく一団は、ララクを筆頭に人の流れに逆らうように歩いていた。
追いつこうと足早になる中で人混みが自分たちを避けるかのように逸れていくことに気づいた蘭華は辺りを見渡す。
入り口付近の広場のような場所にはたった四人だけがぽつんとした様子で歩き続けていた。
「あれ……?」
「向こうでパレードでもあるんですかね?」
テーマパークに来たことを写真を収めるには最高のフォトスポットにも関わらず、人がまるで壁を避けるようにして歩いていく様子に不気味さすら覚えた時。
「ねぇ」
短く呟かれたララクの言葉に三人は肩を跳ねさせてララクを見た。
「ララク、皆のことが大好きになっちゃった。だからこっちにも招待するね?」
その言葉をララクが呟いた瞬間、飛彩とメイの会話と時が重なる。
「飛彩! その子はヴィランよ!」
言葉に合わせて視線を向けた瞬間、そこにはララクと飛彩しかいなかった。
間にいたはずの蘭華達は影も形もない状態になっている。
「ねぇ! 飛彩ちゃんも一緒に行こー!」
口に手を当てて、叫ぶララクは何も変わらぬ様子だった。
長らくヴィランとの戦いに身を置いてきた飛彩だけが感じることのできる僅かなヴィランの気配を除いて。
「ララク!」
駆け出した。
だが、飛彩は迷ってしまう。
絶大な信頼を置いているメイの言葉と自分の直感がララクを敵だと再び警戒している。
「え? ちょ、ちょっと飛彩ちゃん!?」
拳を振りかぶった状態での跳躍。
それは誰が見ても攻撃の意思表示に他ならない。
そんなものを向けられる謂れはないという様子のララクは怯えた表情を浮かべていた。
「っ!」
だからこそ、飛彩は止まってしまった。
先ほどまでのララクの微笑みは嘘ではないと知っているが故に拳が止まってしまう。
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