【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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第5部 4章 〜最後のヴィラン、最後のヒーロー〜

未来確定の力

公開日時: 2021年7月7日(水) 00:14
文字数:2,185

「数分もしないうちにこの異世は狭間へと消える。悠長に戦ってる暇は貴様にはないだろう」


 とうとう蘭華とホリィにも異世崩壊が近いことが知らされるも、二人が示した反応はさらなる動揺ではなかった。


「ホリィ、今しかないわ!」


「はい! 仕組まれた因果律ディサイドタイド!」


 もはや蘭華の放った拳銃は放ったときの射撃音しかフェイウォンの注意を引くことが出来なかった。

 だが、それだけでもホリィの未来確定が周囲の展開力を覆うように発動する。


 部分的に濃くすることで未来確定の能力はフェイウォンの展開力を突き破る一点突破の力を発揮した。


「鬱陶し━━」


 フェイウォンがそれを疎ましく思った刹那、それが仕組まれた思考だと察する。


「よそ見してんじゃねぇ!」


 顎へと炸裂するアッパーカット。

 いつも以上に力を発揮出来たことに、ホリィの「未来確定」が描いたものだと飛彩は感謝して。


「ぐっ……!?」


 分っていても部分的に展開力を上げられてしまえば、避けようのない未来確定は逆に称賛したくなるほどだった。


「いい能力だ。しかし、発動するのに全ての展開力を回さなければならないようだな」


「どうでしょうね、私はまだまだ戦えます」


「おしゃべりはそれくらいにして俺と踊ってくれよ!」


 余計な詮索をさせないために飛彩が会話へと拳で割り込む。


 事実、ホリィが能力を使った瞬間にカウンターの一撃を入れられたら確実に死が待っている。

 飛彩の一撃を確実に入れられるとしても、そう何度も撃つことは叶わないのだ。

 しかし、飛彩、ホリィ、蘭華の意識は言葉もなく完全に直結し、フェイウォンを倒すという意志のままに突き動かされる。


仕組まれた因果律ディサイドタイド!」


 捨身の未来確定が再びフェイウォンを襲い、飛彩の展開弾が直撃する。

 さらに巻き上げられる白煙からもがくように飛び出したフェイウォンへ飛び蹴りを叩き込んだ。


「その程度で!」


 その台詞通り、どれもフェイウォンに致命傷を与えるには足り得ない。

 だが、ホリィに攻撃が向かないようにする執拗な飛彩の攻撃は一方的に続いた。


「こうやって展開力奪い続けりゃ、いつか頂点から引きずり下ろせるだろうよ!」


「その程度で叶うと思うな!」


 鎧と融合したフェイウォンは生身の身体に揺らめく黒いオーラを纏い、戦斧のように拳を振り下ろす。

 対抗するには全力の蹴り上げで、拮抗した威力に両者は数歩分の間合いを取るように弾かれる。


「ホリィ!」


 再び拳銃を連射する蘭華に呼応してホリィが飛彩と同じ白い展開力でフェイウォンの未来を決める。

 もはや蘭華の目眩しなどフェイウォンには眼中もなく、展開力の発動を察知した瞬間にホリィの背後へ瞬時に回り込む。


「目障りだぞ小娘」


「━━小娘で結構だよ!」


 駆け付けたのは涙を頬に伝わせたララク。龍の顎門を模した手甲で側面からフェイウォンを思い切り殴りつける。


「がっ!?」


 未来確定でなくとも充分に隙は作れる、それを証明したララクは追撃を飛彩へと託す。

 ララクの影から這い出るように低い姿勢からの掌底は、目にも留まらぬ速さでフェイウォンの顎、鳩尾、両太腿の鎧を打ち抜く。


「まだまだぁ!」


「私が頂点だと……忘れたか!」


 吹き飛ばされるどころか、飛彩の攻撃を押し返すように前へ出たフェイウォンはそのまま頭部を掴みララクへと投げつける。


「ぐっ!」


「きゃっ!」


 地面を砕く余波が、二人の身体にどれだけの衝撃を与えたかは想像に難くない。


 頂点に立つフェイウォンの攻撃は、全て致命傷になり得るからだ。

 吹き飛ぶこともことも許されず、地面へと叩きつけられた衝撃は鎧の中へ何度も響いた。


「ララク、平気か」


「けはっ、飛彩ちゃん! 早く!」


 二人は痛みを無視し、素早く立ち上がる。

 ホリィへと放たれる展開力の斬撃に対し、飛彩は残虐ノ王キリング・キングの力を動員し白と紅の軌跡を描いた。


「まだまだぁ!」


 未来確定をするホリィを狙う、その先入観を逆手にとったフェイウォンは攻撃の軌道を変えて背後から迫る飛彩へと鋒を突きつける。


 一瞬にして飛彩の眼前に迫る展開力の黒剣に対し、飛彩は物理法則を無視するような跳躍で上へと吹き飛んだ。


「なんだ、今の動きは?」


「ホリィを餌に飛彩を狙うと思ってたわ」


 短く呟いた蘭華は、先ほどの飛彩が投げ飛ばされたの攻防の中でホリィへと耳打ちしていたのである。


「人間風情が私の動きを?」


頂点チャンピオンって研究されるものじゃない?」


 不適な笑みでフェイウォンを煽る蘭華。

 それが不気味な存在に思えたフェイウォンは、二人の少女の信頼関係も嫌悪した。

 もし、今の攻撃で読みを外していたらホリィは間違いなく首と身体を分けられていただろう。


 にもかかわらず、全く恐れを抱くことなく作戦に移すことの出来る信頼感をフェイウォンは理解出来ずに苛立ちを募らせる。


「それに頂点でも目潰しくらいは出来るわ」


 投げられていた手榴弾が放物線を描き、フェイウォンの視界を埋めた。

 蘭華の銃弾がそれを射抜くことで顔面は爆煙に閉じ込められる。


 こんなもので死ぬはずもないが、投げ出された飛彩が着地して深く腰を落とした正拳を放つには充分すぎて。


「そんなに絆が理解出来ねぇか?」


 背中へとめり込む拳の風圧は爆煙を吹き飛ばし、蘭華とホリィをフェイウォンから引き離す目眩しとなる。


「ぐぅっ!?」


 防御の頂点でもあるフェイウォンは威力を完全に殺し切るも、よろけた体勢から反撃を繰り出せなかった。


「そろそろ、なかったことになってもらうぜ! 始祖のヴィラン!」

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