「カクリ、いる?」
「はい」
「まだやれそう?」
一切諦めない姿勢の蘭華にカクリは強く頷くも、黒斗がそれを制させた。
端から見れば自殺行為で間違いない。
「蘭華、何を考えて……」
「止めないでください。私の仕事はヒーローを守ること」
決意を固めた蘭華は転がっていた自分の自動小銃を拾い上げ、壊れかけた強化パーツを外していく。
「あの二人のヒーローを守ります。私も護利隊の一員ですから!」
常に安全に危険な挑戦だが、それを後押しするように司令室へ入ってきたメイが朗報を告げる。
「よく言ったわ。その覚悟があるなら、貴方にこれを託せる」
カクリの作り上げた異空間を通じて一本のインジェクターが蘭華の手元へと落ちてきた。
いつものインジェクターとは違い、澄んだ青色で中の液体は宝石のように輝いている。
「濃縮したヒーローたちの展開力を封じ込めたものよ。これを飛彩に注入すれば、今発動している右足の展開を邪魔できるはず」
「さすがメイさん!」
未だに熾烈な争いを繰り広げている飛彩たちを見据え、蘭華はインジェクターを強く握りしめた。
「私はずっと守られる立場だと思ってたけど……それは違う! 私も飛彩の隣に並んで戦えるように!」
「一人じゃ戦えなくても……カクリも力になりたいんです!」
戦いの渦へと身を投じる蘭華をドローンカメラの映像越しに見つめるメイ。
荒れ狂う厄災に対し、貧弱な意志を持つものなどここにはいない、と強い眼差しを応援として送り続けた。
「飛彩、今君に必要なのは力でも何でもない。隣にいてくれる仲間の存在を自覚することよ。誰も彼も貴方が守らなくていいの。皆貴方が思っているより、ずっと強いんだから」
その願いとは裏腹に、飛彩は荒れ狂う戦いを続けている。
自我は消え去り命を引き裂く衝動だけに突き動かされていた。
「ははっ! 素晴らしい! 春嶺を操る私の反応速度は人間を遥かに上回っているというのに!」
一人地下室に残る英人はロボットのコックピットに乗り込むが如く、操縦席で三人称視点で春嶺を操っていた。
「ますます君が欲しくなった!」
ドローンカメラにより死角のなくなった上に、プログラムで導き出される跳弾の最適解。
春嶺の能力は英人によって大きく引き出されていると言えよう。
「だが! 右足以外は所詮生身! 撃ち抜かれて地面を這うがいい!」
「やらせない!」
まず蘭華が行ったのはドローンカメラの撤去。
小銃で次々とカメラを破壊し、目をつぶしていく。
だが、飛彩が開けた穴からドローンカメラは無尽蔵に湧いて出た。
ヒーロー本部の潤沢な資金に歯噛みする蘭華は弾切れになる恐れから次の手を考える。
「蘭華さん、私が物資を送れば……」
「カクリ、局所的にとはいえアンタはかなり能力を使ってる。援軍も補給物資もダメ。次能力を使うときは勝負を決める時よ」
その覚悟に気圧されるカクリ。実際に蘭華は跳弾と赤き閃光が入り乱れる危険地帯へと身を投じる。
「たしかに私は力じゃ敵わない……だから頭使うのが援護役のやり方でしょ!」
カクリが何度も止めようと声をあげるが、蘭華の覚悟が揺らぐことはなかった。
「目障りな羽虫め! 私の戦いを邪魔するな!」
跳弾しない直線の波動が蘭華へと迫る。
世界展開による波動はカクリの能力で飛ばすことは出来ない。
「ナメないでよね!」
すでに前方へと投げ込んでいた爆弾が地面を砕き、地表を盛り上げる。
誕生した壁を回り込むように蘭華は駆け抜けた。
春嶺の放った波動は盛り上がった地表を砕いて何処かへ飛んでいく。
「アンタより春嶺の方が強かったわ!」
「……なんだと? 貴様、聞き捨てならんな!」
簡単に挑発に乗った英人は二丁拳銃のうちの一つを蘭華へと乱射する。
飛彩への牽制も考えての選択だが、それがどれほど愚かしいものかプライドの高い英人には分かっていなかった。
「二丁の攻撃量に慣れた飛彩のこと、ナメてない?」
不適な笑い声にハッとさせられた英人が春嶺を操縦し、飛彩に目を向けるとすでに目前へと迫って右足を振り上げていた。
「ウォォォォォォ!」
「くそっ!」
すぐさま飛彩へと視線を戻し、波動の出力を上げて攻撃する英人。
飛彩がその攻撃に怯もうが、当たらなかろうが関係ない。その攻撃の反動で後ろに下がり距離を取るためだ。
「ほら、簡単に引っかかった。アンタ本当に頭良いの?」
その嘲笑へと視線を切ると、スタンバトンを構える蘭華が向かってきていた。
宙に跳ぶことで反動による高速移動を叶えていた英人だが、急な方向転換は不可能な状況へと追い詰められている。
二丁の攻撃をやめれば間違いなく飛彩に追いつかれてしまう上に回避移動の勢いが失速してしまうからだ。
飛彩に倒されないようにするにはこのまま二丁の波動で移動するしかない。
だが、それを続ければ背後で待ち構えている蘭華に電流を打ち込まれることになる。
回避の方向を変える一瞬の隙を稼がせない飛彩の猛攻はさらに速度を増した。
戦いの中で掌の上で踊らされたような感覚に英人の顔の歪みが春嶺にも伝播した。
「この私を、コケにしたなぁ……!」
「安全なとこで機械いじりしてるアンタより実戦慣れしてるに決まってるじゃない。勉強しか出来ないタイプでしょ、アンタ?」
さらに煽る蘭華は飛彩と挟撃するように春嶺へと進んでいく。
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