【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

第1部 6章 〜ギャンブリングワールド〜

大規模侵攻

公開日時: 2020年9月3日(木) 00:03
文字数:2,621

 轟く爆音、天へ登る黒雲。この戦いは後に、大規模侵攻として歴史に名を刻むこととなる。

すでに護利隊、市井の人々問わず多数の犠牲者が出ていた。変身が終わり戦えるようになったヒーローはまだ一握りしかいない。


世界展開リアライズ!」


ホーリーフォーチュンと同時期にヒーローとなったドレッドドローガイは自慢の肉体とドレッドヘアーをキメながら変身していた。


「守れ守れぇ!」


「こいつを死なせたら俺たちが死んじまう!」


 黒い海のような敵の展開に足を取られながらもヒーローを守っていく数々の隊員。

数の有利が効いてか、一進一退の攻防を繰り広げている。


「我らはギャブラン様の元に集った精鋭。我らの敵にもなれぬと知るがいい」


 唯一優勢だった数も、時間と共に次々に現れるヴィランズに護利隊は蹂躙され、逃げた者も瞬時に殺された。

ドレッドドローガイは比較的変身が短いヒーローだが、変身に感じる時間は一瞬。その一瞬に悲劇は起きた。


「いたいたぁ」


包まれていた光の粒子を突き破り、漆黒の手が伸びる。ヒーローは訳も分からず貫かれた。


「へ、変身途中に攻撃するとか、ありかよ……」


「所詮は子守されている赤子。お前たちは蹂躙されるだけだ」


 死の間際、外に見えた数々の死体。

ドレッドドローガイは全てを悟り、死んでいった。

霧散する光の柱が天に昇る。戦闘の激しい都市部では同じような光景があちこちに広がっていた。



 護利隊の作戦司令室では多数のオペレーターと黒斗が各地に檄を飛ばしていく。

カクリは頭に補助装置をつけて何度も展開能力を発動している。


「すでに部隊の三割が壊滅! ヒーローも数名死亡しています!」


「な……とんでもない能力反応があります! もはやただのシュヴァリエ級とは!」


「人手不足に拍車をかけてくれるな……」


 実際、策ではどうにもならない物量だった。

変身できたヒーローも集団の展開に圧倒され、思うように力を発揮出来ない。

警察や自衛隊に協力を仰いだとしても、展開のない攻撃は基本的に無意味だ。


「ミスタージーニアス! 変身しました!」


 作戦司令室に入る一つの朗報、この時ばかりは黒斗もヒーローとは、いるだけで安心すると再確認した。

シュヴァリエ級ランクHやIのヴィランズの反応は次々と消えていく。


「来たか、あとはホーリーフォーチュンが変身できれば……」


 局所的に盛り返した戦闘だが、未だに劣勢。


敵の数が減らせない限りには人類に未来はない。

作戦司令室では劣勢という評価だったが、現場は絶望的だった。


飛彩達の通う高校もまた、戦場となっていた。

学校に隠しておいた予備のスーツに身を包み、蘭華は攻撃行動に移る。


「スーツが若干キツイかも……なぁんて言ったら、飛彩馬鹿にしてくるだろうなぁ」


 出張から帰ってきた蘭華は何も聞かされぬまま出撃を命じられていた。

連絡が取れない状況が続いたため、飛彩の動向は全くつかめていない。


すでに生徒全員が避難した学校で変身を始めたホーリーフォーチュンたち。


目立つ光の柱は、敵を誘き寄せる最大の灯篭とも言えた。


「みんな聞こえる? 私達で何とかしなきゃいけないから、気合い入れていくわよ」


同じ境遇の仲間たちもすでに配置についていた。数にして三十。全学年合わせてもこのくらいの数しかない。


「飛彩はどうした?」


一番の年長者である部隊長の問いに、蘭華は答えない。いや、答えられない。


「いつも一緒だから何か知っているのかと思ったが」


「あのね、無駄口叩いてる暇ないでしょ?」


話題を逸らしても、無駄だった。インカムから聞こえる声は飛彩の話題で持ちきりになる。


「正直に言おう」


透き通った部隊長の声が、他の声を静かに止める。まるで死ぬ前に懺悔するかのような雰囲気に持ち場についた戦士たちが飲まれた。


「俺はヒーローになりたいとかいうアイツが嫌いだった。命令は無視するわ、自分の命を顧みず突っ込んでくわ、無礼すぎるわでな」


 苦笑いの蘭華は、それもまた飛彩だと思うと反論できなかった。

ただ、どんどんと飛彩が恋しくなる。バイザーの中で涙が溢れそうになっていた。全員笑っているが恐れているのだ。


「でもよ、いなくなるとこの上なく不安だよなぁ、みんな」


「違いない」


「ああ」


「そうだな」


「皆……やめてよ、なんか飛彩が死んじゃったみたいじゃん」


こだまするつぶやきを無理矢理に笑い飛ばす蘭華は少しずつ震えだした。

それは見えていないはずなのに伝播していく。


「皆、怖いか?」


 屋上や廊下に隠れている護利隊の面々にも多くのヴィランズが視認できるようになった。

光の柱へと一直線に黒い波の展開が襲い来る。


「これは……あいつが今まで肩代わりしてくれていた恐怖だと思ってる」


「そうね。飛彩が先導切って敵の視線も全部集めて、この死の恐怖を背負っていた」


この話の流れに賛同しない者たちも、その言葉で考えを改めた。


「この際、飛彩が来なくても構わん。たまにはアイツの荷を俺たちが背負うべきだ」


震えと共に戦ってきた飛彩を評し、護利隊の面々は次々に攻撃を開始した。


「いけっ! 全員、取り囲むように迎撃しろ!」


 銃弾の雨だろうと痛くも痒くもないといった様子のヴィランたちは、気にせず突撃を開始する。

己の硬度を知っているが故の策だろう。だが、それよりも硬い相手と彼らは戦っていた。


「バカね」


弾は弾かれず、ヴィランたちに突き刺さっていく。そして鎧の内側から花火が上がった。


「がばっ!?」


「効くわ! さすがメイさんの新装備!」


一際銃弾を浴びていたヴィランズの上半身が弾け飛ぶ。

低ランクのシュヴァリエ級は寄せ付けないほど強化された銃撃に蘭華たちは勝利を確信した。


ヴィランズたちも聞かされていた情報との差異に揺れ、進行の足が止まる。


「今だ! 展開が揺れている内に総攻撃をかけろ!」


突撃銃を携えて攻撃する部隊長をアシストするように蘭華も破壊力が増された狙撃銃で次々とヘッドショットを決める。


「勝てる、勝てるよ、飛彩!」


大軍勢に対して見えたかすかな勝機は、心にゆとりと油断をもたらすには充分すぎた。


「何を遊んでいる?」


空から落ちてきた黒い流星が、突撃していた部隊長たちを粉々に粉砕した。飛び散った鮮血が周りにいた黒い鎧達を染め上げていく。


「ギャ、ギャブラン様!?」


 一斉にかしづくヴィランたち。

初めて本部の目が行き届く場所に現れたギャブランを現場だけでなく司令室も注視した。

明らかに異質な存在、黒い何かがそこにいるとしか理解できないほどのおぞましさ。

広がる展開が、他のヴィランの物すらも飲み込んでいく。

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