【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

迎えるために

公開日時: 2021年7月14日(水) 00:07
文字数:2,306

「なるほどな! 力が湧いてきたぞ!」


「うん! もう一回隠雅を助けに行こう!」


 このムードに水を差すのもどうかと考えたメイだが、残酷な真実しか頼るものがないと目を伏せながら言葉を紡いだ。


「残念だけど、私たちに出来るのはゲートを開くことだけよ」


「えっ……どうしてですか? 私が病弱だから?」


「異世は崩壊してしまった。そこにつなげるゲートを開けないの。私とララクが全力を出してやっと……さっきの場所辺りに繋げられるかどうかってところね」


 多すぎる不確定情報の中で急ごしらえの作戦を行う以上、余計な質問を重ねることなくメイの言葉を信じていく。


「そして、カクリちゃんに残ってる力と体力を考えて……一回が限度よ」


 とはいえ、たった一度しかチャンスがないと知れば慌てる者も現れる。


「だ、だったら尚更あちらに行って連れ戻さねば! 俺が行く、みんなに迷惑はかけん!」


 残った希望はまさに微かなもの。

 とはいえ繋がったものがあれば、気合でもなんでも使って掴み取りたいと思うだろう。


 命を捨てるような飛彩の覚悟に答えねばと熱太も熱さを際立たせる。

 だからこそブルーであるエレナが冷静にさせる役目を任されているのだ。


「ダメよ熱太くん」


「エレナ? お前は飛彩を助けたくないのか?」


「その気合いで、貴方は司令官を人殺しにするの? 少しでも展開域を間違えれば狭間に落ちて死んじゃうのよ?」


「そ、それは……」


 無謀と勇気を履き違えれば簡単に死んでしまう。


 嫌われ役を買って出てもエレナは逸る熱太や翔香を落ち着かせるしかなかった。

 普通ならば蘭華も憤りの声を上げているところだが、乾いた涙の跡はありつつも真剣な眼差しになっている。


 特にホリィ、ララク、蘭華のフェイウォンを見た三人はより一層の冷静な心で物事を捉えていた。

 始祖の力を間近で見続けていた三人にとって生半可な救援は無意味であることを示している。


 ゲートを開いて展開力を使って狭間を泳いでいった先に飛彩に会えたとしても、無事に戻れる確率は低い。

 それどころか飛彩に会えずに死ぬ未来も充分に考えられていた。


 故にあえて助けにいかずに待つしか出来ないことに、反論を唱えはしない。

 心の中でどれだけ助けに行きたくても、だ。


「エレナさんの言葉も正しいです。熱太先輩の言葉も正しいです。でもここは落ち着きましょう」


 慈愛に溢れるホリィの声音は無条件に全員の心を落ち着かせる。

 ヒーローとして人に安心を与えられる存在なのは極めて重要な才能と言えよう。


「それに……この作戦、飛彩が始祖に勝ったっていう前提ですよね。メイさん?」


 理解はしているが、蘭華は出来ることならもっと希望に満ちた作戦であってくれと自分の認識を恨んでいた。


「ええ。全力尽くして勝ったけど展開力が尽きちゃった飛彩くんに道を示せればいい、ってくらいのね」


 熱くなっていた一同もやっと静まる。

 これは希望なのか、と疑念が沸いてしまうくらいの実情だ。

 

 俯くカクリに対して、蘭華は優しく顔を上げさせる。


「ただ信じて待つしか出来なかった私達に、カクリっていう希望が来てくれたの」


 そうだ、待つだけじゃない、手を差し伸べられるのだ、と残された方法に前向きな気持ちが戻る。

 故に、全員はそのわずかながら出来る事にヒーロー生命の全てを注ぎ込もうと覚悟を決めた。


「飛彩が勝つって信じよう」


「ええ。私たちに出来るのは飛彩くんが勝つまでゲートを保つこと!」


「もしかしたらすでに勝ってるかもね、飛彩ちゃんなら」


 信じる強さにより、全員の心は一つになる。


 このゲートを作るのに展開力を全て注ぎ込み、変身が解除されてしまっても関係ない。


「カクリちゃんのゲートが開いたら皆で展開力を。私とララクでさっきの場所を探してゲートを固定しましょう」


 久しぶりに能力を扱い切れるのか不安そうなカクリだが昔と変わらぬ能力の胎動を感じ始める。


 それはヒーローたちの展開力が充填されたことで抜け殻となっていた能力に燃料を投下されたことが大きい。

 最後に一回だけ、偶然にも飛彩を救う力を手渡されたカクリはこのために命があったんだと常に寝ぼけ眼な表情を険しいものへと変えた。


「いつでも繋げます」


「みんなの展開力の準備が出来たら始めましょう。あ、ホリィちゃんは別よ」


「ど、どうしてです?」


「未来確定をこれでもかってくらいぶち込んで。飛彩が帰ってくるっていう未来をね!」


 期待の眼差しを明から向けられたホリィは息を飲む。

 能力が及ぶかどうかも分からない世界の壁にホリィはたった一人で立ち向かうしかないのだ。


「ホリィ」


 もう一人のキーマンとなるホリィの両手を蘭華は優しく包み込む。


 そして、それ以上の言葉は二人の間にはいらなかった。


 未来を決める自分が、失敗する未来を思い浮かべてはならない。目の前に飛彩が戻ってくるビジョンだけ思い浮かべろと心を強く保つ。


「皆、準備はいい?」


 返答は答えではなく、各自から発せられる鮮やかな展開域。


 半径数十メートルの大きさの公園が治るほどの領域に、ヒーローたちの濃い展開力が注ぎ込まれていく。


「カクリちゃん!」


「はい!」


 その中でカクリの意識と残されたわずかな能力が一気に覚醒し、人が悠々と出入りできる丸いワープホールが誕生する。


 先ほどまで見ていた狭間の異次元空間を泳ぐようにララクとメイの展開力が注がれた。


 異世があった場所を探すように高速で動いているのが見て取れる。


 刑や熱太たちはすでに満身創痍の身体に鞭を打ってゲートへの展開投入に集中した。

 もはや言葉を発する余裕すらないヒーロー陣営を黒斗と蘭華は祈るように見つめるしかない。


「飛彩さん、必ず見つけます!」


 苦しさの中で、カクリの放った決意の声で仲間たちの心は痛みを無視して一つになった。



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