「チャージ完了! くらえ!」
「「「超! キューカイレスキューバーストォ!」」」
展開力を全て注ぎ込んだ赤、青、黄色の波動が螺旋を描いて混じり合い、ミューパへと直進する。
「私は……狩人だぁ! 獲物のように死を待つわけにはいかない!」
避けられないと悟るや否や、ミューパもまた自身の鱗粉を波動のように放つ。
二つの波動はぶつかり合うも、拮抗することはなかった。
瞬時に押し返されていく鱗粉波動すらも攻撃の一部にしてレスキューバーストはミューパへと迫る。
生きたい。
死にたくない。生物として当たり前の本能が土壇場でミューパの進化を促した。
両手で波動を受け止めていると背中から鱗粉が吹き出してそれが残り少ないミューパの展開と混ざり、幻のような羽根を生み出す。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、蝶は舞った。
波動を全て避けることは叶わず、半身に大きな損傷を受けるも空中に無理やり開いた異世への通り道にさえ飛び込んでしまえばどうにでもなるからだ。
「往生際、悪いんじゃねーのか?」
飛ぶミューパの頭上へと現れたのは飛彩。
空に裂け目が現れたのを確認するや否や、ホリィの未来確定の能力でその場まで瞬時に移動したのである。
「ホリィにはサポートさせてばかりになっちまったな」
聞けば蘭華がムッとしそうな言葉をこぼしながら、飛彩はミューパをレスキューワールドの方に向けて叩きつけた。
「あとはお前が決めろ。お前が乗り越えるべき戦いだ」
避けられたことを視認したレスキューワールドの面々の中で、翔香だけが駆け出していた。
カメラに映ることのない英雄、飛彩の口の動きだけでその言葉は自分に向けられたものだと理解して。
思えば本当に情けなかった、と空を駆け上がりながら猛省する。
右足に残る全ての展開力を込める。
幾何学模様に迸った黄色い閃光が、翔香の右足に螺旋を描いた。
そのまま空中で反転した翔香は、爪先を中心に円錐形になっていく必殺の一撃をミューパへと向ける。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
吹き飛ばされた勢いをどうすることもできないミューパはただ、翔香の攻撃へと吸い寄せられるように落下する。
「私決めたの。飛彩のヒーローになるって!」
貫通力の高い一撃がミューパの腹部にめり込む。
そのまま悪の鎧は砕け散りながら崩壊を始めた。
「グランガイアインパクトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
高らかに技名を叫ぶと同時に、翔香はミューパを突き破り空を舞う。
「よ、欲張りましたね……」
そのまま内側からも崩壊を始めたミューパはレスキューイエローの展開力によって大爆発を起こす。
地上に着地した翔香と飛彩は爆風を背に視線を交した。
「少しは守りがいのあるやつになったな」
「隠雅のおかげだよ。ありがとね……」
明らかに照れているということは明白だったため、引き離すようにホリィと蘭華が全速力で走り寄ってきた。
「はい、これにて一件落着ってことで! 帰るよ飛彩!」
「と、翔香ちゃんも熱太さんたちの所に戻りましょう? ね?」
「え、ちょ、ちょっと!」
勝利を伝えたことでカメラも撤退していった。
悪も消えたことでヒーローから年頃の少女へと戻っていく。
「走駆」
蘭華に無理やり引っ張られて撤退していた飛彩が同じように背を向けていた翔香に声をかける。
「まだキツいなら守ってやるよ。望むなら俺一人でな」
「「なっ!?」」
呆気にとられる翔香をよそに悲鳴を上げる蘭華とホリィ。
なんで心許した相手にはそんなにかっこいいところ見せちゃうのよと怒りながら飛彩を殴りつける。
いまだに世界展開を解かない飛彩は左腕でそれを軽くいなしながらバイザーを外した。
「大丈夫!」
守るという言葉に今までの翔香ならばすがっただろう。
だが、今は何のためにヒーローであるべきかをしっかりと見極めたのだ。
もう今までの弱い彼女は、意志のないヒーローは存在しない。
「言ったでしょ、私は君のヒーローになるって!」
「「ちょ、ええぇぇぇぇぇ!?」」
どういうことだと翔香に詰め寄るホリィと怪我も気にせず飛彩の左腕を振り回す蘭華。
もはや完全にリアクション要員になってしまっている中、変身を解除した翔香と飛彩は少しだけ視線を重ねると互いに背を向けて歩き始めた。
「もう少し話してても良かったのに」
同じく変身を解除して翔香の元にやってきたエレナと熱太は、今までの失態を叱責することもなくただただ今回の功績を讃える。
「とにかく、これからもよろしく頼むぞ! 翔香!」
「はい、先輩! ホリィちゃんも頑張ろうね!」
「う、うん!」
「はぁー、終わったらお腹すいちゃった! 久しぶりに皆でご飯行きませんか? あ、ホリィちゃんもくる? そうだ、隠雅たちも……」
「今日は帰りましょう! とりあえず一旦落ち着きましょう!」
大騒ぎしながら帰還用車両に戻っていく四人。
同世代で騒ぎ立てるホリィと翔香を見ながらエレナと熱太は微笑ましそうに歩いていく。
「本当に元に戻って良かったわ」
「全て飛彩のおかげだ。あの子に笑顔を取り戻してくれたのは、間違いなくな」
「ヒーローを守るヒーロー……茨の道だと思ってたけど、彼ならできる気がする」
「ああ。なんと言っても俺のライバルだからな!」
そのまま勢いよく駆け出したかと思えば、ホリィと翔香の会話に割って入る。
「翔香! 俺も飛彩を守るぞ! お前だけにはやらせんからな!」
「おっ、先輩もですか! 私、負けないですよ!」
「もう〜〜〜〜! どんな競争ですかそれぇ〜!」
夜の帳が降りてもなお、陽が昇っているような明るさを見せるレスキューワールドとホーリーフォーチュン。
その騒ぎを聞きながら、蘭華もまた飛彩に色々な説教を飛ばしていた。
「うるせぇな〜。生きてるんだからいいだろ?」
「よくないわよ! 肩に穴空いてんのよあんた!?」
「あ、そうだったな」
痛みが引いているせいか、飛彩は不意に世界展開を解いてしまう。
悲鳴をあげそうになった蘭華だが、驚きの光景に瞠目してしまった。
「——傷口が塞がってる?」
「お、ラッキー。病院行かなくて済みそうじゃん!」
世界展開が常識を超えたものであることには間違いないが、飛彩のものはそれ以上のおぞましさを感じさせてくる。
致命傷を跡も残らぬほどに直すものなど回復に特化したヒーローでしかありえないのだ。
「ボケっとすんなよ蘭華。俺たちも帰ろうぜー。黒斗に焼肉奢らせるからよ」
「——う、うん……」
恐る恐る飛彩の後ろをついていきながら、メイへの通信を開いて起きたこと全てをログに残す。
飛彩の持つ力が何の代償も無しに力を貸すわけがない、そう蘭華は直感したのだった。
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