(ちっ、飛彩が苦戦した護衛までいるのか……厄介な状況になった)
「で、本部としてはどうするつもりだ?」
「えっ、ええと本部の決定としましてはいつも通り収録を続行し、収益を目的とした戦いを……」
今までと変わらない慣例のような答え。
カエザールの登場が黒斗たちに悪い風を吹かせている、と焦りが目に見えるほどだ。
「カエザール会長、初めまして。ヒーロー本部の下部組織である護利隊の司令官を務める墓棺黒斗と申します」
「見ぬ顔がいると思ったらそういうことか」
風向きを変えようと黒斗は攻勢に打って出る。
銃を突き付けていた野蛮人という印象をどれだけ払拭できるかが鍵だった。
だが、もはやメイを救出して世界を救うには時間が残されていない。
おろした銃を握りしめたまま、あえて横暴なまでの理想論を振りかざす。
「今は利益など言っている場合ではありません。間違いなく世界の危機なのです。戦える者一丸となって……」
父親の利益を優先する性格をこの場にいる誰よりも知っているホリィだからこそ汗が止まらずにいた。
少しばかり考えた素振りを見せたカエザールは以前より皺の刻まれたゴツゴツした手を重ねて身を乗り出す。
「ああ、そうしよう」
「お父様!?」
「カエザール会長!? こ、こんな金をドブに捨てるような作戦を行うと?」
「ホリィも君たちも失礼だなぁ。私を何だと思っているんだね」
真剣に対峙している黒斗だからこそわかる言葉の中に隠された腹積もり。
単純に正義のために力を貸すものではないと感じつつも、カエザールの言葉は鶴の一声に等しい。
「今を持って指揮権は君に渡そう。青臭い理想で世界を救ってみたまえ」
「か、会長!? 正気ですか!?」
「君たちと墓棺くん、そして私……この間には決定的な違いがある。それは危機感だ」
ヒーローたちには驚き、黒斗には得心の閃光が走る。
センテイア財閥の情報網によりすでに戦いの詳細は入手しているはずだった。
それにより黒斗たちと同じくカエザールもまた世界の危機となる戦いを認知しているのだろう。
「利益を上げるのも世界あってこその話だ。今回の侵攻は間違いなく勝とうが負けようが世界が大きく変わってしまう。今まで通りでは利益も何もない、ただそれだけの話よ」
その言葉に歯に物が挟まる感覚を抱かされた。単純に正義の心だけで最終決戦を支持してくれているわけではないことは間違いない。
おおかた、勝てば世界を救った英雄を援助した者となり、負けても敵の有力者に一番近いところで交渉出来るようにというような魂胆があるのだろう。
「利害が一致した、という認識でよろしいですか?」
「ああ、そこにいるボンクラどもよりかは、な。戦いに関する資金援助は我が社が受け持つ。さらに各省庁へのコネクションや我が系列の民間軍事……おっと民間警備会社の連中も好きに使うといい」
「何と……」
「ありがたい申し出だけど、これは……黒斗くん、どうするんだい?」
血を一切流さない革命の代わりに掌の上で踊れという要求。
それでも世界を守るためという旗を掲げられることに感謝するしかないだろう。
暴力での統率は禍根が残るものの、強引だが正当な方法での代替わりに反感を買う隊員たちはいない。
むしろカエザールの意向に従い、実戦には黒斗が出ると言ったような図式だが。
「……ありがとうございます。それでは全指揮権をありがたく頂戴いたします」
黒斗の一礼に、刑達も渋々従うしかないかと覚悟を決めたようだ。
「では、早速始めろ。無駄死にだけはしないでくれよ?」
先ほどまで幹部だった連中を顎で使える権力を得た黒斗は一礼してその場を後にした。
決戦を始めるにはまだまだ準備も何もかもが足りない。
自分たちはついてきただけだったな、と刑たちは罰が悪そうに下がっていく。
残ったホリィは何か父親と話そうかと逡巡したものの、死線に向かう娘に何も声をかけない存在かと認識を改めてその場を後にする。
室内には不満を露わにする幹部連中とカエザール、スティージェンが残った。
ぬくぬくと安全地帯にいながら膨大な役員報酬をもらっていたのに解雇となれば、世界の危機よりも身近な危機なのだろう。
「不満を漏らす気持ちもわかる……なんにせよヒーロー本部があったからこそ我が社にはクリーンなイメージがついた上に利益も上がった」
「それでは!!」
「だがそれは組織のおかげであり、お前たちのおかげではない。指揮権がなければただの中年だ」
タブレット端末を素早くタップしていたスティージェンは気怠げな様子でその画面を震える男たちへ見せつけた。
「貴方たちの情報は消去されました。今までお疲れ様でございます」
「はっは、むしろ世界の命運という責任から逃れられて幸せだったかもなぁ!」
高笑いするカエザールもまた荒波に立ち向かう者であることは間違いない。
その原動力は汚れたものだったとしても飾りよりかはよほどマシと言えよう。
「な、納得できません! せ、世界の危機など正気の話とは……」
「ええ、今までもなんとかなってきたじゃないですか!」
汚い口は黙らせた方が良いだろうかとスティージェンはゆっくりと視線を動かした。
意外にもカエザールは口元に笑みを浮かべたままで。
「年端もいかぬ者共に危険なことを押し付けて、なぁ?」
「それは……」
「だが、今回も彼らが現場で何とかするしかない。もはや世界の終わりは避けられない……ならば少しでもマシになる方に賭けるのみ、だ」
利益を追い求める性格だからこそ、危機意識だけは飛彩達と同じなのかもしれない。
本来ならば稟議など諸々の手続きなどを守るところだが、数日間でヒーロー本部どころか国そのものが変わってしまうかもしれない戦いが起ころうとしている。
故にルールを守ったところで意味はないということだろう。
「では、カエザール会長は……本当に世界が滅びる戦いになると?」
「ああ」
カエザールですら世界の危機と連呼するものだからやっと状況を理解し始めた元幹部連中は本当に終焉が始まってしまうのかと、遠くに見える黒いドームを眺める。
とうとう元幹部連中は反抗する意思も消えてしまったようで、カエザールたちが去っていく足音を聞くしかなかったようだが。
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