【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

受け止めきれぬ

公開日時: 2021年6月19日(土) 00:12
文字数:2,386

「……は?」


「その耳は飾りか? お前は私、ララクやリージェと同族なのだよ」


「……俺を惑わせようったって、そうはいかねぇぞ!」


「いいや、心の内から目を背けるな」


 頭を鷲掴みにされた飛彩はそのまま熱太たちに見せつけられるように持ち上げられ、フェイウォンの展開力を流し込まれていく。


「くっ、な、何しやがる!?」


「お前の能力は……四つか、それぞれが本体となるに足り得る力を持っている、と」


 それぞれの色を持つ鎧が表へと引き出され、紅い右足に合わせた鎧が全身に広がる。


「んだよ……なんで勝手に!」


 元々持っている部位に関しては、色づいたままだが能力を切り替えるたびに他の部位は真っ黒でヴィランと同じフルプレートの鎧が装着されていく。


 本来は全身を覆う鎧が漆黒のヴィランのそれであることが明るみになってしまった。


「飛彩がヴィラン、だと?」


 もはやララクという仲間がいる以上、垣根がなくなったことは間違いない。

 それでも幼少期から共に過ごしてきた蘭華や熱太には驚愕として映ってしまうだろう。


「飛彩ちゃん……」


「はっ、そういうことか」


 逆に受肉したヴィランの二人は、人間でありながら即座に展開力を発動させられる点や他のヒーローと比べて桁外れな力を持っていたことに合点がいってしまう。


「人間にしては化け物染みてると思ってたが……それなら僕といい勝負するわけだ」


「飛彩ちゃんが、ヴィラン……でも、なんだろう、この気持ち……」


 同族と判明した二人ですら複雑な感情を抱くのだ、人間であるホリィたちが言葉を失い戸惑うのも無理はない。


「特に……この黒い左腕はお前がヴィランであることを示す何よりの証左だろう?」


 黒き左腕を発現を強制され、頭部以外が真っ黒な鎧で覆われた飛彩は、苦しみよりも力が湧き上がってくることを恐れた。


 それはまるで全身を包む鎧がある状態こそ、それぞれの能力が持つ本当の姿のような気がしてならなかったのだ。


「やめろ、離せっ!」


 頭部以外を鎧で包む姿を見せつけられた熱太たちは、動揺の極地に至ってしまう。


 事実、その時飛彩から放たれていた展開力はフェイウォンのものを吸収したからという理由なのかもしれないが、全くもってヴィランのそれと同じだったのだ。


「人間のままその力を使おうとしているから中途半端に引き出すことしか出来ぬのだ。内なる声に耳を傾けろ……であれば、私の次にくらいは強くなれるかもしれないぞ?」


「ッ……!?」


 何より反論出来ないのが飛彩自身で。


 フェイウォンに展開力を充填されたところで、それは即座に自分のものに変換される感覚を抱かされていた。


 つまりそれは能力による幻覚などではなく、真に自身が纏う鎧だったのだと思い知らされている。


 顔を掴まれたままでいるが故に表情は険しいままだが、何が真実で自分が何者なのかという不安で押し潰されそうになっていた。


 今まで親愛なる能力の一部だと思っていた四つの能力が一気に忌避すべきものだと身体を粟立たせる。


「はっ、なぜ心を乱す? お前が命を懸けて戦うのはそちら側ではない話だぞ?」


 仲間に助けを求めることも出来なかった刹那、フェイウォンと飛彩の頭上に空間亀裂が現れた。


「何っ!?」


「ふッ!」


「ちょっと、黒斗くん!」


 亀裂から飛来しながら振り下ろされた刀はフェイウォンの腕を弾き、飛彩を拘束から解放した。


「大丈夫か、飛彩!」


「始祖に斬りかかるなんて……危ない役目は私がやるって言ったのに」


「黒斗……それに、メイさん?」


 そこで飛彩を守るように登場した二人にフェイウォンは瞠目する。飛彩は闘志を失った瞳で尻餅をついたまま弱々しく駆けつけた二人を見上げていた。


「クリエメイト……!? 誓約から逃れたのか?」


「ええ、愛の力ってやつかな?」


「お、おい! メイ! 俺はそういうのじゃないぞ!」


 いつもの飄々としたメイが戻ってきたことに安堵したのも束の間、自身の真相について把握していそうな二人の登場に余計心が乱れていく。


「メイさんは、知ってたのか? 俺がヴィランだって……」


「飛彩……お前は何を言って……?」


 敵の首魁が何か吹き込んだのか、と黒斗は焦るも周りのヒーローの動揺やメイが纏い始めた真剣な様子から嘘偽りではない事実なのだと感じさせられる。


「━━余計なことを話してくれたわね、始祖フェイウォン」


「余計なことではあるまい。むしろお前や隠雅飛彩は私のために戦う存在だと教えてやったまでのことよ」


 鎧を纏ったままの飛彩は片膝をついて崩れたままだった。


 そして、重さを感じることのない全身の鎧に違和感もなければ当然のような感覚になっていく。


 それもまた自身の本当の姿なのだと自覚させらるようで考えることをやめたくなった。


「クリエメイトよ、お前があちらの世界に固執していた最大の理由は……その男だな?」


 問いに答えないメイだが、フェイウォンと飛彩たちを引き離し、充分な間合いを作り上げる。


「そうだ、思い出したぞ。最初から受肉した状態で生まれたヴィランを! お前が研究材料として引き取っていったこともな」


 その言葉に、メイが全てを知った上で何もかもを隠していたことが判明した。

 しかし、それを誰も咎める気ともなく、受け止めきれない情報量に淡々と脳が処理を続けるだけで。


「当時のお前ならば散々実験材料にして殺したかと思っていたが……そうでは無いらしいな」


「ヴィランは生けるものの悪意から切り離された存在よね。それなのに最初から人の姿で生まれた飛彩にどのような意味があるのか、知りたかっただけよ」


 当時の考えだけを語るメイに情が湧いてしまったことは確実で、創造の悪を善なる存在にまで作り替えてしまったことは明白だった。


 様々な実験を行なっていくうちに、赤子の飛彩が見せる笑顔は荒廃した世界の中でどれだけ眩しいものだったのか、それはメイにしか分からない。



 ただ、それだけでも命を懸けて未来を守るには充分すぎる理由だったのだろう。


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