【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

走馬灯

公開日時: 2021年5月22日(土) 00:11
文字数:2,403

「ニゲ、テヨ、もう私は、私ヲ止められない……!」


 辿々しい歩みを見せるメイは制約により、意識を何度も失っては堪えてを繰り返していた。


 一重に黒斗を死なせないためにという覚悟だが、その相手は撤退もせずに立ち向かい続けメイの意思に反する行動しかとっていない。


「どうしテ、なの、黒斗クン」


「俺は、もう二度と……部下を見捨てて逃げるような真似はしない!」


 その言葉で鎧の奥の瞳に一瞬生気が戻るも、再び黒く淀んだ展開力が充填されていった。


「は、ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


「絶対に……救ってみせる!」


 杖代わりにしていた刀を再び振り上げ、鎧拳と剣閃が周りの炎を揺らめかせるほどの威圧を放った。





 そして、一人ヴィランを次々と殴り飛ばしていく飛彩も異変には気づいていた。

 仲間の危機、そして敵の狂気に。


「この感覚……ララクにリージェ? それにもう一人やばいのがいるな」


 大量のヴィランに囲まれつつも、わかってしまうほどの存在感が三つ。

 それぞれが仲間たちの元に向かっていることに焦り、攻撃が大雑把なものになっていく。


「お前はここで押さえ込む……それが指令だ」


「ユリラ様の名の下に!」


「だぁぁ! うるせぇな!」


 左腕で奪い取った展開力を斬撃として発射するが、肥満体のヴィランが躍り出で攻撃を食い荒らしてしまう。


 さらに先ほど戦った捕縛能力に長けるタイプのヴィラン、さらには拘束系の能力、バリアーノのような防御系のヴィランが飛彩の行く手を阻む。


「足止め要員をわんさか置いてって攻撃系のヴィランだけ先にいかせたってわけか」


「今更気づいたところで遅い。お前は全てが終わるまでここに留まってもらおう!」


「……意地でも逆らいたくなるな!」


「はっ! やれるものなら……」


 直後、その場で先導していたヴィランの頭部鎧が目にも止まらぬ速さで砕け散った。

 飛彩もまた奥の手を見せていないと感じさせるには充分過ぎる。


 一瞬で大群の中へ突撃してきた飛彩をヴィランたちは再び逃げ場を塞ぐように取り囲んだ。


「か、数なら我らが上だ!」


「モットタベタイ!」


「ちっ、今ので怯めよ」


 赤と緑の脚で加速、さらに一瞬だけ蒼き右腕の力を解放する事でヴィランの鎧を紙屑のように吹き飛ばしたというのが今のタネだ。


 そう何度も行えない緻密な展開操作が仇になったか、とため息をついた飛彩は俯いて深呼吸する。


「命乞いなら聞いてやるぞ? 余生が少し伸びるだけだがなぁ」


「……うるせーな」


立ち昇る紅い展開力。紅き右脚から流れこむ破壊の本能にあえて身を沈める。


「今ので逃げなかったこと、後悔するんだな!」


 紅の展開力を全身に漲らせる事で、一時的に他の部位の鎧まで紅に染まっていく。

 かつてメイが話していた飛彩の展開力は状況に応じて能力を発揮しているに過ぎないという説明が、新たな作戦を産むきっかけとなっていた。


 一時的な展開力の集中により、他の能力を無効化して一つの能力に身体の全てを預けていく。


「グルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 今ならば誰も巻き込むことはない、と鎧散る殺戮の宴を開演して。





 それぞれがより窮地に陥る中、死が目の前にまで迫っている刑と春嶺だろう。

 ユリラの展開力が凝縮された黒柱に囚われた春嶺と満身創痍の刑。


 一時は倒したと考えていた相手からの逆転劇は身体よりも心を折られるようだった。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「春嶺、くん……!」


 展開力が天にのぼる轟音の中で、春嶺の透き通るような高い悲鳴がか細く響いていた。


 痛みや苦しみとは違う、恐怖の根元のようなものに蝕まれる春嶺の意識はどんどんと削り取られていく。


「ら、蘭、華……!」


 見開いた瞳は黒い闇しか映さない。

 故に記憶にあった光景が恐怖を和らげようと春嶺の脳裏に見えるはずのない記憶が鮮明に映り始める。


 死が迫る時に過ぎる「走馬灯」が、より命を失うということを実感させてきていた。



 走馬灯は二種類存在する。



 一つは一般的な己の記憶を総動員して助かる方法を探すというもの。

 もう一つは、死を安らかなものにするためのものだ。


 痛み、苦しみから魂を天に解放するため、人間が自分にだけ与えられる葬送。


 事実、春嶺の脳裏には絆をくれた蘭華やホリィ、翔香、エレナ、カクリを始めとする楽しげな会話と青春をもう一度味わうかのように魂が記憶を反芻した。


 ヴィランと戦い続けてきた春嶺に魂の救済が訪れるのであれば、誰も咎める者はいないだろう。


「……っ!」


 黒に染まる視界と体の内側から別の何かに侵食されるような不快感の中で、春嶺の幸せな走馬灯を消したのは飛彩の言葉だった。





「変身する時の感覚だぁ?」


 それは準備をしている一週間の間に春嶺がふと飛彩にした質問。

 珍しくトレーニングルームで二人きりになったこともあり、誰にも見えせない藁にも縋る気持ちを春嶺は吐露していた。


「その、何だ……もしかしたら参考になるかも、と思ってな」


「お前らと違って世界展開リアライズブレスとかベルトしてないからなぁ、俺」


 メイや英人による外付けの世界展開とは異なり、飛彩はその身に世界展開能力を宿している。

 つまり、自分の中に眠る力を外部に広げて具現化するという現状春嶺たちが頭を悩ませている事を地で行っているのだ。


「なんかグッてやってパッてやれば」


「……」


「ほら」


 そう言った飛彩の左腕は黒い光と共に装甲が装着されていた。


「それが出来なくて苦労しているんだ。その勉強から逃げ続けた頭でなんとか言語化してみろ」


「言い方キツ過ぎないか? 本当に教わる気あんのかよ」


 面倒臭がる様子を見せつつも、小さく唸りながら頭を捻る。

 戻して発現してを繰り返してその感覚に集中していく。


 そもそもヴィランの展開力もなしに何度も変身と解除を繰り返している時点で、ヒーローたちからすればあり得ない話ではある。


 そのままトレーニングルームの柔らかい床へと胡座をかいて飛彩はさらに頭を悩ませていた。

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