【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

慣れないデートプラン

公開日時: 2020年12月26日(土) 00:02
文字数:2,252

 戸惑いつつも満更でもなさそうな様子にも目もくれず、飛彩は周囲を見渡す。

 駆け足で抜けて行こうものなら一眼を集める上に、勘の良い人物なら電光掲示板に映った少女と同一だと気づくものもいるはずだ。


 ここで騒ぎになるのはまずいと考えた飛彩は自分の能力を冷静に分析する。

 戦いの中で展開力を高めない限り、能力の同時発動は不可能なことを思い出し、切り抜ける一手は何かに集中した。


「ちっ、右足使っちまったからな……他の能力に切り替えるのに時間が必要か」


 単純な能力上昇しか使えない右足だが、これに賭けるしかないと目のついていない背後へと感覚を研ぎ澄まさせた。


 迂闊に能力を発動すれば、飛彩の能力が露呈してしまう可能性もある。

 振り返り、視線が逸れた瞬間と射線上に何もいないことを確認すると一瞬だけ能力を発動し、街路樹目掛けて後ろ蹴りを放った。


 風を切る赤い波動が人々の目を閉じさせ、折れた街路樹が車道に倒れた騒音とクラクションを鳴らす車たちの交響曲に人々の視線が全て釘付けになった。


「荒っぽかったけど怪我人出てないから許してくれよ!」


「ちょ、飛彩くん?! 何でお姫様抱っこ!?」


「傘を閉じろ!」


「は、はい!」


 瞬時にホリィを抱き上げた飛彩はホリィが日傘を閉じたこと瞬間に、再び右足の能力を解放して人々の視界から消え去った。


 正確にはこのあたりのビルの高さに負けないくらいの上空へと飛んだわけだが。


「な、何やってるんです!?」


「あんな宣伝が流れたもんでよ。バレそうだったからつい、な?」


「つい、で能力使っちゃダメですよ!」


「お前の休みを守れるなら安いもんだ、一気にいくぜ!」


 空中にも関わらずオーラで足場を作り上げた飛彩は空を歩くようにして、件の緑地へと駆け抜けていく。

その速さは常人ならば気を失っていただろうが、曲がりなりにもヒーローに変身できるホリィは目を閉じかけつつも、意識を保っている。


「飛彩くん! 速い、速すぎますって!」


「こういうときは焦った方が勝ちなんだよ」


 赤い流星と化した飛彩は一瞬だけ展開を大きく広げ、範囲内に人がいないかを察知して一番人気のないところへと降り立った。





「ふ、フラフラします……」


「悪かったな、無理やり運んじまって」


 日傘を杖代わりに地面に降り立ったホリィは鬱蒼とした木々に囲まれている辺りを見渡した。

 緑地の中でも道から外れた誰も踏み入らない広葉樹の森は、まるで都心ではないかのようで空気も綺麗な気持ちになる。

 

 鮮明になっていく意識と共に、視線を集めそうだったからとはいえやりすぎなのではないかとホリィは眉間にしわをを作る。


 残念なことにムッとした表情もただただ可愛らしく、飛彩は視線をそらしてしまうだけに終わったが。


「何もあそこまで警戒されなくても」


「いや……ここ来たがってたのに、行けなくなったら嫌だろ?」


 やり方が危険でも全てはホリィのためにということを暗に示す飛彩はそれ以上の言葉を紡がず、緑地の正規ルートに戻ろうと歩き出した。


「飛彩くん……」


 不器用な飛彩なりの優しさに嬉しさを覚える反面、申し訳なさもホリィの胸に込み上げていく。

 そして何かを考えるように目を伏せた後、地面に足を取られつつも飛彩を追いかけて行った。


 少しばかり歩いた先に広がる巨大な広場は、ピクニックをしている家族連れやボール遊びなどをしている子供たちで賑わっていた。


「ついたぜ。こんだけ広けりゃバレることもねぇだろ……で、何したいんだ?」


 気を取り直したホリィは下げていたカバンから高級そうな布製のレジャーシートを取り出し、そそくさと広げていく。


 一本の巨大な木の影にホリィの特設レストランが誕生した。


「ちょっと早いですがお昼ご飯にしませんか?」


「ま、マジか! いつも作ってくれてんのにありがとな!」


「あの……実は今までお昼休みに渡していたのは専属のシェフが作ってくれていたんです!」


 元々手料理だとは言われていなかったことと、あまりにも手の込んだ料理からホリィが作ったものではないとおぼろげに感じていた飛彩だけに大して驚く様子もない。


「ですから……今日は手作りしてきました!」


「てっ、手作りだとぉぉぉぉぉ!?」


 よく蘭華の手料理を食べているとはいえ、女子から手料理を振舞われるという経験は飛彩の心を簡単に舞い上がらせるらしい。


「ありがとな! 朝飯食ってないこと思い出したら腹減ってきちまった!」


「よかった〜、重いとか言われたらどうしようと思ってました」


 そっとレジャーシートの上に正座するホリィに対し、飛彩は材質も気にかけず音を立てて腰掛けた。


「そんなこと言う男はこの世に一人もいねぇから安心しろ」


 その一言に安心したのか、大きめのカバンから金の細工が目立つ漆塗りの重箱を取り出した。

 明らかに気合の入っているお弁当に、飛彩は息を飲む。


「いっぱい練習したんですよ」


 箱入りお嬢様が見せるわけのわからない料理にはなっていなさそうと言うことに安堵しつつ、飛彩は能力の行使によって失ったカロリーを取り戻すべく重箱の一番上を開いた。



「うぉっ……あれ?」



 そこには色とりどりの具材が、完全にぐちゃぐちゃになっていた。

 まさかと思いつつ全ての蓋を開けてバラバラに置いていくが、おにぎりやサンドイッチくらいしかきっちり収まっているものはなかった。


「あっ……俺が無理やり運んじまったから!」


 お姫様抱っこで空中をかけていた頃、ホリィのカバンはスピードに煽られて縦横無尽に蠢いていたのだ。


 おかげで綺麗に盛り付けられていたはずのお弁当は瓦礫の山のように雑然としてしまっている。


「あうぅ……」

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