すでに二つの能力を見ていたリージェにとって更なる能力の覚醒は阻止しなければと直感的に体を動かさせた。
生存本能が今飛彩を殺さねば危険だと告げたのである。
「何個も何個も……認められるかぁ!」
今度はそこに吹き飛ばされたはずの熱太が割り込み、リージェの身体を低い姿勢からのタックルで押さえ込んだ。
「言っただろう……飛彩を守ると!」
「黙れぇ!」
背中への肘打ちは黒斗の居合い切りが巧みに防いだ。弾かれた腕が大きく振り回された瞬間、ボロボロになっていた翔香が姿を現す。
「やらせないって!」
天を仰いだ腕を引き、背中から地面へ豪快に叩きつける。夜空だけでなくヒーローに見下ろされる屈辱的な姿勢に激昂したリージェは所構わず拒絶の力を嵐のように吹き荒れさせた。
「ぐあっ!?」
「うあぁぁ!」
「今、発揮できる全ての力を使って……君たちを殲滅する!」
誰から息の根を止めようかと悩んだリージェへと飛び膝蹴りを叩き込もうとするホリィ。
フリルがたくさんついた魔法少女のような見た目とは裏腹な格闘スタイルにリージェは笑いつつも驚いた。想像を超えた速さだったが、能力行使ではなく吸い寄せられるように格闘を選んでしまうことにも。
「君、もしかして未来を決める能力でもあるの?」
「さぁ? どうでしょうか?」
大きく引いた拳をリージェの腹部へと叩き込んだ瞬間、空中へと大きくのけぞったリージェのビジョンが誕生する。
それをリージェに視認される前に決着をつけようと展開力を両手にみなぎらせた。
「ジャッジライト! ガトリングサンシャイン!」
その手から放たれるは様々な軌道を描く無数の白光線。
リージェが吹き飛ばされる結果に対し、過程はいくらでも変えることが出来る。ホリィは最高のダメージを与えるために逃げ場を与えないように光線の檻を作り上げていく。
「でも、このくらい簡単に逃げられるさ」
攻撃の隙間を発見し、その隙を強引に脱出しようとした瞬間、檻の隙間が橙色の光線で塞がれていく。
「えっ?」
離れた位置からエレナに押さえてもらった春嶺が残された一丁の銃で全ての展開力を放っていたのだ。その瞬間、変身が解除されエレナへと力なく寄りかかる。
「——あとは、任せたから」
その光景に頷いたのは緑色の展開を迸らせる飛彩。
ヒーローを護利隊が守るという立場が逆転した状態に不思議と笑ってしまった飛彩は、倒れつつも心強い仲間たちを信じる。
「そこで……待っていろ飛彩ぉ!」
しかし、春嶺に続いて倒れ伏したはずの熱太が展開力を足元に集中させて走り出した。このために特訓していたのかエレナと翔香へ視線を飛ばす。
「二人とも行けるか!」
「もちろん」
「まだ……やられてないからぁ!」
言葉に呼応して広がる各自広げた展開力は熱太へと一直線に伸びていく。
その様子を見ることのできないリージェは光線の檻の外で展開力が高まっていくことを悟る。
「なるほど。集めたか」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 」
予想通りに、エレナと翔香の装甲が外れて熱太の右腕と左腕に装備されていく。赤い体躯に彩られた青い右腕と黄色い左腕。
それぞれの特性と展開力をレッドに全て注いだレスキューワールド最高戦力形態である。
「これが俺たちの新たな力! ハイパーレスキューレッドだ!」
愛刀ブレイザーブレイバーを握りしめ、氷風と爆炎の竜巻を纏う長刀で檻ごと叩き伏せた。
「えっ!?」
素っ頓狂な声をあげてしまうホリィ。それもそのはず春嶺とホリィの能力を全て注ぎ込んだ攻撃を単純な斬撃の一振りで無に帰す展開力をレスキューワールドが発揮するはずがないからだ。
「俺に全ての展開力を乗せる最強形態! これが真のレスキューワールドだ!」
檻が弾けたと思えば振り下ろされる強大な攻撃にリージェは拒絶の力を両手に纏って応戦する。想像以上の斬撃に生半可な拒絶では弾き返すことが出来ないのだ。
「このまま叩き切ってやる!」
「僕は足癖も悪いんだよ」
空中にも関わらず発生した大きな揺れによって熱太は大きく体勢を崩す。拒絶の力を足から放出したことに勘付いた熱太はレスキューイエローの司る風の力ですぐに突貫姿勢へ移る。
「嘘でしょ!?」
「このまま決める!」
燃え盛る刀身にも関わらず、凍てつき始めるリージェの掌。次に発動したのはレスキューブルーの司る水と氷の力だ。
「そのまま動かなくていい……このまま叩き斬るからなぁ!」
「何を言ってるんだい? 君は僕に剣を振り下ろすことを拒絶された状態さ! そんなことできるわけが……」
「そんなもの俺の熱さで何とでもなるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
燃え盛る勢いと共に上がっていく温度と展開力。
もはやリージェの張っている展開がちっぽけに感じられるほど濃密な空間が熱太の周囲に発生する。
「なっ!」
そのままリージェの掌をすり抜けるようにして熱太の剣が振り抜かれる。
刃が通るその僅かな空間だけ勝った熱太の展開がリージェにとっては地獄への入り口と言えよう。
「ヴォルカニックスラッシャー!」
鎧を大きく袈裟斬りしたにも関わらず、金属音も何も響かなかった。
失敗の二文字が過ぎる者も現れるが熱太は剣を振り下ろした勢いで地面に着地したまま一歩も動かない。
「終わりだ」
「がっ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
情けない声をあげてしまう中、鎧が切られた後に沿ってドロドロと溶け始める。
遅れて吹き飛ばされたリージェは熱さにのたうちまわることもなく眦を裂いて鎧が溶け落ちるのを拒絶した。
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