漆黒に落ちる影が異世への入り口となりゾンビのように地面からヴィランが這い上がる。
そこから呼び出すは配下のヴィランだけでなく異世中にいるガルムなどの凶暴な猛獣たち。
捌き切れない量がこの世に蔓延ったと思われた瞬間、赤、青、黄色の三色が眩しいヒーローたちも現着する。
「熱い思いで世界を救う! 灼熱の魂! レスキューレッド!」
「慈愛の心で世界を救う! 麗しき魂! レスキューブルー」
「楽しい意思で世界を救う! 元気な魂! レスキューイエロー」
「地球を救う気高き魂! 救界戦隊!」
「「「レスキューワールド!」」」
三色の爆炎が迸る展開に巻き込まれたヴィランたちは跡形もなく消し飛んだ。
ここに五人のヒーローが入り乱れる正義の展開とリージェが広げた異世の展開が混沌とした戦場を作り上げる。
大規模侵攻を超える展開の密度で繰り広げられる戦いもまた歴史に名を残すことになるだろう。
「ど、どうしてお前らまで……」
「ライバルを見殺しには出来んからな! あとは俺たちに任せろ!」
「そーだよ! 何も言わないなんて水臭いよー!」
「飛彩くんはモテモテね」
特に翔香が言いたいことを抱えていそうだったが、想像以上の物量に戦いに専念せざるを得ない。
一人物陰に運ばれた飛彩は茫然と戦いを見つめることしか出来なかった。
「俺が何やったかわかってんのかよ! 俺を庇えばお前らだって……」
無断出撃に、重要な防衛拠点の破壊。
それに与したとなればヒーローの資格を剥奪されてもおかしな話ではないし、場合によっては刑事罰も下されるだろう。
さらに暴走して自我を失う危険な自分を庇えばホリィたちにも余計な悪評が広まる。
そんな未来を迎えたくなかったからこそ飛彩は一人で立ち上がったのだ。
その決意を揺るがす光景に自分が信じていたものが根底から覆ってしまうような気がして、ただただ震えた。
「飛彩さん」
「カクリ……お前まで?」
「メイさんが作っていた高速輸送船のおかげで無事に皆さんを運ぶことが出来ました」
展開を保持している人物を運べないという制約が存在していたが、本来の力からは劣る能力行使となるもメイの科学力によって無事に解決できたようだ。
全員が力を合わせて飛彩を助けようと集ったのである。
自分が守る側であるかぎり、守られることはないと思っていた飛彩は言葉を失う。
「飛彩」
通信機越しに語られる優しい声音。
母のような優しさを含ませたメイが中央司令室で封印の隔壁を動かしながら語りかける。
「周りはよく見れたかしら?」
「あ、ああ……何が何だかわからないっすけど」
混沌と化す戦場だが一つだけ共通していることがある。
全てのヒーローたちが世界を守るためでなく飛彩を守るために戦っていることだ。
「こいつらクビになるかもしれねぇのに何俺のことなんか助けにきてんだよ」
世界を救う危険な賭けに出ようとした理由。仲間が誰も戦わなくていいように敵そのものを滅ぼす。
そうやって皆を真折ろうとしていたが現実はどうだ。あえなく強敵に敗れ、仲間に迷惑をかけて守られている。
「それでも飛彩を助けにきたの。みんな備えてた。君と一緒に戦えるように」
「……誰も助けてくれなんて言ってねぇ」
「かくいう私も移動戦闘機まで作っちゃった。カクリも一緒に戦えるんだからすごいでしょ?」
「……やめろって!」
仲間の助けなど飛彩は望んでいなかった。
どれだけ傷つこうとも仲間の平和を守れるのなら自分はどうなってもいいと考えていた飛彩に取って今の景色はまさに望まない展開そのもの。
「逃げろ! そいつには敵わねぇ! 俺がなんとかするから早く!」
他対一でも十分渡り合っているリージェ。その戦いぶりが飛彩の言葉を偽りではないと告げている。
「飛彩、そういうことじゃないわ。私が言いたいのは……」
「メイさん、飛行機で来たなら早く撤退しろ! アンタまでクビになるぞ!」
「——君は優しすぎるわ」
「いいから撤退指示を! 黒斗! 早く逃げろって!」
会話をする気のない飛彩はただ狼狽えるように虚空へ声を荒らげる。
もはや力の篭らぬ四肢は敵を吹き飛ばすための拳も握れない。
にもかかわらず喚くばかりの飛彩の元へ走り寄る蘭華は狙撃銃を背負い、持ち場を放棄してまで飛彩に歩みよった。
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