【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

高まり昂れ!

公開日時: 2021年5月30日(日) 00:16
文字数:2,328

 食らいつけば誰かの牙が喉元を穿つ、その一縷の望みに賭けて永遠と続く舞を披露するかのような熱太達。


「仕方ない、一瞬だけだよ」


「っ!?」


 跳び膝蹴りも軽々と躱されてしまい、三人の位置取りが完全に分かれてしまった。

 その隙を逃さずにリージェは全方位へとその場にいることを拒絶するような波動を放つ。


 次はエレナの射撃で牽制し、熱太の斬撃でという組み立ては崩れ落ちた。

 しかし、頭の片隅で一瞬だけなら常に発動しているような波動を撃てるのではと考えていた熱太だけが機敏に反応する。


「二人とも身を守れ!」


 奪い取っていた展開力を全て込めた灼熱の一撃が熱太の周囲にやってきた波動を切断した。

 エレナや翔香が周囲の黒い家に叩きつけられる中、追撃を防ごうと熱太が突貫する。


「君なら反応してくれると思ったよ」


「仲間には手出しさせん!」


「あんな雑魚達なんて一瞬で葬れる。僕の狙いは最初から君さ」 


 熱太にだけ集中出来る環境作り、さらにブレイザーブレイバーに残る展開力を使い切らせる攻撃。

 作戦としてはセオリー通りだが、それに熱太は従わざるをえない。


 だが、仲間を守らなければという感情で始まった鍔迫り合いは侮辱により憤怒へと変わる。


「俺の仲間を馬鹿にするな!」


「するに決まってるだろ! 君は認めてあげなくもないが、他の連中は全員隠雅飛彩の足元にも及ばない虫ケラ同然だよ!」


「絶対に……許さんッ!」


 かかった、そうリージェは心の中でほくそ笑む。

 怒りで通常以上に力が発揮出来るようになるのはリミッターを外すという意味では適切かもしれないが、戦い方の技術面では偽りというのが歴戦のヴィランの持論なのだ。


 熱太の戦力は削がれ、本来はリージェの展開力を削がなければならない場面で怒りに任せた熱太の特攻は完全に掌の上なのである。


(今なら潰せる!)


 剣を蹴り飛ばしたリージェは後方に下がりつつ、巨鎚を振り下ろすように右拳を地面目掛けて思い切り振り下ろす。


「リジェクトールハンマー!」


 全盛の力にはまだ及ばないだろうが、それでも熱太をグチャグチャの肉塊に変えるには充分過ぎる。

 本来見えないはずの拒絶波動は黒と紫が織りなす拳のような塊で地面を穿った。


「……よし」


 黒の世界に巻き上がる砂埃は黒と茶色が混じる、見難さがより高まるようなもの。

 現在の形でいることを拒絶する一撃で一滴の血すら残らぬほどに潰れたはずだとリージェは口角を上げる。


「さて、次は……」


 だが、そこで渦を巻くような一閃がリージェを襲う。

 作り上げていた間合いがなければ今頃火達磨だったと、半身下がった回避は肝を確実に冷やす。


「何!?」


「ふっ!」


 縮地の動きにより、どこまでも一歩で進めてしまいそうな歩法がリージェの背後を容易く奪う。


(くっ! 展開力が少ないからか!)


 振り向きざまに顔面目掛けて放たれた肘は、熱太の真上を向くような蹴り上げがいとも簡単に崩していった。


「燃え尽きろ!」


 曝け出された上半身目掛けて、蹴り上げた足を踏み込むようなすれ違いざまの斬撃はハイパーレスキューレッドの時と同じくリージェの鎧を溶かしていく。


「た、ただの人間に!」


 ダメージを無視しながら、向き直ってくる熱太へと反撃しようとしたリージェの手が止まった。

 それもそのはずで、なんと剣を握る熱太の両腕はレスキューレッドの物に変化しているのだから。


「ば、馬鹿な!」


「何をぶつぶつ言っている!」


 炎を纏う斬撃は振り回すたびにその温度が高まっていく。

 紙一重で躱していくリージェは熱太が自身の変化に気付いていないことを悟る。


(なんて集中力だ……これは怒りじゃない、まるで純粋な殺意!)


 怒りは力にならない。

 しかし純粋な殺意というものは相手を殺すという一点目がけて余計なものを削ぎ落として力に変えていくのだろう。


「ムカつくなぁ……本当にムカつくよ! 人間のくせに!」


 この戦いは元々の戦力差があるものの、感じているハンディキャップは本来同じなのだ。


 変身できない熱太と、全ての力を解放できないリージェという境遇は同じというわけで。


(何より、こんなやつに思い知らされるなんて……!)


 様々なしがらみにより本来の力で戦えないリージェのフラストレーションは、迅速に問題を片付けられないことではない。


 現状の力のみで問題を、いつも以上の力を発揮して解決しようという覚悟が自分になかったということを気づかされたからだ。


「人間だヴィランだなど、いちいちうるさいヤツだ……お前を倒すことに種族など関係あるのか?」


「……その達観した口ぶりがムカつくんだよぉ!」


 自然体に構えている熱太目掛けて振りかぶった拳は凍てつく鞭によって縛り上げられる。

 異変を感じるよりも早く、動きが止まったリージェの背中へと翔香の回し蹴りが減り込んだ。


「ぐがぁ!?」


 同時に鞭の捕縛が解除され、倒れかかったリージェに熱太渾身のアッパーカットが叩き込まれる。


(仲間の復活も気にせず、当たり前のような連携、だと……!?)


 無事だった仲間に感激の声を漏らすことなく、当たり前のように戦いの一手に組み込む熱太。

 それがまた、覚悟をしたつもりが拘りきれていないリージェを刺激する。


「そうか、お前達は三人で一人のヒーロー……世界展開が目覚めかけたことで連動したってことだね」


 熱太と同じく両腕が変身後のアーマーに包まれているエレナ、両脚が黄色と白の装甲を纏っている翔香。

 それぞれ武器や特性に合わせた箇所から世界展開が始まっており、伝染する集中力が自分の状態よりもリージェを倒すことに注がれている。


「……初めて人間が羨ましいと思ったよ」


「黙れ。お前は感情のようなものを抱いているに過ぎない鎧の塊だ!」


「何だと……」


 リージェが熱太の逆鱗に触れたように、熱太もまたリージェの逆鱗に触れてしまった。


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