仲間たちは恐怖でその光景を眺めるしか出来なかったのではなく、フェイウォンと飛彩の放つ展開域があまりにも禍々しく、ヒーローだろうと駆け抜けることは不可能な状態になっていた。
まるで真っ黒な海のようで、突如として光を通さない海原や大穴のようにヒーローには見えていることだろう。
それでも言葉を失ったことは間違いない、すぐに声をかけられなかった熱太たちは失意のまま立ち尽くしている。
そのまま飛彩が戦えば終わってしまいそうな状況の中、どうすれば良いのかヒーローたちも分からないままだった。
「だめだ、隠雅の通信機壊れてるみたい……」
「くっ、我慢ならん! こんな時に支えてやれずにどうする!」
波のように寄せては返す展開域の端へと踏み出そうとした熱太を止めたのは瞬時に背後へ移動していたララクだった。
「ダメ……この展開域はかなり危険」
「そんなこと、やってみなければ……!」
集まるヒーローたちから少し離れたところに腰掛けるリージェの知覚へとララクは鎮痛な面持ちで胸に手を当てながら戻っていった。
戸惑いは受肉した存在にも大きな影響を与えている。
「落ち着きなさい、ララクの言う通りよ」
「メイさん……」
「ここまで禍々しい展開域は初めて見たわ……世界展開とは望む世界を現実に顕現させる能力なのは知ってるわよね?」
威圧しないように鎧の姿を解いたメイは、いつもの授業のような調子で丁寧な説明を始める。
「能力がその空間で使えるようになる、というのが意味合いとして大きいけど……実際はその時の精神状況とかも大きく反映されるわ」
故に追い詰められた時には淀み、力が濁る。
逆にゾーンのようなものに入った時には漲ったまま身体の一部のように思うがまま使うことが出来るだろう。
視界も接近も阻害するようなこの展開力にはフェイウォンの領域と重なって増幅している部分もあるが、飛彩の戸惑う気持ちが反映されていると考えて間違いはないだろう。
「だったら、意地でも通らなきゃだめじゃない……!」
声の主に注目が集まる中で現れたのはホリィに肩を貸されながら歩く蘭華だった。
「人とかヴィランとか関係ない! 私たちは飛彩だから一緒に戦ってきたって! 言ってあげなきゃ!」
すでに涙を流していたのか、目元が腫れている蘭華はこの中で一番非力な存在で。
しかし、ヒーローたちの会話を様子見していたリージェは誰よりも命の輝きを放っているように思える。
「みんな飛彩が好きなんでしょ? 傷つくのなんか恐れてちゃダメだよ!」
「蘭華ちゃん、落ち着いて……」
メイが諌めようと蘭華は止まらない。
ホリィから離れた蘭華はよろよろとヒーローたちの中心へと歩み寄る。
「今一番怖いって思ってるのは……飛彩なんだから!」
再び溢れる涙が乾いた世界を潤わせた。
そして、どうすれば良いか分からず戸惑っていたヒーローたちの心に火を付ける。
「……そうだね。いつも率先して傷付いてたのは飛彩くんだ」
「私、隠雅を守るって決めてたし!」
屈伸運動で準備する翔香と重い鎌を構え直した刑が蘭華の隣に並び立つ。
「ララク、今度は止めるなよ。死ぬかもしれなくとも、俺たちは突き進む!」
「熱くなっちゃう皆を冷ますのは私の仕事だし、ね」
「それが蘭華の望みなら、私は地獄でも一緒に行くよ」
熱太、エレナ、春嶺と次々に立ち上がる仲間たち。
ララクも複雑な胸中などはいったん捨て去り、飛彩を救うために決意の表情を浮かべる。
「私も仲間に入れてよね!」
その暖かな光景をただ眺めるしかなかったリージェは命の輝きをそこに見出した。
蘭華を運んできたホリィが少し輪から外れていたことに目をつけ、リージェはゆっくりと歩み寄って心の中の迷いをヒーローへとぶつける。
「なぁ」
「……なんですか?」
「何故逃げないんだ? 隠雅飛彩のために命を失うかもしれないんだぞ?」
リージェの心の底から理解できない人間の行為。
誰かのために戦う思考はリージェの中には存在しない。
「貴方には心の底から守りたいものはないのですか?」
「おいおい余計な哀れみはよせよ。俺の質問にだけ答えてくれればいいんだ」
高圧的な言葉とは裏腹に、リージェは答えを求める赤子同然で。
「……人は一人では生きていけません。人と人との間に生まれたものこそ命なのです。それを守るために私たちヒーローがいるんですから」
敵の品評など関係ない。
故にホリィは持論を語り、そのまま蘭華の隣へと歩んでいく。
正しさや誤りなどの問答をするつもりもない、その態度が尚更リージェに刺さったようで。
「そうか……だからお前らは輝いてるのか」
受肉したからといって、命を手に入れたわけではない。
その事実はリージェにとって新鮮な事実として刺さっている。
「……それでも分からんよ。喜びを分かち合えるのは自分が生きてこそ、じゃないか」
悪態をつきながらもリージェも察していた。
自分が死んだとしても生きて欲しい存在がいることの大事さを。
そこに生まれた絆こそが自信が生きていると断言できるほどのものなのだ、と。
しかし長年ヴィランとして生きてきた現実が、ヒーローの言葉を認めたくないものとしてリージェをその場へと留めさせる。
「隠雅飛彩を倒すのが……始祖でいいのか?」
その問いは暗闇の中に消えていくのに対し、ホリィたちは展開を漲らせ一つの弾丸となるように陣形を組んだ。
「何言っても皆が止まらないことはわかったわ。だったら最短距離で飛彩の目を覚まさせにいきましょう」
筆頭に立つメイは白衣を脱ぎ捨て、展開力の鎧を一瞬で装着し直す。
その側には刀を構える黒斗が並んでいる。
明らかに今までの関係性と異なる雰囲気に、ホリィや翔香は何かを察したようだが今はそれどころではないと考えを改めた。
「作戦は単純! みんなの展開力を結集する!」
「そして! 飛彩に逢いにいく!」
展開力を持たない蘭華もまた、言葉を紡ぐために全身に力を漲らせる。
飛彩との絆を信じる者たちの進撃が始まった。
お前は悪ではないと、ただその一言を言うためだけに走り出す。
明かされた真実。
それは闇よりも、黒く深く……
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『次章予告』
全てを背負い、フェイウォンと死闘を繰り広げる飛彩。
しかし、始祖の実力は圧倒的で苦戦どころか一方的に追い詰められていく。
そんな黒い鎧に身を染める飛彩に蘭華たちは何を想う……!
次回! 第五部 三章!
『『『未完ノ王冠』』』
護ってみせる! この世界を!
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