「さあ、熱太くんが相手取ってるはずだから行きましょう。大丈夫。順調に奪えてるわ」
急速な勢いで変わっていく数字を見ながらエレナは作戦の成功を予感する。
圧倒的に格上の相手ゆえに油断と慢心が溢れている間に何とか変身を遂げたい、とエレナと翔香もララクを追いかけていった。
そして翔香の冷静さを取り戻させるために陽動を買って出た護利隊員たちと熱太は逃げるララクを追い続けている。
(奴が追いかけっこを続けてくれるなら好都合……後は時間が経つのを待つだけだ)
熱太の腕についている残りのカウントは一分。
想像以上の善戦に変身した後の戦いも組み立てることが出来る、と熱太は戦いの中で安堵のため息をついた。
いや、ついてしまったのだ。
「あ、それがゼロになったらヒーローに変身出来るのね?」
「なっ!?」
走って追いかけていたにもかかわらず、ララクは一瞬にして熱太の隣でふわりと浮きながら左腕についていたそれを覗き込んでいた。
「ねぇ、私達。戦う理由ないわよね? ララクは別に侵略したいわけじゃないわ。人間とは仲良くしたっていいと思ってる」
「!?」
嘘をついているとは思えない様子に飛彩が迷いを抱くわけだ、と熱太は歯噛みした。
本心だろうと嘘だろうと太刀筋が鈍るような話からは耳を遠ざけたいと心優しき存在ならば感じてしまうだろう。
「とりあえず飛彩ちゃんやホリィちゃん、蘭華ちゃんにカクリちゃんには私の家にお引っ越ししてもらうの」
一方的な拉致でしかない時点で、いくら人間のような見た目をしてもヴィランでしかないと熱太はララクの禍々しい雰囲気にのまれてそう感じてしまう。
「だから、戦わなくていいわよね? ララク、怒ってないわ。私を通してくれれば誰も殺さない」
もしかしたら通じ合えるのかもしれないと頭によぎった熱太だったが、すぐに考えを改める。
思い通りにいかないならば相手を殺めるという選択肢がある時点で正常な人類とは根本的に違うのだと。
「ヒーローなら理由もなく戦ったりしない、よね?」
「理由ならあるさ……お前のようなヴィランからこっちの世界を守るためにお前を倒さなければならない!」
「ララク、侵略には興味ないって!」
「その言葉は個人としては信じたい……だが、ヒーローとしては信じるわけにはいかないのだ!」
すかさず距離をとって剣を突きつけながら警戒するも、ララクのリラックスしているように見えながらも一切隙を見せない佇まいに熱太の呼吸が浅くなっていく。
「そっか……飛彩ちゃんも、きっとそう思ったんだよね」
「——何の話だ?」
「迷って迷って色々もやもやしたけど……私、欲しくなったものを手元に置いておかないと我慢できない性格なの。だから、面白いものも、かわいいものも、胸をドキドキさせてくれるもの全部……私のものにしたいんだ」
その刹那、凄まじい覇気に包まれた熱太は、瞳を閉じて風もないのに両手で顔を覆ってしまう。
それが錯覚だと気づいて防御体勢をとっても時すでに遅く。
「貴方に話した通り、侵略もしないし興味もない……でも、やっぱり飛彩ちゃん達は別だわ」
声が耳に届くよりも早く、鋭いヒールの前蹴りが熱太の腹部へと炸裂して地面の上を何度も転がさせていった。
「ぐふっ……あの恰好から出る蹴りじゃないぞ」
「もう一度会えばきっと飛彩ちゃんもわかってくれるって」
自分の世界に入ってしまったララクは目を真っ黒に染め上げ、瞳孔を赤く光らせた。
くすくすと笑い続ける少女はもはや悪魔といった様相で不敵な態度を見せる。
ヴィランとの戦いの経験が多い熱太でも身体が未知の恐怖で満たされていくのを感じた。
浮かぶ思考は「飛彩ならばどう対処する」「飛彩ならばどう戦う」「飛彩が来るまでの時間を稼ぐにはどうすれば」と共に戦ってきた戦友に意識を染め上げられていく。
「そうと決まれば早速戻らなくちゃ。展開を抑えればここに引っ張られないだろうし!」
そして眼前にいるはずの敵ですら、熱太を見ずにどこにいるかとも分からないはずの飛彩を見据えている。
任せろ、そう言ったはずだったが、熱太は飛彩とタッグを組んで戦う前提で戦いを考えるようになっていたかもしれない。
「……クソッ!」
剣を地面へと投げつけただけでなく、熱太は自分の頬を思い切り拳で殴りつけた。
夢見心地に暴走するララクも流石に目の前で起きた奇行に首を傾げさせられる。
「貴方、おかしくなっちゃったの?」
「ああ……そうだな。俺はおかしかったんだ! 飛彩に守られて、共に戦って当然だと!」
「ララク、人の話を聞かない人が大嫌いなんだけど?」
自分のことを棚に上げつつ、傘を刺突の構えに携えて熱太を睨みつけた。
その気になれば、いつでも心臓くらいは射抜けると言わんばかりのゆるい構え方で。
「飛彩がお前をどうしたいかは知らん。だがな、ヴィランが人間を狙おうとしている以上、俺はお前を倒さねばならん! そうとも、これはあいつが来るのを待つ戦いじゃない!」
聞き飽きたと感じたようでララクは素早く刺突を撃ち込んできた。
距離など無かったと思える歩法は熱太の目には映らなかったものの、狙いは心臓と予期して傘の側面を殴り付けてララクの攻撃を弾く。
「これは……俺たちの、俺の戦いだ!」
その魂の叫びと同時にカウントはゼロになり、灼熱の柱が熱太の足元から吹き上がる。
ヒーローの展開を起動させるにはヴィランの展開が必要だが、一度起動できれば後は展開者自身の能力に大きく左右される。
燃え上がる闘志が通常より大きな展開力を生み出し、腕に装着していた腕時計型の発動キーへと高らかに変身を宣言した。
「世界展開! キューカイチェンジ!」
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