【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

侵略された地〜白き闘技場〜

公開日時: 2020年9月25日(金) 00:02
文字数:4,025

この方法はヒーローや隊員なら誰でも一度は思いついたことのある方法だろうが、その数秒後には不可能と諦める絵空事だ。


封印杭でそれ以上の侵攻を押しとどめているとはいえ、中はすでにヴィランが自由に出入りできる空間となっている。


そこではもう地球のルールなどは通用しない。


「——飛彩、お前死ぬ気か?」


冷静な相貌が焦りで震え、眼鏡の奥の瞳が動揺を示していた。


飛彩は冗談ではなく本気だと理解した上で、危険な責任の取り方を選ぼうとしている。


「黒斗、俺はもう疲れたんだ」


「だからと言って自殺行為など……」


「俺はだれか救える力を手に入れた。でもそれで仲間まで傷つけちまったら……俺はヴィランでもヒーローでも護利隊でも何でもない」


司令室の椅子に座り込んだ飛彩は左腕と右腕を交互に眺めた後、再び飛彩へと視線を向ける。


真理を悟ったかのように吹っ切れた様子の飛彩に黒斗は危うげな気配しか感じられなかった。


「もう俺が……ヒーローがいなくてもいいように俺が異世(あっちがわ)をぶっ潰す」


一瞬だけ黒斗が瞬きをした瞬間、飛彩の左腕と右足の力は解放され装甲が装着された状態になっている。


「見ろよ。ヴィランの展開なしで俺の展開は張れるんだ。もう暴走する気配もねぇ」


異様な光景であるにもかかわらず黒斗は驚きの声をあげることもなかった。


もはや人間の常識では計れない強さまで昇り詰めた飛彩は、静かなる闘志で満ちている。


圧倒的な実力者というものは言葉で語ることはない。

退治している黒斗は肌がひりつくほどの威圧感に真っ向から立ち向かわされている。


「やめろ。計器に反応が出る」


「あ、そうだったな」


一瞬で黒と赤の光は飛彩の身体の中へと吸収されていく。


カバンの中にしまうくらいの軽い調子で能力を消す飛彩もまた人知を超えている。


「つまり、平和な世界のために異世界人を皆殺しにするってことで合ってるか?」


「人聞き悪い言い方だな……まあ、つまりそういうことだ」


「死ぬぞ。間違いなく」


「構わねぇ。死ぬとしても一番強い奴と相討ちで死んでやるさ」


自分の命を何とも思わぬ様子の飛彩に黒斗は悲しみを滲ませたため息を漏らす。


しかし、圧倒的な力を持っている飛彩ならば本当に異世を鏖殺できるのではないかとも感じてしまっていた。


「——お前はいつもそうやって無茶を繰り返してきたな」


「男は度胸だ。やれるって考えたら、やり切る。ただそれだけだよ」


「……わかった」


口角を上げる飛彩に対し、黒斗は眼鏡をかけ直す。


そのままゆっくりと立ち上がったかと思えば飛彩の背後まで一瞬で歩み寄った。


「荒療治も必要だな」


「どういう意味だよ?」


「許可してやる。いくぞ、侵略地域に」


そうこなくてはと、気難しい表情からやっと笑みを浮かべた飛彩。


しかし、黒斗の口ぶりに一つの事実に気づいた。


「いくぞ、ってことは?」


「ああ、俺もいく。出なければお前など門前払いだ」



「男二人旅かよ……」



どうでもいいところで辟易する飛彩だが、二人にとって地獄も同然の旅が始まるということをまだまだ自覚出来ていなかった。






「着いたぞ」


そして、時は現在に到る。

舗装されていない悪路を走り、数個の山を超えた辺鄙な場所にそれは鎮座していた。


「ここか……」


本来ならば見渡しのいい草原だったのだろうが、眼前に広がっているのは巨大なドーム状の建物だった。


言うなれば闘技場のような形のそれが封印杭だけでなく空間を覆い、空とも世界を隔絶させていた。


「中はどうなってる?」


「中にいるヴィランが増えすぎないように爆撃などを行うらしいが、それで死ぬような雑魚がいくら死んだところでこの空間は取り返せない。つまりここは強者にとっての観光地のようなものだ」


もしギャブランが生きていたのならカジノなどを経営していそうだ、とヴィランを揶揄する飛彩はすぐ近くに建造されていた居住施設に気がついた。


「準備はそこの監視施設で行う」


「そんなんしなくてもいいだろ。あの装甲車に全部積んであるんだ。突っ込みゃいいだけじゃねぇか?」


経費のことなど一切考えない飛彩に、後のことなど何も考えていない危うさをより感じてしまう。


飛彩は死に場所を求めているのかもしれない、と。


それを指摘できないでいる黒斗は司令官という立場を忘れ、一人の少年にどう接すればいいのかを見失っている。


「……中に入るには手続きがいる。少し待て」


「組織ってのは面倒くせぇよなぁ」


今にも飛び出しそうな飛彩は鋭い目つきで侵略区域を睨んだ。


日本にはここだけではなく他にも数カ所存在している。


ここのように全て隔離出来ている場所の方が珍しい。


侵略されたにもかかわらずアドバンテージを保てているが故に、飛彩が区域内に入るのもやりやすいというわけなのだ。


「こんな辺鄙なところまで来たんだ。絶対成し遂げてやるよ」


強者の気迫を見せる飛彩に呼応してか、知覚することの出来ない地震のような揺れが起こった。


周りにいた鳥などが光ある太陽の方へ逃げるように飛んで行く。この場が地獄のようになると予見しているのだろうか。


「おい、飛彩。着いてこい」


「へーへー」


 連れられるままに小さな管理施設を進んでいく。

どうやらこの場所は地下に広がっているようだ。確かに展開は三次元的にも広がっていく。


 地上地下空中全て包囲しなければ地続きの場所は全てヴィランに奪われていたことだろう。

長いエレベーターを降りた後は足音が反響する真っ白な廊下を進んでいく。

監視カメラに覗かれていることに気付きながら、黒斗に着いていく飛彩。


「この施設は地下の侵略された場所を覆うように建造されている。お前が勝手な真似をすれば、ここで働いている人間は全員死ぬと思え」


無理やりにでも突撃しようなどと考えていた飛彩に刺された釘。

今すぐにでも戦いたい気持ちを冷静にさせる事実に、飛彩は深呼吸する。


「なるほどね」


 その後、言葉を交わすことなく歩き続けること数分。


地下に広がる大きな空間が視界に飛び込んでくる。

真っ白な空間は床と壁、さらには天井との境目すら感じさせず、まるで永遠に広がる空間のようにも感じられた。


「んだここ?」


「地下への攻撃が激化した場合、奴らはここに落ちるようになっている。ここは異世化を抑える封印の力が地上より強いんだ」


「なるほど、もし奴らが地下から出ようとしても一網打尽ってわけか」


ここでやっと黒斗は飛彩へと向き直った。

視線があった瞬間、飛彩はヴィランの実力者と対峙した時のような悪寒を覚える。


「お、おい。なんだよ?」


「さっきも言ったようにここは封印の力が強い。無論、ヒーローですら展開することは不可能だ」


遠近感の狂う空間。


すり足の要領で接近されていることに気づかなかった飛彩は黒斗の前蹴りを紙一重で避けた。


「お、おい! 何しやがる!」


戦闘意志に呼応して飛彩の強化スーツが青い光を放つ。


だが、対する黒斗はスーツ姿のまま機敏な動きを披露した。


「最後に稽古をつけてやる……無論、俺に勝てないようなら今回の話はナシだ」


ネクタイを緩めた黒斗の眼光は本気そのもの。


しかしそれこそが怒りの琴線に触れた。かつて修行で痛めつけられた過去への報復という矮小なものではない。


「テメェ、この前俺に負けたの忘れたのか?」


「——本気を見せてやる」


「やめとけ。裏方が戦えば怪我するだけだぜ?」


 怒りを覚えたのはそこだった。

人類が倒したことのないランクEのヴィランを殲滅するだけでなく二つの能力に目覚めた飛彩はもはや人類最強に近い。

その自負があるからこそ自分が戦わねばならないという責任感に囚われているが、それは強者の使命と今は捉えている。


だからこそ飛彩は怒りを覚えた。訓練も何もしていない人物が自分を止めるなどと宣うのだから。


「お前だって俺の方が司令官出来るなんて言ったらむかつくだろ?」


最後通告をしつつ、飛彩も姿勢を低く構える。


左拳を牽制として突き出し、右腕に力を込める。

対する黒斗はさらにスーツのボタンも外し、より戦闘的な様子を見せた。


「グダグダうるさい。さっさとかかってこい」


「……くそったれが」


そして、その時は訪れた。


飛彩の顔面を狙った前蹴り、それを左腕で払いながら右拳でのカウンターを飛彩は狙う。


「はぁ!」


しかし、なんと黒斗は左腕にかけた右足を引っ張るようにして飛彩を前へとよろけさせ、その場で反転しながら飛彩の腹部へ横蹴りを放った。


「ぐあっ!?」


真っ白な床とアーマーが擦れ合う耳障りな音が響く。


その勢いのまま両手を床に叩きつけ回転しながら跳ね起きる。


「まだだ……!」


仕掛けようと視線を黒斗へと戻すが、その視界を埋めたのは革靴の底だった。

途切れることのない流れるような攻撃に、一撃を弾いても駒のように回転しながら黒斗のしなる脚撃が飛彩を何度も襲った。


「ぐっ!? があっ!」


 一連の攻撃の最後を締めくくるような蹴り上げによって飛彩の両腕は万歳のように天井へと向けさせられた。

完全に崩れた体幹にトドメを刺すような後ろ回し蹴りが左頬へとめり込んだ。

まさに黒斗は殺すつもりで戦っている。


「……む?」


蹴り抜けた感覚が少ないことに気づいた黒斗は、わざと大きく仰け反った飛彩と視線を交差させる。

火花が散るような互いの眼光が寒々とした部屋に熱気を帯びさせた。


「ボコスカ蹴りやがって!」


威力が乗り切る前に後ろへと避けた飛彩だったが、頬につけられた靴跡が痛々しく染まっていた。

数歩の間合いのまま二人は動き続ける。


「飛彩、勘違いするな。お前が特別なんじゃない、お前の能力が特別なだけだ」


「……んだと?」


「ここまで連れてきたのもお前に弱さを教えるためだ。これほどの展開封印があるのはここだけだからな」


挑発にしては冷徹すぎるその瞳に飛彩は二の句をつけることができなかった。


「確かに俺はお前なら出来ると思った……自力で俺を圧倒できるようならそれも認めざるを得ない、とな。だが、結果はこうだ」


片膝をつく飛彩と一切の隙のない構えから見下ろす黒斗。以前の結果とは真逆の結果に飛彩も歯噛みする。

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