「この力があれば、お前が本当に欲しかったものも……手に入ったはずだ」
素人同然の大振りを弾かれ、躱され、無様に這いつくばる。
肩で息をするフェイウォンは殺意と共に、地面から表を上げた。
「……!」
先ほどまでの戦いでもホリィや熱太などの幻影が見えていたフェイウォンは茫然とする。
遠く離れているはずのヒーロー達が再び、飛彩の背後に見えてしまったのだから。
「見えるか?」
そう呟く飛彩は振り返らずとも感じているようで、フェイウォンから視線を切ることはない。
「世界展開は、こうやって誰かと繋がり、手を取り合える力だったんだ」
「それは……奪われるだけの弱者の妄言に過ぎない!」
「だからこうやって戦いに使うのは俺たちで最後にしよう」
「うるさい……! 黙れぇ! それは私が決めることだぁぁぁぁぁァァァァ!」
冷静さを失ったフェイウォンと、仲間の脈動を携える飛彩は最後の技の応酬を繰り広げた。
フェイウォンは人型に留まることが出来なくなり、吹き出したオーラがかろうじて人のような形になっているだけになる。
しかし、防御も何もかも捨てたその力は、攻撃的意志の塊と言えよう。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「説得で終わるなら、もう平和だよな……全く、説教するヒーローかってんだ」
触れるもの皆、焼き尽くす怨嗟の炎。
伸びる炎は腕のように自在に操られているものの、飛彩の展開力を帯びた刀はそれを無へと還していく。
「矛盾してようと関係ねぇ! この世界展開で、俺の信じる正しさを押し通す!」
火傷程度で済むはずもない圧倒的火力の前に、飛彩もまた燃え上がる想いで立ち向かった。
本体から切り離した炎は簡単に消えていく。
「はぁっ! ふっ!」
故に四方八方から飛来する攻撃を、飛彩は斬り伏せながら本体へと突き進んだ。
立っているだけで肺を焼くような熱さにもかかわらず、飛彩は止まることはない。
仲間と共に戦う展開力が、燃料のように飛彩の中に流れ込んでいくからだ。
「テメェの炎と俺の熱さ、どっちが上か比べようじゃねぇか!」
展開力により繋ぎ止められなくなった足場は激しい戦いにより、崩れ落ちていく。
戦いの終わりは近いだろうが、苛烈さがどんどん増していった。
「ウガァ!」
「しゃあッ!」
鬼神の如き戦いを見守る蘭華は飛彩の勝利を強く信じている。
キレのある動きは展開力によるものではなく、飛彩が元より持ち合わせる身体能力だ。
それに敵を斬り裂く刃があれば、勝利は揺らがないと信じて。
「飛彩ぉ! 勝って!」
唯一届けられるであろう声援を背に、飛彩は炎を斬り落として進んでいく。
「蘭華、ギャーギャー言ってねぇで、どっしり構えてろ」
その呟きが聞こえるはずもないが、想い合う展開力でつながった二人は側にいるかのように言葉を交わす。
「うん……飛彩の相棒だもんね!」
その蘭華の言葉に合わせ、飛彩は強く一歩を踏み込む。
明らかに有利な飛彩を撃ち落とそうと、フェイウォンは本能で全方位から取り囲むように炎の腕を伸ばした。
視界を埋め尽くす紫黒の炎に対して、飛彩はあえて瞳を閉じる。
「後ろだ! 飛彩! 炎が相手ならもっと熱くなれ!」
聞こえるはずのない熱太の声に呼応し、飛彩は視線を切らずに機敏に背後へ刀を振り上げた。
「熱太、お前の方がよっぽど熱……いや暑苦しいだけだな」
その斬撃を炎の隙間から垣間見たフェイウォンは燃え上がる身を揺らした。
「何ィ!? 何故、反応し……」
その動揺も置き去りに、飛彩の思考は人の身でありながら加速していく。
仲間達と繋がり合う展開力が時間や空間の概念すら捻じ曲げているようで。
「君が帰ってこなかったら熱太くんが鬱陶しいことになっちゃうわ」
「ははっ、エレナさんに迷惑はかけられねぇな」
ほぼ同時に迫っていたはずの炎を見極めた飛彩は、次に飛び出していた左後方へと回転斬りを放つ。
「もー、大振りなのはダメだよ? もっと速く攻撃しよ?」
「俺の方が速いだろって!」
回転斬りから流れるように両翼から迫る炎をはたき落とすように刀を振り回す。
筋肉が悲鳴を上げる速度で振り回された刀はまるで二刀流のようだった。
「ほら、動け。蘭華を悲しませるな」
「天弾のそういうスパルタなとこ! けっこー好きだぜッ!」
共に修行した数ならば蘭華に次ぐ数になるだろう相手に飛彩は満面の笑顔で前方から迫る炎を斬り伏せる。
「飛彩くん、このままだと炎に圧されるよ?」
「勢い付いてるのに水差すなよ、刑!」
おかげで浮き足立つ気持ちを抑えて、呼吸を整えながら丁寧に攻撃を払っていけた。
全ての包囲炎を吹き飛ばしたことで、飛彩はそのまま攻勢に打って出る。
「ま、まだダァ!」
両手から吹き出す炎は一直線に飛彩へと襲いかかり、刀と鍔迫り合いを繰り広げていく。
「もっと剣の修行をやらせるべきだったか?」
「こんな時もお説教かよ、黒斗はよぉ!」
「大丈夫よ、私たちの想いを……その絆を信じて」
「当たり前っすよ、これがあれば負けるわけがねぇ!」
刀なではなく、積み重なった想いこそ最強の武器だと飛彩は一歩また一歩と踏み込みながらフェイウォンに近づいた。
「私、飛彩ちゃんとまだまだたくさんやりたいことがあるわ」
「これからはもっと平和な世界になるんだ、死ぬほど遊びまくってやろうぜ」
また強く、一歩を踏み出す。
ララクという唯一残る血を分けた同族のために。
「帰ってこなかったら天国まで追いかけますからね、飛彩さん!」
「どーだかな、お前に地獄までついてこられちゃ困るからよ……!」
そしてまた一歩、後輩の覚悟に呼応して突き進む。
愛ある叱咤は、飛彩の背中を押して。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
炎を切り飛ばしても、余波で全身を灼かれる。
だが、飛彩は煤けながらも強い眼差しで、攻撃の緩みを狙っていた。
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