第一次、侵略区域奪還作戦始動。
この作戦の有用性を示すためにも手始めに比較的規模の小さな区域へとヒーロー本部と護利隊の共同戦線が敷かれていた。
一時はチームからの脱退を表明していたホーリーフォーチュンこと、ホリィもメンバーに加わり盤石な体制で作戦を開始している。
低ランクといえど凄まじい数のヴィランの襲撃があったものの、護利隊の緻密な連携と飛彩の圧倒的な力でヒーローの変身時間、五分を守りきるとヴィランとの力関係はあっという間に逆転した。
「飛彩、残り二十五体! あっちからも出てこようとしてる!」
「早くあの入り口を潰しましょう。これ以上の増援は面倒ですから!」
暗闇の帳が降りる侵略区域。廃墟となつた一帯を封印の効力がある巨大な柵で覆っただけの簡素な区域だが、中にいたヴィラン達の攻勢は激しいものだった。
「コノ地を渡すわけにはイクカァァァァァァ!」
「ふざけないでください! ここは……私たちの世界ですッ!」
その中で鮮やかな展開力を発揮してヴィランの領域を押し返すヒーロー達。
ホリィが薙いだ浄化の光に包まれたヴィランは内側から爆発四散するかのように崩壊していった。
ヒーローがその実力を発揮する中、遊撃部隊として戦場をかける飛彩はヴィランの展開力を奪い去りながらどんどんと力を解放していく。
その活躍にヒーロー達も負けじと展開力を高めて己の戦いやすい条件へと戦場を塗り替えている。
煤けたように黒く染まった廃墟を、それぞれの展開で塗り替えていく様はヴィランから世界を奪い返して甦らせていくようにも思えた。
「エレナさん! まとめて行っちゃおうよ!」
「ええ!」
氷の鞭を展開力によって引き伸ばしていき、数人のヴィランを一気に縛り上げていく。
胴の部分を中心にして氷漬けになっていくヴィラン目掛けて風を纏う翔香が勢いよく飛び掛かる。
「新技魅せちゃうよ〜!」
縛り上げられたヴィランの頭上まで跳ねた翔香は、真下にいるヴィランへと足踏みするように蹴りを繰り返した。
「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま回転機銃のような勢いで地面までヴィランを蹴りで運ぶ翔香は地面を穿ちながら鎧を粉々に粉砕する。
「どーです! これが新技ガトリングシャワーです!」
「翔香ちゃん、今日はカメラないんだから魅せる戦いとかしなくていいのよ?」
背後から忍び寄ってきた二足歩行のガルムウォーカーを見ずに首を縛り、凍てつかせて引き千切った。
「う、うわぁ……」
「確実に勝つ戦い方で、ね?」
「は、はいぃ……」
地に足をつけた基本に忠実な戦い方へと戻っていく姿を、戦況把握ドローンで蘭華はまじまじと見ている。
「うへぇ〜、エレナさんって結構怖いんだね」
「人様の戦いなんざ見てる場合か! 俺のアシスト頼むぜ!」
「はいはい。分かってるって!」
区域外にある本陣で数台のドローンをたった一人で操作、機銃による迎撃、さらには各ヒーローや飛彩への連絡などを蘭華はこなしていた。
蘭華もまた飛彩と同じく人間離れした所業を見せ始めている。
飛彩と共に過ごす期間が長いからか、蘭華の中でも普通に出来ることの度合いが聳え立つ山のように高くなっているのだろう。
「ん……飛彩、左右から挟まれてる! 気をつけて!」
「最高のアシストだぜ! 相棒!」
迎撃しようとすでに発動していた右足と左足の展開力を引き出して黒と紅の光を迸らせた瞬間、灼熱の炎と純白の光弾が迫り来るヴィランを吹き飛ばした。
「グワァァァァァァァァァァァァ!?」
「あ?」
バイザー越しに眉を潜める飛彩の両脇に降り立つはホーリーフォーチュンとレスキューレッド。
両者とも展開を漲らせてヴィランのそれを隅へと追いやるほどの出力を発揮している。
「おいおい、今のはピンチでもなんでもねぇぞ?」
「思う存分お前を守れるんだ。今日くらいいいだろ?」
「はい。今日も変身時間たくさん稼いで貰っちゃいましたし」
テレビのカメラなど気に掛ける必要もない今は、作戦成功のために護利隊とヒーローが肩を並べて一丸となり戦っている。
「へっ、悪い気はしねぇな」
並び立つ三人の威圧感に、展開力を高めるまでもなくヴィラン達が怯み上がる。
かつて憧れたヒーローになった気分を味わう飛彩は、ニヤリと笑ってしまっていた。
裏側でアシストしているとはいえ、ホリィと一緒に戦うことがどうも面白くない蘭華やカクリは頬を膨らませてしまう。
「ふーん、相棒がたくさんいてよかったですね〜」
「なんで拗ねるんだよ!?」
ツッコミを入れつつも、ヴィランの攻撃を華麗に躱して迎撃していく飛彩。
展開力が充分に高まり、三つ目の能力も同時に発動出来るのを感知する。
「黒斗、行けるぜ!」
威勢のいい飛彩の声が本部に伝わると、一気に畳み掛けるのみだという形で気合が伝播して士気が高まっていく。
「うむ。第一次奪還作戦、ファイナルフェーズだ! 飛彩、左足の力を解放しろ。この地を奪い返せ!」
充分に溜まった展開力を一気に解放する飛彩は、高く跳び上がり深緑に輝く左足を異世への入り口へと突き刺した。
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