そして戦いから数日……。
無茶に無茶を重ね、傷を追い続けた飛彩と刑は同じ病室で真っ白な天井を見つめ合っていた。
「かー! もう治ってるっつーの! 出しやがれクソが!」
「まだまだ治療が足りないよ。大人しくしてくれ……傷に響く」
「このくらい治ったも同然だ」
「飛彩くん。頭の手術も必要なのかい?」
「んだと!?」
と、ヒーロー本部指定の病院の騒音問題に発展している二人は駆けつけた看護師達に諌められて再びベットに縛り付けられた。
「君のせいでまた退屈だ」
「お前が食ってかかるからだろうが!」
反省の色が全く見えない二人に対し、面会にやってきたメイ達が頭を抱えて部屋へと入ってきた。
「また喧嘩してるの?」
「メイさん! 刑が因縁つけてくるんすよ!」
「星霜土博士。違います、彼を教育していたんです」
「そんなのどっちでもいいから早く完全復活して。ただでさえ人手不足なんだから」
身体を起こそうとする飛彩はメイに片腕で寝かしつけられてしまう。
自分としては完全復活した気力に溢れていたのかもしれないが、身体は悲鳴を上げ続けている。
「飛彩は学校の単位も危ないでしょ?」
「——そ、それは言わない約束だろ」
一気に縮こまり、掛け布団に顔を埋める飛彩は勉強が嫌だと駄々をこねる子供のように飛彩は窓の方へ身体を向けてしまった。
「左足の展開力も使いすぎで回復力が落ちてるから使えないし、本当に大人しくしててよね?」
「もちろんですよ。別の個室にしていただけるとありがたいですが」
「怪我人続出で病床が足りないの。我慢して」
戦いの凄まじさはこのような爪痕としても残っていた。
そもそもララクが誘導区域を壊してララクの侵略区域までやってきてしまったことで異世空間が広がってしまったのだ。
ミスタージーニアスをはじめとするヒーローと護利隊の面々の尽力により異世が定着することもなく全て撃退することに成功している。
「そんな状況……か。ではララクちゃんはまずいんじゃないですか?」
「そうねぇ。まだ公にはしてないけど、熱太くんとの戦いでララクちゃんの顔を見てる子もいるし……」
その言葉を背中で聞いていた飛彩は一転して真剣な顔つきになっていた。こればかりは飛彩の力では何も解決できないからである。
「で、ララクちゃんたちは今何を……?」
心配する刑の声音は天井に吸い込まれるように上へと昇っていく。
その言霊が通じたのか、ちょうど二階層真上にいるララクが何かに呼ばれたかのように窓の外を覗いた。
大部屋で仲良くホリィ、蘭華、カクリ、春嶺、ララクが詰め込まれているわけだ。
「ねぇ、ララクそろそろ出たいわ。せっかく戦いから解放されたのに。遊ばなきゃ損だと思わない?」
胸の傷も完治し、展開力も飛彩によって充填されたことで他の面々より一足先に完璧に復活したララクはつまらなそうにベットに腰掛けていた。
足をぶらぶらさせながら未だに横になっているホリィ達にむくれた視線を投げつける。
「だーれのせいで怪我したと思ってんのよ」
強化スーツなしで長く異世の空間に閉じ込められたせいで、精密な浄化治療を重ねなければならなかった。
元気になったとしても体のうちに毒素を持ったままでは業務に支障が出るのは自明の理と言えるだろう。
仲の良い五人とは言え、そもそもララクが領域に連れて行かなければこんな怪我はしていないのだ、と蘭華は湿った視線を送っている。
「ねぇ、あの戦い以降、蘭華が冷たいわ」
「そりゃそーでしょ! 毎日毎日遊びたい遊びたいうるさいわよ。私だって遊びたいって!」
フラストレーションが溜まるのも無理はないが蘭華のむすっとした表情は別の何かに怒りを抱えているようだ。
特に気にもしていないことを隠蓑にララクへと八つ当たりをしている。
「ぬふふっ」
「カクリ? 何がおかしいの?」
上半身を起こした蘭華は病院服をはだけさせながらカクリへと顔を伸ばす。
ニヤニヤしたカクリは掛け布団で口元を隠してわざとらしくぼそぼそと呟いた。
「蘭華さんはライバルが増えて不機嫌なんです〜」
「なっ、そそそそ、そんなわけないでしょ!」
「ライバル? 何の?」
男女の機微が存在するのか不明な異世。それを裏付けるが如くララクは首を傾げつつも身を乗り出した。
それに呼応してカクリは片目を瞑りながら人差し指を突き出した。
「つまり飛彩さんを取られちゃう〜! って怯えてるわけです!」
「カクリ! 余計なこと言わないの!」
とうとうベットから飛び出した蘭華がカクリの口を押さえにかかるも、退屈を持て余した少女達は止まらない。
「カクリだってそう思ってるでしょ! 不思議ちゃんキャラかぶってるし!」
「かぶってません〜! ララクちゃんは世間知らずお嬢様系です〜」
ふざけた大騒ぎが回復を阻害させているのだと考える春嶺は前髪で深く顔を隠し、ぐったりとしている。
全員の元気さに小学生の休み時間かという感想を入れざるを得なかった。そんな喧騒を眺めながらララクは普通の世間話をするテンションで日本ではとんでもない言葉を言い放つ。
「なぁんだそんなこと? みんな飛彩ちゃんに囲って貰えばいいのよ。あっちではそういう感じだったわ。力ある異性に惹かれるの仕方ない話だもんね」
「なっ、そ、そんなの無理だって!」
「あはは。ララクちゃんにはお勉強も必要かもしれませんね」
「飛彩さんのハーレムですか……アリじゃないですかね?」
「なんでカクリは乗り気なのよ!」
「決まりね! 皆仲良く飛彩ちゃんのお嫁さんにしてもらいましょう!」
「お願いだから静かにして……」
まくらに顔を埋める春嶺の言葉も虚しく、全員が疲れ果てるまでこの大騒ぎは続くのであった。
「——なんか寒気がするんだが?」
「ほらみろ。まだ本調子じゃないんだ」
的確すぎる第六感に震えさせられたは、その思考を飛ばすためにメイがやってきた本題について確認する。
「まー身体の調子は置いておいて、メイさんはカクリの今後をどうするか確認しにきたってとこか?」
「まぁね。相手はヴィランよ、司法取引なんてものは存在しない。いくら害のない存在になったとはいえ、組織でも間違いなく意見は割れる」
ほとぼりが冷めるまで隠れてもらうことが難しい相手だと誰が話さずとも意見は一致する。
「私の管理下のもと職務についてもらえば、まだ……」
「それはダメだな」
上半身を起こし、ふんぞりかえった飛彩は両腕を頭の後ろにおいて壁へともたれかかる。
それに怪訝な視線を送る刑もゆっくりと上体を起こした。
「幽閉なんかしたら、ララクを拒絶する連中と同じだ。あいつを自由に出来なきゃ助けたとは言えない」
「——随分とララクに優しいのねぇ」
そのメイの声音はあまりにも平坦で無感情で。
それが逆に飛彩には恐怖として映った。
己より頭脳に優れるメイならばララクを助けたことによる弊害をいくつも見抜いているのだろう、と。
そんな凄みに気圧されたことを恥じつつ、飛彩は拳を握りながらメイを睨み返した。
「あいつが笑って過ごせるように。そんな単純な約束も守れねーようじゃ俺は引退するしかねーな」
「ふふっ、誰もそこまで覚悟を決めろなんて、言ってないわよ?」
「なっ!?」
「——やられたね、飛彩くん」
試されたのだ、と刑の嘲笑を持ってメイの真意を完全に悟る。
つまりメイや黒斗でも、ララクのことはどうすることも出来ず、飛彩がどうしたいのか本人がどうしたいのかを最優先して計画を練ろうという段階のようだ。
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