帝都へと到着した一行。すぐさま第10軍団の病院へ直行した。ギャスパーはエドガーが背負っている。その移動中、ふとミーシャが口を開く。
「ところで君誰〜?」
「初めまして! おれはラスターって言います!」
「今!? もっと後でも良いでしょう!? ラスターも普通に答えなくて良いよ!」
「ふ〜ん。アタシはミーシャ・ポプリア。よろしくね〜、ラスラス〜」
「あれ? あたしの声出てるよね?」
(……ラスラスっておれのこと?)
リリアが必死に訴えるがミーシャは聞く耳を持たず、ラスターも別のことを考えていた。
「リリア、ほどほどにしとけ。ミーシャパイセン自由人だから」
「そうだよ〜リリアン」
「それってミーシャが言うことなの?」
「ほら、着いたぞ」
今までにこやかに笑って、皆の話を聞いていたエドガーが口を開く。
いつの間にか病院に到着していた。帝都の中にはいくつもの病院がある。人口も多い上に面積も広い帝都だからこそである。
ラスターたちが来たのは、帝都中心部にある病院だ。途中にもあるにはあるのだが、中心部の病院のみにある人物が常駐している。
ある人物、それは第10軍団の団長である。
中心部にありながら、大きさはそこまで大きなものではなく、診療所と言うほうが正しいかもしれない。その理由は団長の《異常力》が影響している。病気などでなければ、入院する必要が無くなるからだ。入院は別の大きな施設でしてもらい、団長に診断してもらう人の回転を早めるためだ。
エドガーが扉を開ける。中には同い年くらいの背の低い少女がいた。その少女はラスターたちを見るや否やパタパタと足音を響かせ歩いてくる。
「団長!団長! 一人重症だよ!! 左上腕骨及び橈骨が粉砕骨折、左手の指骨、閉塞骨折。左の大腿骨にヒビと脛骨、腓骨も閉塞骨折。あと肋骨にもヒビがあるよ!! 早く!早く! 治療が必要だよ、団長!!」
大きな瞳をパチパチとさせ、重傷者を背負ったエドガーの周りをクルクルとまわり、ブンブンと腕を振り、わいわいと喋る少女。
行動の一つ一つに、擬音語をつけたくなるような凄い勢いがある。
「キャシー。それは見たら分かるわ……」
奥から更に女性が出てくる。その声は聞く人を安心させるような優しい声であり、長い髪をなびかせ、とても女性らしい落ち着いた癒しのオーラを纏ったような人だ。
「どうも、アリア団長」
「……。見たところギャスパー君の方ね。また無茶をしたの?」
「あー、まあ色々あって……」
「とにかく、お願いします。念のため二人も診てもらえ。気づかないだけで怪我があるかもしれない」
「はい」
「分かりました」
二人は了承する。
「じゃあまず、ギャスパー君をこちらへ」
話が進んでいく中で、ギャスパーが奥の診察室の方へ運ばれていく。二人はキャシーと呼ばれた少女に異常がないか診てもらった。
キャシー・キャロライナの《異常力》。
『深淵博眼視』
自分の目で直接視た者の弱所、弱点がわかるという能力。その応用で怪我や、分かりづらい症状の診断に使われている。
その大きな瞳で見られているとき、自分の心の深淵まで覗かれたような気分だった。
二人の診断結果は、衝撃による軽い打撲と擦り傷で団長による治療は必要ないとのこと。
「ラスター! リリア! ギャスパー!」
そうこうしていると、突然病院の扉が勢いよく開かれる。三人の名前を呼び、レクスが入ってきた。走ってきたのだろう。普段のクールな印象はなく、額に汗を浮かべとても心配そうな表情で二人に近づく。
「あっ! レクス団長!」
「えっ? あの人が! はじめまして!あたしリリ―――」
「お前たち! 大丈夫なのか!? 本当にすまない……! 俺が任務を許可したばっかりにこんな怪我を!」
「えっっ? ちょ!?」
「レ、レクス団長!? ちょっと放して下さい!!」
入ってくるや否や二人を同時に抱き締める。ラスターは会って二日目、リリアに至っては初対面である。なかなか微妙な気分だっただろう。だが、本当に心配してくれているのだと強く感じた。
「団長!団長! 二人、頸動脈の片方を圧迫されてるよ! でもまだ治療は必要無さそうだよ!!」
キャシーが現状をアリアに伝えに行き、場が混沌としてきた。
「団長〜、どうどう〜」
「落ち着いて下さい団長。二人は無事で、ギャスパーも治療中です。もう、大丈夫ですよ」
ミーシャがレクスを二人から引き離しなだめて、エドガーがもう大丈夫だと伝える。レクスも少しずつ落ち着いて来た。
「本当に大丈夫なんだろうな? 服が少し破れて、髪に泥がついている!」
「それもう怪我じゃないです!!」
「あたしたちは大丈夫ですから!!」
ラスターは服の破れた部分を手で隠し、リリアは髪の毛についた泥を落とした。ホントに言ってた通りの心配性な人だね。とリリアが小声でラスターに伝えた。悪い人じゃない、と返す。
「というか、バレないように来たはずなのに何故知ってるんです?」
当然の如く言うエドガーに対しレクスは。
「少し噂になっていたらしくてな。左の手足が折れている人を背負った人たちがここに向かっていたと。それをアルストロから聞いた」
「とんでもない情報網ですね」
「心配性すぎ〜〜。めんどくさがられるよ〜?」
すると、奥からギャスパーが松葉杖をついて歩いて来る。もう治療が終わったらしい。
「えっ!はやっ! もう終わったんですか!?」
「おう! もう安心だか―――」
「ギャスパー!!」
「あ゛あぁぁぁぁ!!近寄んな団長!!まだ完全に治ってねぇから!!!」
ギャスパーはレクスの到達を阻止。少し遅れてアリアも出てくる。
「レクス団長。ここは病院なので大人しくしてくださいね」
「あぁ、申し訳ない。アリアさん」
レクスは急に大人しくなった。ひとまずは大丈夫だろう。
「とりあえず、私の能力であと少しのところまで治しました。一、二週間で完治するでしょう。絶対安静にね」
「アザっす! アリア団長!」
その後は隊舎に戻り、何があったのかを報告。レクスもソフィーも不思議がっていた。あんなところに出てくるような獣ではないとのこと。
怪我があったものの死人がでなかったのは、本当に良かったと安堵していた。この事は上に報告するとのことだ。
ラスターとリリアの怪我の治療をレクスが頼んだが、アリアの能力の特性上治すより自然回復の方が安全だと言われてそのまま帰って来た。
何度死線をくぐったか。思い出すだけで身震いするようだった。今日は解散となったときリリアがラスターにこう言った。
「ねえ、ラスター。あたしたちもっと強くなろう。守られるだけじゃなくて、誰かを守れるくらい強く」
「……ははっ」
「な、何で笑うの!?笑わないでよ、何か恥ずかしくなっちゃうからさ!」
「ご、ごめん。いや、考えてたこと一緒だなと思ってさ。やっぱり、守ることよりも、守られるだけの方が辛いよな。自分のせいで人が傷つくのは見てて本当に辛い」
「うん、そうだね」
「頑張って、一緒に成長していこう。それこそ先輩たちみたいに強く」
「うん! これから、どうかよろしくね!」
「ああ!!」
そこへレクスが現れて―――
「お前たちに伝えることがある。それは――」
ラスターは直感していた。そのあとに続く言葉を。
「―――明日、お前たちは休みだ」
さも当然の如く、翌日の休みが確定した。
To be continued…
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