インペリアル・ウォーレコード

北陸 龍
北陸 龍

第11戦記 刃を突き立てろ

公開日時: 2020年10月7日(水) 12:05
文字数:2,682


「―――って言うのがおれの作戦で、さっきの作戦の中で使えると思ったところを、まとめた感じです」


茂みの後ろにギャスパーを移動させ隠れている。そこで作戦を全て伝えきったラスター。作戦自体は分かりやすい内容だった。だが、ギャスパーは少し不満そうな表情を浮かべる。



「……それだとお前らの負担が大きすぎねえか? 下手すりゃ大怪我だぞ」


「大丈夫ですよギャスパーさん。あたしも覚悟を決めました」


「任せて下さい。絶対に、敵は取ってきます」


「オレまだ死んでねえけどな!」



軽く冗談を織り混ぜながら話す。上手く行けば倒せるかもしれない。そうでなくとも、角熊には多大な被害を与えることができる。緊張しないようにリラックスして挑む。失敗はできない。


時間もなかった。ギャスパーの怪我は重症で、早急に帝都へ帰還して診てもらう必要がある。また、敵は先程の跳躍で大きく前進もした。


最後の攻防になるだろう。



「……さっきは伝えるタイミングが無かったけど、既に助けは呼んである。オレの能力で砂の鳥を飛ばした。危ねえと思ったら、絶対に無理すんな」


「そうだったんですか。分かりました」


「そろそろ行かないと、もう時間がないわ」



最終戦線。越えられれば終わり。最後の作戦がはじまる。


***



ラスターは同じように剣を構え接敵。唯一違うところは腰にもう一本、剣を携えていること。ギャスパーの剣だ。


跳躍してこないように接近戦で戦いを組み立てる。作戦の第一段階は、相手に前足で攻撃させることも相まって必然的に近づく必要がある。


そしてその瞬間はすぐに訪れた。巨大な右の前足をラスターに向かって振り下ろす。動き自体は既に見切っていた。必要最低限の動きでかわす。まさに紙一重だ。


地面に衝突した時の風圧と衝撃にも耐える。これに耐えられなければ勝ち目はない。


仕留め損ねた角熊はゆっくり前足を上げ始める。もう一度攻撃が来る。



―――この時だ。今まさにこの瞬間。ラスターたちの攻撃がはじまる。



「うおおぉぉぉ!!」



ラスターは剣を突き出す。狙う場所は一点、角熊の前足にある肉球。皮膚が硬さや毛に阻まれて駄目ならば、何も無いところを狙い撃つ。


剣が深く突き刺さる。今度は見誤っていなかった。そしてまだここからである。



「GOUAAAA!?」



角熊は悲鳴にも似た声を上げて手を自分方へ戻そうとする。だが、戻らなかった。何が邪魔をする。自分の前足を何が引っ張っているような感覚。



「……させないっ!!」



その感覚の正体はリリアだ。リリアが《異常力》を発動し全力で前足を掴み引っ張っていた。先程、角熊と殴りあったとき最初の一瞬は拮抗していた。だが、先程の場合は『殴る』ということに意識を置いていたため、膠着状態となったとき『耐える』ことができなかった。


だが、今回は違う。今、リリアが意識したことは『掴み続ける』というもの。拮抗した力で前足を留めていた。留まった前足は剣の刺さった肉球をラスターの方へ向けている。


普通に刺すだけでは、大したダメージにならない。リリアも今は耐えているがいずれ負けてしまうであろう。ならばどうするか。


ラスターは《異常力》を発動する。異形の腕で拳を握る。




「くらえぇぇぇぇ!!!」



《異常力》が発動し上昇した膂力で思い切り突き刺さった剣の柄頭を殴る



「GOUAAAAaaaa!!!」



剣が前足を貫通し、そこから大量の出血を確認する。



第一段階は成功。作戦は第二段階へ。もう片方の武器を破壊する。



地面と平行に飛ぶ剣。そのグリップをリリアは空中で掴む。


よく『見て』、確実に『掴む』。リリアの《異常力》があってこその行動。空中で怪我をせず剣を掴む、リリアにしかできない荒業だ。


そして掴んだ剣を掴み直し、槍投げの要領で、ラスターに切っ先を向け向かって投げる。


無論、ラスターには剣のグリップを空中で失敗せずに受けとるなんてことはできない。剣の達人といえど、高速で飛んでくる剣を捕るのは至難の技だろう。


だが、ラスターだからこそできることもある。グリップを掴むことができないなら、直接刃を掴めば良い。異形の右手で白刃を掴む。危険種の牙でも通らなかった鉄壁の鎧。手は斬ることなく剣を受けとることに成功、剣は手元に戻ってきた。



「GUOAAAaa!!」



やはり学習している。上から押し潰すのではなく、もう片方の前足で横に凪ぎ払う攻撃。当たれば大きく吹き飛ばすことができる。それは跳躍した時に、矮小な人間を仕留めた時の経験から導きだされた戦法。




―――だからこそ驚いたであろう。



耐えたのだから。その矮小な人間が自分の攻撃に、耐えたのだ。それだけではない。反撃もしてきた。


攻撃が当たる寸前、既にリリアは走っていた。そしてラスターは、迫り来る前足の肉球に向かって剣を向ける。リリアが到着。ラスターの背中を『支える』。後は『耐える』。



「………うっ!」


「………くっ!」



強力無比な一撃。全身の骨が軋む感覚、吹きとばされた方がどれだけ楽だろうか、しかし諦める訳にはいかない。これ以上進ませない、そう自分の心に誓った。



「GUOU!?!」



数瞬遅れて痛みがやって来た。再び剣が刺さった、いや、刺さりに行ったという方が正しいかもしれない。結果、右の前足に穴が空き、左には剣が深々と突き刺さった。武器の破壊は完了した。


これより作戦は最終段階。止めだ。



痛みでもがく角熊。下の人間を見る。



さぞかし混乱しただろう。今まで眼下に捉えていた人間が突然消えたのだから。



この作戦は、相手の武器を壊し、確実に仕留められる状況を作り出し、止めをさすというもの。それに共通することは、絶対に攻撃が通る場所に攻撃するというもの


先程の作戦の良かった点のみを使い、決行する。悪い点は使わない。悪い点、角への攻撃だ。だから今回の作戦では弱点最も硬い部位の角への攻撃ではなく、弱点以外最も柔らかい部位を狙う。



角熊は視線を上げる。同じ目線に人間、ラスターがいた。



「……ちっとは貢献しねぇとな!!」



リリアに支えられたギャスパーは折れていない右手を上げ、砂を操り空中に道を作る。その上を走り、高みへ登り詰める。先程も使った方法。



「かましてやれ!! ラスター!!!」



「お願いっ!!!」



狙う場所は、一つ。



角熊を大きく怯ませた箇所だ



ラスターは剣を構え、砂の地面を蹴り、飛ぶ。



「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



「GOUUAAAAAAAAAAaaaaaa!!!!」



ラスターの剣は角熊の右目に深く、深く突き刺さる。


奇妙な感触が剣を介し伝わる。脳まで到達したかもしれない。



大きな音を立てて角熊は後ろに倒れた。



その音が、作戦終了の合図だった。





To be continued…


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