この帝国には全部で10の軍団がある。それぞれが別の仕事、分野を請け負って成り立っている。その仕事内容というのは―――
第1軍団……戦闘、侵略などが主な任務。強者揃いで、帝国最強の部隊。
第2軍団……斥候、情報の伝達、尖兵。戦闘もこなせる者も多く文武両道な部隊。
第3軍団……皇帝宮や重要施設の守護。防御や弾く者、屈強な者が多い部隊。
第5軍団……裁判、審判、軍律の立法機関。戦闘は苦手だが戦略を練ったりと頭のキレる者が多い部隊。
第6軍団……『監獄』の運営、懲役刑の執行。技巧派な者が多く平均的に優れた部隊。
第7軍団……処刑、その他刑の執行。仕事内容とは裏腹に和やかな空気のある部隊。
第8軍団……兵器、技術開発。特に変わった《異常力》や性格の人間がほとんどの部隊。
第9軍団……教育、制御不能な《異常力》を矯正する、和気あいあいとした雰囲気の部隊。
第10軍団……医療、治療。病院でもあり、一般人に最も身近な部隊。
そして、ラスターやリリアが入団した第4軍団の仕事内容は、帝都の守護、犯罪者の捕縛、有事への対処、治安の維持など多岐にわたる。現場に真っ先に出てくるのはこの軍団と言っても過言ではない。
また、一般人から寄せられる依頼にも対応することもあり、今回はそのケースである。
帝都以外にも広く分かれて活動している。最もバランスの良い部隊だ。
人員が多いため十人前後、少数の班に分かれ、分散している。
以上が帝国軍の概要だ。もちろん例外もあるし、第4軍団が手薄な時には他の軍が出てくることもよくある。別の軍団どうしで連携するなど臨機応変な対応が日頃からおこなわれている。
***
「さぁて、この辺だな!」
三人は危険種が来ると言われたルートまできた。そこは周りにはたくさんの木があり少し見通しが悪いが、所々に開けた場所がある。危険種が来ないならば、肌で自然が感じられるのどかなところであり、遠足やピクニックなどにもってこいの場所だ。
「……そんな気配はしないね」
「本当に来るのかな?」
不安げな二人。それに対してギャスパーは。
「なるべく開けた所で戦えよ。死角があったら、そこから攻めてくるぜ。…………ほ〜ら、来た」
「――GEYAaaaaaaa!」
(10、いや20ちょいぐれーか?)
突如として、無数の獣達が鳴き声をあげながら、怯むことなく猛スピードでラスター達の方へと迫ってくる。姿かたちは、猿のような人型のものから犬や猫といった四足歩行の獣など様々だ。
「お前ら、落ち着いていけよ! そうすりゃ余裕だ!!」
「はい!」
「了解!」
ギャスパーの鼓舞する声に同時に返事をする二人。ようやく今日の任務が始まった。
***
「はあぁ!」
向かってきた猪のような獣を一刀で切り伏せるラスター。相手は直線的な突進で向かってきたため、よく見て横方向に避ける。そして、側面から柔らかい部位に一撃。
(よし!これならいける)
飛散する血をかわしながら、勢いを緩めず二匹、三匹と攻撃を加えて仕留めていく。絶妙な体捌きだ。
だが、決して深追いせず向かってきた相手の攻撃をいなし、かわし、剣で受け止めるなどして隙を作る。その隙に剣で切り伏せたり、蹴り飛ばして距離を取り次の隙を狙う。慎重で丁寧な戦いだ。
(……! 《異気》。 リリア?)
誰かの《異気》を感じとったラスター。その発生源はリリアだった。一段落した後、視線をリリアに移す。
「………」
リリアは黙って剣をかまえている。そして、二言呟いた。
「……走って、斬る!」
そう呟いたすぐ後だった。目にも止まらぬ速さで獣に近づき、気づいたときには獣の首を両断していた。
「……ふぅ〜」
息を吐くリリア。
(すごい! あの速さもだけど、骨ごと首を絶った! なのに刃こぼれもしていない。技術……いや《異気》があったから能力のはず。どんな能力なんだ!?)
本来肉を斬る剣だか、下手に斬ると死期を悟った獣が一矢報いてきたり、手痛い反撃をくらうこともある。
だが、首を斬れば話は別だ。即死するため、動くとはない。しかし、首を斬るとなると強固な骨を斬らねばならず大抵は途中で刃が止まるか、逆に刃こぼれするかのどちらかだ。
不思議に思いリリアを見つめていたラスター。視線に気がついたのか、リリアは視線を返してにっこり笑う。
「どう?あたしの能力。すごいでしょ!」
少々恥ずかしそうにしながらも、笑みを浮かべ話す
「やっぱり、《異常力》なんだ?」
「そうなの! 任務が終わったらラスターのも教えてね!」
「じゃあ、終わった後のお楽しみという事で!」
約束を交わし、己の敵に向き直る二人。その後も調子よく討伐していく。
「やるな〜、お前ら。オレも負けてらんねぇ! ………はあぁぁぁ!」
大気が震える。ギャスパーから《異気》が放出される。すると構えていた剣に大量の砂が纏われていった。しばらく経つと、ギャスパーの持っていた剣は金属の片手剣から砂の大剣に変わっていた。
「うおりゃあぁぁぁぁ!」
その質量を感じさせぬ動きで、大量の危険種を薙ぎ払う豪快な一撃。切れ味はないが、広い範囲の敵を一蹴した。
だが、それだけは仕留めきれない。討ち漏らした敵は鋭く硬質化した砂が追撃。敵を貫き砂は血に染まる。
(先輩のは分かりやすい。砂を操るんだ……)
砂が剣に纏い、砂が追撃する。それ以外考えられなかった。
ふと、ラスターのすぐ近くで小さな音がした。
そこを見ると、四足歩行の鋭い牙と爪を持った危険種が大口を開けて、その牙をラスターの首もとに突き立てようとしていた。
(―――っ!)
「ラスター!! 」
「危ねぇ!!」
それに気づいた二人も声をあげる。首もとに迫る牙。その牙に自身の右腕を差し出す。その牙が腕の肉を裂き、食い込む。そう思われた。
「ん!? あれが!」
「ラスターの能力……!」
異形に変化したラスターの右腕に噛みついている獣。異形の手、ある種の鎧のようなものだ。痛みはなく、牙も貫いていない。だがなおも獣は力を緩めることはない。
「……ふっ!」
瞬時に、右手で握る剣を左手に持ち変え、噛みついている獣に剣を突き刺す。
突き刺した場所から血が飛び散る。やがて、噛みつく力も無くなり動かなくなった。
「あと残っているのはB級危険種ばっかだ!あとちょっと、 用心していけよ!」
ギャスパーが状況を伝える。それを聞いてより一層気を引き締める二人。B級以上の危険種は少し毛色が違う。ある意味、人間に似ている。
「――gyaaa!!」
ある一体の鳥竜の危険種が口から火の玉を吐き出した。
だが、ラスターは怯むことなく左手に剣を構え、火の玉に向かって走り出す。火の玉が目の前に来たところで右手を払い除けるように火の玉にぶつける。すると、火の玉がかき消され煙だけが宙を舞う。
そして、走った先で危険種を斬る。
(へぇ、能力を消せるのか。便利だな〜)
(……でも、何か変な感じが……)
その後も砂や剣で獅子奮迅の活躍をする三人。しばらく戦闘を続けていたが、十分後ほどたった後、全ての敵を討伐した。
To be continued…
読み終わったら、ポイントを付けましょう!