移動した先は人のいない、開けた広場に出た。そこで不意にギャスパーは叫んだ。
「ほら! これだ!」
そう言って、指をさす。二人は指の先を見る。その先にあったのは
「あっ! これって!」
「自動車ね」
金属でできた箱のような形をしている。座った時、顔の部分に壁はなく開放的だ。運転席の前に透明な風避けがあり、4つの黒いゴムのタイヤを着けた、帝都以外ではまだ少し珍しい物。
自動車。人が乗って高速で移動ができるものだ。もっとも、車を使える場所は人のいない所など場所がかぎられている。帝都の中心を走ることは出来ない。技術が進歩すれば可能であろう。
帝都の技術力は非常に高い。ある一つの軍団が技術開発を主とした活動をしており、自分たちの能力だけに頼らず技術も日進月歩している。
車の場合、動力は蒸気機関や電力が主流である。最近では地面を掘って出てくる『石油』と呼ばれる黒い液体を燃料に出来ないか模索しているという。
また、発電する機械や場所もあり、所どころ電信柱や変電器があり、日常でも電気を利用した生活ができるなど徐々に便利な世の中になってきている。
「初めて見た……。どうしたんですかこれ?」
感動の声混じりにラスターが問いかける。
「借りてきたんだよ、今日はちょっと遠くに行くからな。歩きじゃ面倒だろ?」
「なるほど。これ借りてたからあたしたちの方に来るのが遅れたんですね?」
「えっ? お、おう。そうだよ〜」
(車は昨日から借りてて、遅れた理由がシンプルに寝坊したとか絶対言えねぇ〜)
ギャスパーは微妙な表情でリリアの質問に答えた。ボロが出るとマズイと思ったのか、話題を変える。
「さ、さあ!これから出発すんだけど誰か運転したい人いるか? ラスターどうだ?」
「いえ、見れただけで十分です。それに、運転ってちょっと怖そうですし……」
「はい! じゃあ、あたしがやります!」
辞退するラスターと立候補するリリア。誰が運転するか即決した。そして、三人は、車に乗り込んだ。
「そういえばリリア。車の運転ってしたことあるの?」
自信満々に立候補したリリアに対しラスターは少し疑問を持った。
「うん、一年ほど前に。それ以来、運転させてくれてないけど」
「……?」
「よーし、全員準備できたな?」
ラスターはリリアの返答にまた新たな疑問が生まれたが、ギャスパーの言葉でかき消されてしまった。
(まあ、いいか)
「先輩、目的地はどこですか?」
「おお、よく聞いた!目的地は帝都の少し外れたとこにあるイスタ村ってとこだ。 そこまで頼んだぜ、リリア」
「はーい!」
「それじゃあ、イスタ村めがけて、出発進行〜!」
「「おー!」」
木々の木漏れ日が揺れる中、小鳥たちのさえずりがきこえる。
そこに陽気な掛け声、始動するエンジン、アクセル全開、後頭部強打による――絶叫。
「(ガンッ!) 痛ってええぇぇ!!何、急に!? 慣性でものすごい勢いで頭が後ろに持ってかれた!?!?」
「バ、バカ! いきなりアクセル全開にすんじゃねぇー!」
「このくらい大丈夫ですよ!」
ラスターの絶叫もギャスパーの静止も聞くことなくリリアは運転を続ける。暴走車は目的地に着くまでスピードを維持し、走っていった。
***
イスタ村の近くに到着した。村までは入れないので少し離れたところに車を止める。
「さあ、行きましょう二人とも」
「待ってリリア、先輩がすでに瀕死だ」
「うえぇ〜。気持ちわりぃ〜、完全に酔った」
地獄の絶叫マシーンから解放さてもなお、余波が残っていた。
(さっき言っていた運転させてくれないとはこの事か……! )
「うぅ〜、帰り道はぜってーオレが運転して帰る。マジで」
「本当に頼みますよ先輩。マジで」
男二人は小声で会話する。そして、ギャスパーの車酔いが覚めて改めて仕事の内容を確認する。
「えー、本日の任務はこの村に現れる危険種の討伐だ!」
ギャスパーは詳細を話す。それは昨日の夕方の事だった。このイスタ村に少数だが危険種と位置付けされている動物が現れたとの報告が入った。
その時はなんとか村民だけで追い払えたが、めったに来るものではなく、それも突然現れたという。その事を不審に思った村民たちは、軍に連絡し村に来る危険種を退治してほしいと懇願したのだ。
「そこで、オレたちの出番ってわけ!」
その話を聞いたギャスパーは、 新人に経験を積ませると意気込み、その依頼を受けたのだ。第4軍団の仕事内容からも逸脱していない。それに、レクスにもこれを受けることの許可をとったらしく、公認の任務だ。
「それにしても、確かに珍しいですね。山は近いけど危険種が降りて来るなんて。おれの地元でもめったに無かったですよ」
「うん、少し辺境だけど一応帝都の領域だし」
「あ〜、それはオレも気になったけど、C級とかB級の危険種だから問題ないだろ。……あっ! そうだ!」
と会話している途中でギャスパーは何かを思い出したのか車の方に戻っていった。帰って来ると三本の剣を抱えていた。
「ほれ、お前らの分だ。あらかじめ持って来てたんだよ。車のなかに。これがあれば問題はないぞ!」
「ありがとうございます」
ラスターとリリアは剣を受けとる。
(確かに、剣の訓練もあったな。)
体術同様、剣技も学んでおり、ラスターはどちらも優秀ではあった。だが、こんなに早く使うこととなるとは思ってもいなかった。ここ数日で予想外の事態が起きすぎているなと、ラスターは思った。
「さあ、こっからは気を引き締めて行こーぜ」
ギャスパーが真面目な声で話す。自然と二人の背筋がのびた。
「「はいっ!」」
三人は、危険種が来るルートを目指した。
To be continued…
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