インペリアル・ウォーレコード

北陸 龍
北陸 龍

第4戦記 新たな出会い

公開日時: 2020年9月26日(土) 20:24
文字数:3,952

休みが開けた次の日。ラスターは帝都のシンボル、時計塔の真下にいた。この時計塔は帝都のほぼ中心に位置し、登れば帝都が一望出来るような高さである。


だが、今日はこの時計塔に用事があるわけではなく、ここで待ち合わせをしている。


(ここで、間違いないよな……)


二日前にレクスから休みを言い渡されたあのあと、今後の予定について知らされた。


***


『明後日からは同じ班の先輩たちに、日替わりで指導して貰うという予定だ。4日間かけて、徐々に先輩たちの名前や仕事内容を覚えてくれ』


『はい。分かりました。じゃあ、明後日の予定は?』


『明後日から今年入団した、もう一人の新人と先輩の合計3人で行ってもらう。内容は当日、その先輩から聞いてくれ。明後日の場合、就業開始時間に時計塔の真下に集合し、そこから移動する。場所は分かるか?』


『はい。あの大きなやつですね』


『そうだ。他に何か質問は?』


『……今後の予定のことじゃないんですけど、さっき拘束した人たちはどうなるんですか?』


『ひとまず、第6軍団に引き渡す。その後、何らかの罰は受けるだろう。』


『……なるほど。……その引き渡しおれも手伝います』


『そうか。人数が人数だから手伝ってくれるのはありがたい。……すまないな』


『……いえ』


その後レクスは、ラスターに何度も謝った。


あの屋敷で非道な行いがあることを知っていて、わざと一人で現実に直面させるような状況を作り出したこと。


帝都に憧れていた少年の夢に現実をぶつけて夢を砕いたこと。


だが、ラスターは知れて良かったと思った。助けを求める人が助からない。何の罪もない人々がただ無残に命を落としていく。そんな現実。本来なら助けられるほど近くにいたはずの人たちが目の前で姿を見せぬまま散って行く。今は帝都だけだが、やがて諸国まで広がるとレクスは言っていた。


そんな現実は自分にとっては夢でも、虐げられる側からすれば、悪夢以外の何物でもない。その悪夢を見ているものたちの隣で自分たちは大丈夫だ、咎めを受けない。と夢を見すぎているものたちもいる。


どちらの夢も覚まさせたいと思った。悪夢を見るものには幸せな現実を、夢を見すぎているものには、正しい現実を。強者は弱者を守るために力を奮う。



―――それが人間だ。意味もなく力で支配する。それは獣と変わりない。知性を持つ人間だから出来ることもある。それができれば世界は広がり、より良くなる。そう信じて、ラスターは歩む。


引き渡しが終わり。


『今日はありがとうございました』


『……何もしてないさ。君の心の強さだ』




『………………それより』


『……? なんです?』


『一人で帰れるか? お前もう本当に大丈――』


『もう大丈夫ですっ!!』




***


「……。……また思い出した」


心配性過ぎないか? とラスターは思った。


(それより、ちょっと早く来すぎたかな? )


時計塔の前の広場には、すでに人はたくさんいる。この国の人々の朝は早い。だが、開始時刻より少し早く来たせいかそれらしき人物は見当たらなかった。


(遅刻するよりましだ。それにしても大きいなぁ、この時計塔)


そう思いしばらく待っていると、開始時刻の5分ほど前に一人の少女が時計塔まで駆け寄ってきた。ラスターは明後日の方を向いていて気づかなかったが、その少女はラスターに気づいたらしく話しかけてきた。



「あっ!あなたですか? 今日一緒に仕事する人は?」


少女。だが、初日に会った、ソフィーという人ではない。別人だった。


「 はじめまして、リリア・メイウィールと言います!」


「こ、こちらこそはじめまして。新人のラスター・リアハイドと申します!」


(……? あれ? この人、今?)


(油断してた。急に話しかけられてびっくりした!)


リリアと名乗った少女。明るい銅色でロングの髪の毛をしており、身長は150センチ半ばといったところ。愛嬌のあるかわいい顔で、ソフィーとは逆に快活そうな印象だ。


だが、ラスターの自己紹介のあとに不思議そうな顔で首を傾げ、一言。


「えっ?」


「えっ?」


ラスターも思わず同じ言葉を返す。


「「……えっ?」」


今度は言葉がシンクロした。



「えと、ごめんなさい。あたしも新人なの。あなたが、先輩かと勘違いしちゃって。」


「あぁ、何だそういうこと」


リリア・メイウィール。年齢はラスターと同じ16歳、そして同じ新人である。


(まあ、おれも先輩かと勘違いして敬語だったけど……)


似た者同士である。


「お互い同期なんだから、気楽な感じで行きましょ!改めて、よろしくね!」


「うん、こちらこそ!」


リリアは朗らかに笑って仕切り直す。それに応えるかのようにラスターも笑って返す。


(良かった。いい人そうだ)


ラスターは帝都に知り合いはいない。帝都出身ではないからだ。彼なりに心細かったこともあっただろう、この反応は仕方ないかもしれない。


「……それにしても、あなた、えっとラスターだっけ? どうして昨日いなかったの?」


「……それには、ちょっと事情があって」


ラスターは一昨日あったことをリリアに話した。流石にリリアもその事には驚いていた。

入団2日目を休むという人はそうそういない。それに理由も頬のキズである。いろいろとおかしい。そして何より、リリアが驚いたのは、


「団長と会ったの!?」


「うん。 本人は副団長兼団長って言ってたけど、おれは団長って呼んでる」


「あたしまだ会ったことない!」


「そうなの?」


「うん。初日も昨日も同じ先輩に面倒見てもらってたの」


「どんな先輩だった?」


ラスターは好奇心たくさんに聞く。


「会って見ればわかるけど、女の人で……先輩? って感じの人」


「それどんな人!?」


ラスターは初日に会ったソフィーは、先輩? って感じはしないなと思い。おそらく別人であると考えた。


そして、しばらくこのような雑談をして二人で開始時刻を待っていた。リリアは帝都出身らしく、ラスターはおすすめの場所などを教えてもらっている。


そのように待っていた。だが、開始時刻になってもその先輩は現れなかった。


「……来ないね」


「場所は間違ってないはずだけど……?」


「うん。間違いないわ」


ラスターだけでなく、リリアもここに来たということは場所は正しい。


その後も雑談をしながら待っていた。開始時刻から15分ほど経ったとき、唐突にリリアがこんなことを言った。


「ちょっと時計塔の周りを見てみない?」


「う〜ん。来る気配ないし、反対側に居るかもしれないから行ってみよう」


ラスターは右回りに、リリアは左回りに二手に分かれて探しに行くこととなり、歩きだそうとしたその時。


「お〜! わりぃ、わりぃ。ちょっと遅れちまった! お前らだよな? 新人ってのは?」


遠くから早足で少年が歩いてきた。軍の服を着ており、先程の言葉とあわせて、この人物が例の今日指導してくれる先輩だということが分かった。


「よう、 お前ら! オレはギャスパー・ディーケフト、お前らの先輩だ! 先輩って呼んでくれていいぜ! いや、むしろ呼んでくれ!!」



「「 …………」」


自己紹介をした少年は短めに切った銀色の髪を風で揺らし、歯を見せながら、ニカッという感じで笑って名乗った。名前はギャスパー。年はラスターとリリアの1つ上の17歳。明るく、いかにもムードメーカーといった感じだ。


その勢いにラスターもリリアも圧倒されポカーンとしていたが、我に帰りその後も自己紹介をすませた。



「さぁ、早速何だが……………なにすんだ?」


「「……はいっ!?」」



仕事の内容は当日、先輩が直接教えてくれるというもの。だが予想外の発言により二人して素っ頓狂な声を上げた。


「あたしたち、何も知りませんよ!?」


「ギャスパーさん……、えっと、先輩が教えてくれるじゃないんですか!?」


ギャスパーはよほど先輩と呼んで欲しかったのか、ラスターが名前で呼んだ時に少しムッとした表情をした。それに気づいたラスターはすぐに呼び方を変えると、ご機嫌そうな表情に戻った。


「ジョーダンだよ、何かお前ら、ラスターとリリアだっけ? 緊張っていうか気が張ってるように見えたからさ、肩の力抜いて、リラックスしねーといけないぞ。いざって時にぶっ倒れたらシャレになんねーよ」


(……この人は、おれたちのことをちゃんと見てるんだ)


ラスターはギャスパーの言葉に少しドキリとした。もちろん、緊張はしている。だがそれ以上に気を張っていた。知らない地での仕事、更に自分たちにはこの国を変えるという大きな使命のようなものがある。知らず知らずのうちに体は強ばっていた。


その体の強ばりをギャスパーは見抜いたのだ。洞察力というわけではないが直感やなんとなくでわかったのだろう。


「二人も団長から聞いたんだろ? 帝都のこと」


「はい、聞きました」


「あたしは帝都出身なんで、何となく知ってました」


ラスターはその言葉を聞いて少し驚いた。だが、この人は自分たちの先輩で、レクスの部下。レクスから話を聞いているのだと思った。


「とりあえずうちの班の人間は全員知ってる。あと、軍の人間を中心に力を貸してくれるひとを、勧誘してるらしい」


「そう、だったんですか」


(……団長はなるべく戦争にならないように動くと言っていた。けどやっぱり……)



そう上手くいかないのが現実だ。不足の自体が起こるかもしれない。万が一ということがある。そうなった場合、味方は多い方がよい。心配性なレクスのことだその事も考えて動いているのだろう。


空気が少し落ち込んだ感じがした。だが、それを吹き飛ばすように笑って言った。


「さあ! まずは今できることから始めようぜ! 団長の受け売りだけど、日々の積み重ねが大事だ!」


不思議と雰囲気は明るくなる。


「「はいっ!」」


二人の声が重なる。


「じゃあまずは、ちょっと来てほしいところがあんだ、ついてきてくれ!」


そう言って、仕事は始まった。



To be continued…







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