インペリアル・ウォーレコード

北陸 龍
北陸 龍

第2戦記 事件の後

公開日時: 2020年9月24日(木) 14:30
文字数:2,329

「…………ぅん?」


朝の少し早い時間、ラスターは目を覚ます。ここは団員たちが寝泊まりし、普段の生活に利用されている帝国軍の寮である。大抵の団員は帝都やその周辺の出身で自分たちの家があるためそこに帰っているが、ラスターのように少し離れた所の出身の団員たちに一人1部屋割り当てられている。


ワンルームで簡素な作りではあるが、一人で生活する分には十分な広さの部屋だ。


「……ふぁあ〜」


寝起きざまにあくびを一つ。そうすることで徐々にに意識が覚醒し、頭が冴えてくる。そして、昨日の記憶を呼び起こす。


(やっぱり、昨日のことは夢なんかじゃない、よな?)


起きた事件。それはラスターの心に強く刻まれている。そしてなにより、自分が今ここにいること、それが証明となる。


(今のおれには、一体何ができるんだ?)


そう思い、昨日あったことを回顧する。




***




時は、レクスの手をとったときにまで遡る。レクスの野望を聞き、それに賛同したラスター。だが、すべての疑問が解決したわけではない。


「この帝都がおれの想像していたような場所ではないということは分かりました。ですが、まだ答えて貰っていないことがあります」


「……? 何のことだ?」


レクスは首をかしげラスターに問いかける。


「あの二人のことです。なぜあの二人を刺したんですか?」


あの二人、ヘクターとアルゴンのこと。レクスに刺され、まるで死んだように動かなくなった。


「ああ、あれは拘束するためだ。言っておくが、殺してはいないぞ」


「えっ? そうなんですか!?」


ラスターは驚く。ヘクターは腹に、アルゴンは背中にナイフを受けて倒れた。てっきり死んだのだと思い、その後のレクスの死んでいない場合の止め云々の嘘をすっかり信じこんでしまった。だが、どうすれば死なないようナイフを刺せるのかと思っていると。レクスがこう説明した。


「あのナイフには《異常力ラクリマ》が干渉してある。ありとあらゆる殺傷能力を失う代わりに、相手の運動の神経の伝達を阻害、つまり、相手を麻痺させるというものだそうだ」


第四軍団うちの団員ではなく、他の軍団の団員に協力して貰ってな、とレクスは付け足す。


「なるほど」


(……でも、しっかり刺さっていたような)


ラスターは一応納得した。


千差万別な《異常力》が干渉していたならそのようなものがあってもおかしくないからだ。


「ちょうど良い、ちょっと来てくれ」


レクスに呼ばれ再び屋敷の中に入る。



***



屋敷の中のあの部屋の前。そこにはまだヘクターとアルゴンが倒れていた。するとおかしな点に気づく。


「あれっ? この二人、血が出てない」


ナイフが刺さっているが血が一滴も出ていないという尋常ならざる事態を目の当たりにした。


「そうだ。干渉されたこれは刺さった時、痛みもなく血も出ない。当然、傷痕もない」


二人からナイフを抜き取ってそれを手に持ちながらレクスは話す。


「便利な《異常力》ですね」


使いどきは誰かを拘束するときしかなく、日常生活ではせいぜい護身ようとしてしか使えないが、第4軍団にはぴったりな《異常力》だ。


もっとも、その使い手は別の軍団の所属しているのだか。


「……ん? ……あれ?」


「どうした? ラスター?」


その説明を聞いて、とても重要なことをラスターは思い出した。思い出した時点で震えが止まらなかった。



そう、それはあの攻防の時、ラスターの頬は切れていた。《異常力》が干渉したナイフなら頬が切れるのはおかしい。だとしたらあのナイフは――― 


「あの、もしかしておれの時のナイフって普通のナイフでしたよね?」


《異常力》の干渉していないナイフだったのかを確認するラスター。レクスも微妙な表情をしている。


「……ああ。あれは、その、――うっかりだ」


「うっかりでおれの命が危なかったんですけど!!?」


「いや、すまない。万が一のことも考えて普通の物も用意していたことを忘れていてな。さすがにあの場面で取り出したナイフをもう一度懐に戻すなんてことはできないだろう?」


「……まあ、そうですけど」


お互い戦うことを覚悟したあの場面で、取り出した得物をしまうなど奇行以外の何物でもない。


「一応、注意を払いながら動かしていたんだぞ。君がナイフを掴もうとしたときは内心とても焦った」


「それは、すみません。そしてやっぱり団長の能力って」


「ああ、物を動かす能力だ。最後に俺たちの位置が替わっただろう? それも俺の能力を派生させたものだ」


そう言って、手に持ったナイフを自在に空中で動かすレクス。ある一定の重さまでの物を動かす。また、自分と同じ程度までの大きさの人間を線対象に場所を替える。それがレクスの《異常力》、


『築き生く世界』である。


「逆に聞くがラスター、君の能力は何なんだ? 俺の《異常力》がかきけされたかのようだった」


「……おれの能力は、自分でもよく分かってません。名前もわからないし……」


そう言うと先ほどの異形の手を出す。その様子はどこか禍々しい感じもする。


「でも、他人の《異常力》をある程度、喰えるっていうのか、擬似的に無効化できるみたいなんです。あと、膂力も少し上がります」


「喰ったものは何処にいくんだ?」


「それも……よくわかりません」


(喰ったものが、自分の力になるわけでも、どこかに溜まる訳でもない。得体がしれない、それがラスターの《異常力》の代償もしくはデメリットか?)


など問答を繰り返しながら、転がっている二人を、縄と手錠で拘束した。


そして、ラスターは遂に最も重要なことについて問いかけた。


「帝都は、どうしてこんなことになってしまったんですか?」


レクスも覚悟していたらしく。


「少し長くなるぞ。あまり帝都のことを知らないようだからな」


そう言うと、レクスは語りだした。帝国の現状を……。



                  To be continued…  




読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート