幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

20.次の手掛かり

公開日時: 2021年5月3日(月) 22:29
文字数:1,310

 チホちゃんに声をかけ、俺たちは再び二階の西廊下へ舞い戻った。そしてセキュリティシステムに数字を入力していく。

 四桁の数字を入れ、エンターボタンを押した瞬間、認証されたことを示す緑のランプと軽快な効果音が鳴り、扉のロックは解除された。

 ……全く、面倒臭いシステムだ。


「……入ろう」

「了解です」


 ロックの掛かった扉の向こう。

 そこは日下さんの書斎になっているはずだが、果たして。

 ギイイ、と音を立てて扉が開かれる。

 その奥には、大きな書斎机がどんと置かれていた。

 部屋の中は少し埃っぽいが、床に埃は積もっていない。スマホのライトで照らしてみても、自分の足跡が残るようなことはなかった。

 どうも床上の埃だけが払われている感じがするけれど、気にしていても答えは出ないだろう。とりあえず、俺はチホちゃんと手分けして書斎の探索を始める。

 ここにも本棚があるし、他にもトロフィーや盾が仕舞われたラックがある。書斎机にも引き出しが複数あるし、これが脱出ゲームなら手掛かりの一つや二つあったっておかしくない。

 ……と。


「……マジかよ」


 まず手始めにと、机の引き出しを引っ張ったところで。

 俺はその中に、小さな鍵が一つ入っているのを発見した。


「ラウンジ……そう言えば一階にあったっけな」


 貼られているシールに書かれているので、これはラウンジの鍵なのだろう。ここまでくると作為的なのは見え見えだが、背後に何があるのかまでは全く浮かんでこない。


「鍵、ですか。とりあえず新しい場所に行けるんですね……」

「脱出ゲーム風になってるんなら、また次の部屋にヒントとか鍵とかが置いてあるんだろうけど」


 これまでの流れからすれば、その可能性は高い。誘われているようだが、何れにせよ手掛かりがそこにしかないのなら、行かざるを得ないだろう。

 小さな鍵を拾い上げると、カサリと乾いた音がした。暗くて気付かなかったが、鍵の下に一枚の紙切れが敷かれていたようだ。

 ただの紙屑かもしれないが、念の為に俺はその紙も確認してみた。


「……ん?」


 古い紙切れには、たった五文字だけ平仮名が書かれていた。

 血を想起させる、赤黒いインキで。


[525195341/1599316902.png]


「なんでしょうかね、これは……」


 チホちゃんが、口元に手を当てながら小声で呟く。

 にがなのえ。意味がありそうな無さそうな、中途半端な平仮名の羅列だ。

  けれど……。


「あの人の字っぽい気がするんだよな……」

「ヒカゲさん、ですか」

「……ああ」


 ヒカゲさんの書く字を見た機会なんて、それほど多くない。

 しかし、だからこそ心の片隅に残り続けるものはある。

 それはもちろん明確なものではないのだが……今はこの感覚を信用しておいてもいいんじゃないだろうか。


「……レイジさんは、ヒカゲさんの消息を知らないんですよね」

「ああ。あの人は、いつのまにかいなくなったから。思わせぶりなことを告げるだけ告げて、そのままな」


 今はどこにいるのやら。

 遠い山里か、都会の住宅街か。

 或いは……煉獄か。


「まあ、よく分からない紙だけど意味はあるんだろう。持っていくかな」

「……そうですね」


 ラウンジの鍵と、謎の文言が書かれた紙。

 その二つを新たな手掛かりに、俺たちは書斎を後にした。

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