幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

ex3.Postlude

公開日時: 2021年10月11日(月) 22:57
文字数:473

 静寂に包まれた舞台の上。

 薄明りの中、その中央だけがライトを浴びている。

 白い光が落とされたその場所には、一人の人物がパイプイスに腰かけているのだった。


「……ふう」


 物語を淡々と読み終えた朗読者は、そんな風に小さく息を吐くと、開いていた本をパタリと閉じる。

 そして、しばらくの間目を閉じ、余韻に浸るようにしていた。

 それから、何分が経った頃か。

 ようやく朗読者はイスから立ち上がり、本を持ったまま、光の下を抜ける。

 そして、ゆっくりとした足取りで、舞台袖に消えていくのだった。


  ――いつか、読み終わる日が来るのだろうか。ああ、来るだろう。きっと近いうちに。


 それは朗読者にとって、喜ぶべきことでもあり、けれども同時に悲しむべきことでもあった。

 だからこそ自分は、本当はただの朗読者であり続けなくてはならないのだと。

 そう、思い続けているのだった。

 舞台の裏には、読み上げられた本だけが置かれている。

 それは、真新しいコピー用紙で印刷された手作りの物語。

 そしてそれは、決して空想上のお話ではなく。

 現実に起きた、或いは起こる物語。

 表紙には、こう書かれている。


 ――幻影鏡界、と。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート