静寂に包まれた舞台の上。
薄明りの中、その中央だけがライトを浴びている。
白い光が落とされたその場所には、一人の人物がパイプイスに腰かけているのだった。
「……ふう」
物語を淡々と読み終えた朗読者は、そんな風に小さく息を吐くと、開いていた本をパタリと閉じる。
そして、しばらくの間目を閉じ、余韻に浸るようにしていた。
それから、何分が経った頃か。
ようやく朗読者はイスから立ち上がり、本を持ったまま、光の下を抜ける。
そして、ゆっくりとした足取りで、舞台袖に消えていくのだった。
――いつか、読み終わる日が来るのだろうか。ああ、来るだろう。きっと近いうちに。
それは朗読者にとって、喜ぶべきことでもあり、けれども同時に悲しむべきことでもあった。
だからこそ自分は、本当はただの朗読者であり続けなくてはならないのだと。
そう、思い続けているのだった。
舞台の裏には、読み上げられた本だけが置かれている。
それは、真新しいコピー用紙で印刷された手作りの物語。
そしてそれは、決して空想上のお話ではなく。
現実に起きた、或いは起こる物語。
表紙には、こう書かれている。
――幻影鏡界、と。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!