「……この事件の中心となっているのは、ヒカゲさんが研究していた魂魄の改造という非現実的な実験だった。爆散した俺たちの仲間は皆、犯人によって魂魄を改造され、その拒絶反応により死亡してしまったんだ。……正直、そんなことをする奴が俺たちの中にいるなんて思わなかった。だからきっと、この館に潜んでいた狂った研究者とかが、俺たちを狙っているんだと思うようにしていた。
だけど、俺たちを誘うように仕掛けられた『謎解き要素』や『被害者に抵抗の形跡がない』こと、それに『子供のような研究員』がいたという事実に直面して。俺は受け入れ難い事実を、考慮しなくちゃいけないと思ったんだ」
ソウヘイが疑念を抱いたように、ストレートに仲間を疑うことは心苦しかったが。
どんな可能性も感情で切り捨てられはしないのだと、俺は心を鬼にしなくてはならなかった。
「……さて、黒影館へやってきた七人の中に『実験』を行える『子供のような研究員』が潜んでいることを前提として推理することにしたわけだが。殺害方法に『実験』という奇妙な方法が使われたことから、俺は魂魄改造のルールも整理しなくちゃいけなかった。
この黒影館で見つけた資料から、俺がまとめたルールは四つ。
一。実験された人間は、拒否反応が起きると、魂ごと肉体が砕け散り、死亡する。
二。実験された人間には、体のどこかしらにアザのような痕跡『聖痕』が現れる。
三。魂を取り出すのに、魂を戻すのにも、凡そ五分ほどの時間がかかってしまう。
四。魂を取り出され、三十分以上経った肉体は死体となり、魂を戻しても生ける屍のように、痛覚を感じなくなってしまう。
この『魂魄』のルールを基に、俺は事件を見つめ直すことにしたんだ」
厳密に言えば、これら以外にも事件を構成する要素は様々ある。だが、推理の要となるのはこの四点だった。
魂魄にまつわる仕組み、ルールはまだ存在するだろう。しかし、今回の事件はこれまでに判明したもので解決までの道筋を作ることができたのだった。
「まずは第一の事件、テンマが殺された事件からだ。あの事件の前、夜九時頃に、風呂に入ったテンマくんが叫んだのを俺たちは聞いた。あのときは追及しなかったが、テンマくんは一体何が怖くて叫び声をあげたんだろうか。幽霊が出たから? いいや、むしろそれよりも怖いものを彼は見たはずだ。それは言い換えれば、彼にとって死刑宣告に等しかった。
……ソウヘイ。馬鹿馬鹿しい質問だが、風呂に入ってるってことは、テンマくんはどういう状態だった?」
「え? どういうって……まあ、無防備だよな。裸だし」
突然の問いかけだったが、ソウヘイは期待通りの答えを返してくれる。
そう、テンマくんは裸だった。つまりは素肌を晒していたのだ。
「そう。そして裸だったテンマくんは、その体を鏡で見る瞬間もあっただろう」
「……あ」
「ルール二の聖痕だ。つまり……テンマくんはそのとき、自分が実験されていたという恐怖に叫んだのさ」
「そうか……そう言えばテンマくんは、魂魄改造で痣が残るって本を見てたんだったか」
「それが蘇ったんだろう。そして彼は、一人部屋に閉じこもって遺書を書き……死んでいったんだ」
テンマくんは、凄絶な覚悟を以て臨んだことだろう。
逃れようのない死が、いつ訪れてもおかしくないという恐怖。
それでも残された者たちが、自分のせいで傷つかないようにとバリケードまで築き。
愛する人への懺悔をしたためて……最期の時を迎えたのだ。
「テンマくんは夕食後仮眠をとり、その後の風呂で実験の事実を知った。すなわち、彼が『実験』されたのは夕食後の仮眠時とみていいだろう。以上より、その時間にアリバイのない人物がまず犯人候補に残る。
主観的で申し訳ないが『アリバイがない』っていうのは、俺に同行していないってことにさせてもらった。つまり、アリバイがあるのはシグレくんだけということだな」
探索中のメンバーと出くわす場面もあったけれど、終始一緒だったのはシグレくんだけだ。念の為ということで、俺はきっちりと分けさせてもらっている。
ただ、あくまで俺が辿った道を順に説明しているだけであり、アリバイについてはほとんど意味をなさなくなってしまうのだが。
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