「……マコちゃんは、とりあえずベッドで休んでます。しばらくは落ち着かせた方がいいでしょうね」
ひとまず一角荘の中に引き返した俺たちは、錯乱しているマコちゃんを部屋に戻した。先程の激昂とは打って変わり、貝のように口を閉ざした彼女だったが、その目からはやはり絶え間なく涙が流れ続けていた。
「……それがいいだろう」
連れ添ってくれたマキバさんが頷く。
「でも……どうしてミコちゃんはあんなことになったのか。どうしてモエカちゃんは逃げたのか……」
「先入観は捨てたいが、怪しいのは確かだよな。ソウヘイの妹とはいえ……」
「……霊の仕業、という可能性もありますけど。ここは……あのときと同じになっているみたいですし」
「……黒影館、だな」
今も鮮明に覚えている。
不意の停電、その後の絶叫。
部屋に駆けつけた俺たちの眼前に広がっていたのは、凄惨な光景。
四肢がバラバラに飛び散った、テンマくんの死体――。
「スマホ、通じないよな?」
「……ええ、やっぱり駄目です」
「……僕も通じない」
シグレだけでなく、マキバさんもスマホを取り出して確認している。この状況下でも、流石に大人と言うべきだろうか、彼はどちらかと言えばまだ落ち着いている方だ。
「とりあえず……何かが始まったってことだ。危惧してた何かが。それを、探りに行かなくちゃいけないな」
「……レイジくん」
「この鏡ヶ原で何が起きてるか確かめるために、探索を始めよう。少なくとも、手をこまねいてるよりはいいはずだ」
「……そうだね。君の言う通りだ」
俺の提案に、マキバさんも同意してくれる。探索に同行するということだろう。
シグレも付いてくるものかと思い、彼の方をちらと見やったのだが、意外にも彼は、
「僕は、ここに残ります。マコちゃんを置いていくのは……危ないですし」
そこで意味ありげに俺とマキバさんを見、
「その方が……いいですよね?」
と投げかけてきた。
――なるほど。
俺はすぐにシグレの意図を理解する。
集められたメンバーに事情があると言うなら、事件が起きた今こそ深掘りできるかもしれない。
なら、俺とシグレでそれぞれ、話を聞くのが効率的という考えだろう。
マキバさんを俺に任せ、マコちゃんは自分が相手すると暗に示しているのだ。
……それなら。
「分かった。そうしようか」
俺が頷くと、シグレも真剣な眼差しのまま返してくれる。
決まりだ。ここからは本当に、油断の許されない時間になる。自分の役割をしっかり見定めて動かなければならない。
仲間は既に一人、離脱してしまっているのだし。
「マキバさん。俺と一緒に、来てくれますか」
「ああ、僕でいいなら協力はするけれど……なんというか。こんな状況なのに君たち、冷静だね……」
「……まあ、そうなのかもしれません」
マキバさんより、ひょっとしたら一回り以上年下かもしれないが。
俺たちには経験がある。だからもう、悲劇を目の当たりにしたくないのだ。
したくないと、思っているのに。
「……じゃあ、行きましょう。ここで起きている何かを解明するために」
「ああ……よろしく」
俺とマキバさんは、軽く握手を交わす。ただのお泊まり会なら結ぶはずのなかった手。束の間の協力関係。
「……頑張ってきてください、レイジくん」
シグレの声援を受けて、俺とマキバさんは霊気に満ちた異世界へと、探検に繰り出すのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!