幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

16.恐慌の後

公開日時: 2021年9月14日(火) 20:35
更新日時: 2021年9月20日(月) 20:26
文字数:1,352

「……マコちゃんは、とりあえずベッドで休んでます。しばらくは落ち着かせた方がいいでしょうね」


 ひとまず一角荘の中に引き返した俺たちは、錯乱しているマコちゃんを部屋に戻した。先程の激昂とは打って変わり、貝のように口を閉ざした彼女だったが、その目からはやはり絶え間なく涙が流れ続けていた。


「……それがいいだろう」


 連れ添ってくれたマキバさんが頷く。


「でも……どうしてミコちゃんはあんなことになったのか。どうしてモエカちゃんは逃げたのか……」

「先入観は捨てたいが、怪しいのは確かだよな。ソウヘイの妹とはいえ……」

「……霊の仕業、という可能性もありますけど。ここは……あのときと同じになっているみたいですし」

「……黒影館、だな」


 今も鮮明に覚えている。

 不意の停電、その後の絶叫。

 部屋に駆けつけた俺たちの眼前に広がっていたのは、凄惨な光景。

 四肢がバラバラに飛び散った、テンマくんの死体――。


「スマホ、通じないよな?」

「……ええ、やっぱり駄目です」

「……僕も通じない」


 シグレだけでなく、マキバさんもスマホを取り出して確認している。この状況下でも、流石に大人と言うべきだろうか、彼はどちらかと言えばまだ落ち着いている方だ。


「とりあえず……何かが始まったってことだ。危惧してた何かが。それを、探りに行かなくちゃいけないな」

「……レイジくん」

「この鏡ヶ原で何が起きてるか確かめるために、探索を始めよう。少なくとも、手をこまねいてるよりはいいはずだ」

「……そうだね。君の言う通りだ」


 俺の提案に、マキバさんも同意してくれる。探索に同行するということだろう。

 シグレも付いてくるものかと思い、彼の方をちらと見やったのだが、意外にも彼は、


「僕は、ここに残ります。マコちゃんを置いていくのは……危ないですし」


 そこで意味ありげに俺とマキバさんを見、


「その方が……いいですよね?」


 と投げかけてきた。


 ――なるほど。


 俺はすぐにシグレの意図を理解する。

 集められたメンバーに事情があると言うなら、事件が起きた今こそ深掘りできるかもしれない。

 なら、俺とシグレでそれぞれ、話を聞くのが効率的という考えだろう。

 マキバさんを俺に任せ、マコちゃんは自分が相手すると暗に示しているのだ。

 ……それなら。


「分かった。そうしようか」


 俺が頷くと、シグレも真剣な眼差しのまま返してくれる。

 決まりだ。ここからは本当に、油断の許されない時間になる。自分の役割をしっかり見定めて動かなければならない。

 仲間は既に一人、離脱してしまっているのだし。


「マキバさん。俺と一緒に、来てくれますか」

「ああ、僕でいいなら協力はするけれど……なんというか。こんな状況なのに君たち、冷静だね……」

「……まあ、そうなのかもしれません」


 マキバさんより、ひょっとしたら一回り以上年下かもしれないが。

 俺たちには経験がある。だからもう、悲劇を目の当たりにしたくないのだ。

 したくないと、思っているのに。


「……じゃあ、行きましょう。ここで起きている何かを解明するために」

「ああ……よろしく」


 俺とマキバさんは、軽く握手を交わす。ただのお泊まり会なら結ぶはずのなかった手。束の間の協力関係。


「……頑張ってきてください、レイジくん」


 シグレの声援を受けて、俺とマキバさんは霊気に満ちた異世界へと、探検に繰り出すのだった。

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