幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

1.京極敦花

公開日時: 2021年10月13日(水) 20:19
文字数:1,048

「……つまり」


 十一月二十二日。鈴音学園ミステリ研究部。

 俺とシグレは不意の来訪者と対峙していた。

 高名な物理学者で、俺たちが通うこの学園の創設者。

 名を、京極秀秋といった。


「あいつの……安藤蘭の本当の名前は、京極敦花というんですね」

「……ああ」


 京極さんは、皺の深い眉をいっそうしかめて答える。


「正真正銘、あの子は私の娘だ。今ではもう断たれた繋がりではあるが……ね」

「ランさんが……京極さんの娘……」


 そう言えば、思い出したことがある。

 鏡ヶ原事件で出会ったマキバさんの話だ。


「マキバさんが一度教えてくれてたな。京極さんは奥さんが亡くなって……一人娘は行方不明だと」

「れ、レイジくん……」


 あまりにも直球すぎる言葉にシグレが焦ったようだが、


「構わない、それが事実だ」


 京極さんは力なく笑った。


「しかし……マキバくん、か。彼のことは悔やんでも悔やみきれない。あのようなことになるとはね……」

「知ってるんですか? 教会の事件のこと……」

「ああ、勿論だ。あの事件は繰り返し報道もされているし……GHOSTの件は、ずっと追ってきたのだから」


 それは意外な答えだった。以前から、京極さんはオカルト否定派と聞いていたからだ。そんな人物がGHOSTの存在を肯定し、追い続けているとは。

 そんな俺の驚きを表情から察したのか、彼は補足するように、


「オカルトをオカルトと認めるわけではないが……少なくともあの非道な研究は止めねばならないと、私は調べ続けてきたのだ。元は……私に責任があるのだしな」

「……どういうことですか」

「あれを……『安藤蘭』を作り出してしまったのは、私の責任なのだ。あのとき……妻を喪うことになったとき、私がもっと別の生き方を選んでいたのなら、きっとあの子が『敦花』を捨てることもなかったのだろうから」


 遠い過去を反芻するように、京極さんは目を閉じ、そして溜め息を吐く。


「……君たち、時間はあるかね」

「まあ、勉強するつもりだっただけなので」

「もし良ければだが……私の家で、あの子の過ごした場所で、あの子の話を聞いてくれないだろうか……」


 安藤蘭がまだ京極敦花だったときの、そしてその名を捨てることとなったときの話。

 知っていたようで実は何も知らなかった彼女の物語。

 事ここに至ってだが、それでも知る必要はあると思う。ただGHOSTの情報としてだけでなく、安藤蘭と友人関係を築いていた者として、純粋に知っておきたいのだ。


「……ぜひ、聞かせてください」


 彼女が堕ちた研究者となった理由。

 ようやく俺たちは、その深淵に迫ろうとしている。

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