渡り廊下を通って、校舎の別棟へ。
ミス研の元部室は今日もがらんとしている。
主人を喪った部長席とパソコンの席。俺はアヤちゃんが陣取っていたパソコンの席へ腰を下ろしてみた。
「ここで……毎日オカルト関係の記事を読み漁ってたっけ。それをランが見て……二人で下らない議論しながら盛り上がってたんだよな」
取るに足らない話だと思っていたあのやりとり。けれど今になって思えば、ランは案外本当のことを語っていたのかもしれない。オカルトにのめり込むアヤちゃんへ、自身が研究してきた成果を。それがアヤちゃんの気を引いて油断させるだけのものだったか、本気で楽しんでいたのかは最早知る由もないが。
……アヤちゃん、か。少し邪険にすることもあったが、あの子もあの子で面白い子だったな。
事件を生き延びていればシグレやソウヘイのように、仲間として頼もしくオカルト知識を語ってくれていただろうか。
「……あれ?」
パソコンを立ち上げてみると、何故かパスワードもなしにログインが完了する。アヤちゃんのことだ、学校に持ち込んだものとはいえプライバシーは気にするに違いないし、そもそも普段パスワードを入力しているのを見ていたはずなのだが。
何にせよ、今はそのパスワード認証が外れているようだった。
そして、デスクトップに表示される無数のアイコンの中に、気になるものが一点。
各種ショートカットやプログラムのアイコンに紛れて一つだけ存在している、ワードファイルだった。
「これ、アヤちゃんのメモ……か?」
タイトルには【直近のオカルト情報】と記されている。少し気は引けるのだが、オカルト情報であればGHOSTと無関係とも言い切れない。僅かでも手掛かりになることを期待し、俺はワードファイルを開いてみることにした。
全三ページほどの文面には、以下のような情報が記載されていた。
【黒影館に関する情報】
黒影館探索をランが企画しているということで、現在広まっている噂などについてまとめる。
黒影館は日下敏郎という研究者が建てた館だが、二年前に日下氏の失踪により空家となった。
日下氏の生死は不明。
その後『まぼろしさん』という、死者の魂に会えるという噂が広まり始めた。
私が気になる点としては、
・伍横町事件との関連性はあるのか。
・鏡ヶ原事件との関連性はあるのか。
・まぼろしさんの噂は誰が発信源か。
・日下氏は何故、どこへ消えたのか。
などなど。特に鏡ヶ原事件との関連性は是非とも知りたいところ。
【鏡ヶ原事件に関する情報】
二年前、ボーイスカウト企画に集まった子供たちが犠牲となった鏡ヶ原の崖崩れ。
だが、それは教会内で秘密裡に行われていた人体実験の隠ぺい工作であることを私は知っている。
教会にこそ近づかなかったものの、あの日宿泊先の一角荘を抜け出し、散策していたところで、研究員と思しき人物に遭遇したのがきっかけだ。
事故に疑念を抱いていた私は、被害者らしき人物のブログを発見し、定期的に閲覧していた。
そこで、魂魄を改造する実験について、やや婉曲な説明ながらも記されているのを見たのである。
双子の姉妹ということは、恐らく高月という苗字のあの姉妹だったのだろう。
実験の詳細について、もう少し知りたいところ。
【鈴音学園について】
鈴音学園は町内で比較的大きな高校であるのに、生徒数が二百人に満たないのは何故か。
また、生徒や教員の入れ替わりも多く、それが当然のことのように思われているのも不可解。
仲の良い友人が突然天候になり、連絡がとれなくなったという話もある。真偽は不明だが。
また、当学園にも七不思議と呼ばれるものが存在するのだが、恐怖を煽るような内容ではなく、何故それが創られ、広まったのかが謎である。
一説には、あるときを境にして突然七不思議が定着したという。こちらも真偽は不明。
アヤちゃんはどうも、この学園についても調べていたようだ。確かに以前、七不思議がどうのこうのと話していたのを覚えている。
どこにでもありそうな話だが、彼女なりに不審点を挙げて考察しているのは純粋に面白いと感じた。
……しかし……。
「高月姉妹、か……」
新たな関係者の名前が出てきた。今更ながら、鏡ヶ原で起きた崩落事故のことを調べてみれば、GHOSTの手がかりは出てくるかもしれない。ボーイスカウトのメンバーが分かれば、関係者をあたってみるのもいいのだが……。
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