幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

14.霊の存在

公開日時: 2021年4月26日(月) 22:57
文字数:1,469

「……どう、するか」


 沈痛な声で、ソウヘイが呟く。

 その問いに、明確な答えを出せる者などいるはずもなかった。


「……何でこんなことに……」


 そう。ただ、それだけだ。

 どうしてこんなことになったのか。

 どうしてテンマくんが死んでしまったのか。

 どうして俺たちは……。


「ごめんね、チホちゃん……」


 ランは涙ぐみながら、チホちゃんに謝る。

 それは黒影館への探検を企画した者としての、責任感からに違いない。

 許しの言葉を得られれば、少しは安堵できたことだろう。

 或いは、怒りの言葉をぶつけられても気持ちの整理はできたかもしれない。

 でも、チホちゃんはどんな返答もしなかった。

 その絶望の深さゆえに、最早意思表示すらも困難になってしまっているのだ……。


「スマホは駄目、固定電話も無理、館からは出られない。どうすりゃいいって言うんだよ……」

「……全ては霊が起こしていることだ。ニンゲンがそれを打破するのは、きっと難しい」


 さっきのことがあったばかりなのに、アヤちゃんは再びソウヘイの逆鱗に触れそうなことを言う。ただ、ソウヘイも少しずつ心変わりしてきているのか、アヤちゃんの言葉を否定しようとはしなかった。


「ランさん。アヤちゃんは霊だって言ってるけど、実際どうなんですか……? まぼろしさんの儀式をしたらこんなことになったんですし、何か関係があるんじゃ――」

「そんなの知らないわよ!」


 シグレくんの言葉をかき消すように、ランは吼えた。


「だって、都市伝説じゃない……幽霊が見れたらラッキー、見れなくても楽しけりゃオッケーって、それくらいに思ってたのに……」


 最後は消え入りそうな声になり、彼女は両手で顔を覆った。


「ランも半信半疑だったのか……少し残念だな。私は初めから、霊を疑ってはいないよ」

「じゃあ教えてくれよアヤちゃん! どうやったら俺たちはここから出られるんだよ! 霊とやらを信じて、頭でも下げりゃいいのかよ!?」

「ソウヘイ! ……落ち着け」


 俺がそう窘めると、ソウヘイはバツの悪そうな顔をして俯いた。


「……悪い」


 彼が悪いわけではない。悪いのはこの異様な状況そのものだ。

 こんな状況下で、俺たちがまともでいられるはずなどないのだから。


「……私は霊をここから退けるしかないと思う。方法は……すまない、分からないが」


 流石に調子に乗り過ぎたと感じたのか、アヤちゃんが自分なりの考えを述べる。

 それは霊の存在を前提とした話ではあったが、だとすれば妥当なものだろうと思われた。


「霊がいると認めるだけでも苦労しそうなのに……霊を退ける、か。もうワケ分かんないわ……」


 顔を覆ったままで、ランが呟く。それは全員が共通して思っていることだ。

 霊を退ける。なるほど単純明快だが、その方法など考え付くわけがない。


「……そ、そういえば」


 皆が黙り込んだところで、淀んだ空気を打開しようと思ってくれたのか、シグレくんが声を上げる。


「レイジさん、あの部屋で紙を拾ってましたけど……結局何だったんですか?」

「ああ、そうだったな」


 切り出すタイミングを逸していたが、シグレくんのおかげでこちらに注目が集まった。俺は懐から、テンマくんの部屋で拾ったメモ書きを取り出す。


「……これはテンマくんが書いたものらしい。かなりの長文だ」

「み、見せてくれますか?」


 誰よりも早く反応したのは、やはりチホちゃんだった。俺は頷いて、メモ書きをテーブルの上に広げる。


「ああ、というより皆で見てほしい。ただのメッセージじゃないっぽいんだよ」

「……ふむ」


 俺もまだほとんど内容は読めていなかったものの、テンマくんのメッセージはその書き始めから異質なものだった。

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