――また、足音が聞こえる。
その音で、私の擦り減った意識は覚醒する。
そして、私はまた、繰り返すのだ。
大事なものを守るために。約束を守るために。
それだけが、私に残されたこと。
……ああ。
それなのに何故。
こんなにも、この心は――
「やっぱり……ここなんだよな」
崩れ果てた教会の跡。
虚しさすら感じさせるこの場所に、その女神像の前に、一人の少女が立ち尽くしていた。
彼女は、俺たちがやって来たことに気付いても、じっと巨大な女神像を仰いだまま。
ただ、審判の時を待つかのように、静止しているのだった。
「ここに『答え』があるから……皆、ここにやって来る。そして……死んでいった」
マコちゃんたちも、マキバさんも。
それに彼女だって。
大切な者のために命を賭けてでもと、ここへ赴いたのだ。
「だけど、もうこんなゲームは終わりにしなきゃいけないはずだ。その先に救いなんて待ってはいない。だって、これは始めから仕組まれた計画なんだから。
君も……思ってはいるんだろ? これは賭けるにはあまりにも薄すぎる望みだと。それでも……従うしかなかったんだろうけど」
少女は動かない。
代わりに、拳がぐっと握り込まれるのが見えた。
「……少しだけ、時間がほしい。俺は……それできっと、この狂ったゲームを終わらせることができると、信じてるから」
「……終わらせる? 一体、どうやってよ」
そこで初めて、少女は言葉を返した。
静かに燃える怒りの感情を、吐き出した。
「この馬鹿げたゲームを終わらせる方法なんて、一つしかない。そのために……見つけなきゃいけないの! 私たちはどうせ……手のひらの上で踊らされているだけなんだから」
「……そうですね。誰も彼も、計画通りに動かされてる。そしてそれを知らなかったり、諦めていたり」
でも、とシグレは続ける。
「そんな中でも、もがくことはできます。何かを変えることはできます。僕は……それを信じてる。レイジくんを……信じてるんです。だから……レイジくんにこの場を譲ってくれませんか、モエカちゃん」
シグレに名前を呼ばれて、モエカちゃんはゆっくりと振り返る。
その表情は、意外にも弱々しかった。
彼女は、見せたくなかったのかもしれない。
本当は覚悟なんて決められていないと、知られたくなかったのかもしれない。
「……一体何を始めるって言うの。何ができるって言うのよ……!」
「……俺にできるのは、話すことだけだよ」
この事件の犯人に向けて。
「そう、一つだけ俺が話すべきこと。それは、この事件の真実を、示すことだ」
「真実――」
彼女は、呟いてから口を真一文字に結ぶ。
そして、長い沈黙の後にゆっくりと顔を逸らした。
それを許しと受け取って、俺は話し始める。
鏡ヶ原で一体何が起きていたのかを明らかにする推理を。
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