幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

32.話すべきこと

公開日時: 2021年10月2日(土) 20:12
文字数:1,012

 ――また、足音が聞こえる。

 その音で、私の擦り減った意識は覚醒する。

 そして、私はまた、繰り返すのだ。

 大事なものを守るために。約束を守るために。

 それだけが、私に残されたこと。

 ……ああ。

 それなのに何故。

 こんなにも、この心は――

「やっぱり……ここなんだよな」


 崩れ果てた教会の跡。

 虚しさすら感じさせるこの場所に、その女神像の前に、一人の少女が立ち尽くしていた。

 彼女は、俺たちがやって来たことに気付いても、じっと巨大な女神像を仰いだまま。

 ただ、審判の時を待つかのように、静止しているのだった。


「ここに『答え』があるから……皆、ここにやって来る。そして……死んでいった」


 マコちゃんたちも、マキバさんも。

 それに彼女だって。

 大切な者のために命を賭けてでもと、ここへ赴いたのだ。


「だけど、もうこんなゲームは終わりにしなきゃいけないはずだ。その先に救いなんて待ってはいない。だって、これは始めから仕組まれた計画なんだから。

 君も……思ってはいるんだろ? これは賭けるにはあまりにも薄すぎる望みだと。それでも……従うしかなかったんだろうけど」


 少女は動かない。

 代わりに、拳がぐっと握り込まれるのが見えた。


「……少しだけ、時間がほしい。俺は……それできっと、この狂ったゲームを終わらせることができると、信じてるから」

「……終わらせる? 一体、どうやってよ」


 そこで初めて、少女は言葉を返した。

 静かに燃える怒りの感情を、吐き出した。


「この馬鹿げたゲームを終わらせる方法なんて、一つしかない。そのために……見つけなきゃいけないの! 私たちはどうせ……手のひらの上で踊らされているだけなんだから」

「……そうですね。誰も彼も、計画通りに動かされてる。そしてそれを知らなかったり、諦めていたり」


 でも、とシグレは続ける。


「そんな中でも、もがくことはできます。何かを変えることはできます。僕は……それを信じてる。レイジくんを……信じてるんです。だから……レイジくんにこの場を譲ってくれませんか、モエカちゃん」


 シグレに名前を呼ばれて、モエカちゃんはゆっくりと振り返る。

 その表情は、意外にも弱々しかった。

 彼女は、見せたくなかったのかもしれない。

 本当は覚悟なんて決められていないと、知られたくなかったのかもしれない。


「……一体何を始めるって言うの。何ができるって言うのよ……!」

「……俺にできるのは、話すことだけだよ」


 この事件の犯人に向けて。


「そう、一つだけ俺が話すべきこと。それは、この事件の真実を、示すことだ」

「真実――」


 彼女は、呟いてから口を真一文字に結ぶ。

 そして、長い沈黙の後にゆっくりと顔を逸らした。

 それを許しと受け取って、俺は話し始める。

 鏡ヶ原で一体何が起きていたのかを明らかにする推理を。

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