幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

13.鎖される館

公開日時: 2021年4月25日(日) 22:12
文字数:1,784

 テンマくんの死体を発見してから暫く。

 俺たちはチホちゃんの部屋の前で待機していた。

 テンマくんの死体と直面してしまったチホちゃんは、ほとんど人事不省の状態になってしまい。

 ランとアヤちゃんの二人で、何とか落ち着かせていたのだった。

 手持無沙汰になった俺たちの内、ソウヘイがブレーカーのある場所を探してくれ、使用人室にあることは判明したのだが、いくら操作しようとも電気が点く気配はなかった。そもそも断線してしまっているのか何なのか。とにかく館内は暗いままだった。

 そんなこんなで十分ほどが経った頃、三人が部屋から出てくる。

 全員の顔色が悪かったが、特にチホちゃんの顔は生気を失ったかのように白く、表情も喪われていた。

 心配なのは当然だけれど、下手に声をかけたところで逆効果になるかもしれない。

 だから、今はそっとしておくのが最善だろうと思われた。

 

「とりあえず、動けるのか?」


 ソウヘイがランに訊ねる。ランはゆっくり頷いて、


「皆で行動しておく方が安心だしね。ただ……他に心配なことが」

「うん?」

「これ、見てよ」


 そう言って彼女が突き出してきたのは、自身のスマートフォンだった。


「……これが?」

「警察に連絡とろうとしたんだけど、ほら……圏外になってる」

「……本当だ」


 パニックになって、警察に通報するとかそういうことを失念していたが、確かに。

 ランのスマートフォンは今、圏外という二文字を画面上部に映している。

 彼女だけがそうなのかと、俺もポケットからスマートフォンを取り出してみるが、表示は同じ。

 圏外の文字が、無情にも映し出されていた。


「俺もだ……」


 隣から、ソウヘイも驚いたように呟くのが聞こえてきた。他のメンバーも、スマートフォンの画面を見ながら驚愕している。


「まさか、全員か?」

「そんな……」


 揃いも揃って、スマホの電波が通じなくなるなんてことがあるだろうか?

 こんな、何かに妨害されているかのように。

 周囲一帯で電波障害が発生しているとか、そういう現実的な可能性を信じたいが、これは……。


「とにかくこうしちゃいられないわ。電話が繋がらないなら、近くの交番か、最悪民家でもいいから向かいましょう。それしかないわ!」

「そ、そうですね。この事件を誰かに伝えないと……」


 俺たちには全く理解不能な事件とはいえ。

 まずは外部の誰かに伝え、警察を呼ぶのが先決に相違なかった。

 躓きそうな足取りで何とか玄関ホールへと向かい。

 俺たちは、外へ出るために入口扉を開いた。

 いや――開こうとした。


「……あれ?」


 こんなのは、悪い冗談だろ。

 そう思いたくなるような、馬鹿馬鹿しい展開。

 どんなに力を入れて引こうとも。

 両開きの扉はピクリとも動いてくれなかった。


「開かねえぞ、この扉! 鍵が掛かってるわけでもねえのに……!」

「ちょっとレイジ、ふざけないでよ!」


 後ろから、ランの怒声が飛んでくる。しかし、俺は至って真剣だ。

 本気で扉を開けようとしているのに、全く動いてくれないのだ……!

 お前もやってみろという風に、俺は道を開ける。ランは飛びつくようにドアノブを掴むと、力一杯後ろへ引いた。

 ……が、勿論動くはずもない。


「何よこれ、どうなってんの!?」

「だから、開かなくなってるんだよこの扉は……!」

「……マジかよ」


 ソウヘイも念のためにとドアノブを握るが、やはり結果は同じだ。

 鍵も掛かっていないはずなのに、外に通じる扉が……開かない。


「……ここは最早、霊の支配する空間だということか」


 焦っている俺たちの後ろで、アヤちゃんがそう独り言ちる。

 その言葉が真剣そのものだったので、ソウヘイの怒りを買った。


「今は冗談言ってる場合じゃないだろ!」


 けれど、アヤちゃんにとってそれは冗談じゃなかった。

 彼女は本当に、これが霊の仕業であると信じて疑っていないのだ。


「ソウヘイさん、やめてください!」


 突っかかろうとするソウヘイを、勇気を出してシグレくんが止めている。

 俺はそれに加勢し、ソウヘイの両腕を掴んだ。


「……くそっ、どうすりゃいいってんだよ」

「俺も分からねえ。でも……とりあえず状況を整理しよう」


 俺たちは今、有り得ない状況に陥って混乱しきっている。

 こんな頭じゃ、打開策なんて出るわけがない。


「そうね……レイジの言う通りだわ。気持ちを落ち着けるために、一度食堂に場所を移しましょ」

「……分かった」


 ランの提案を受け入れ、俺たちはひとまず食堂に移動することにするのだった。

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