テンマくんの死体を発見してから暫く。
俺たちはチホちゃんの部屋の前で待機していた。
テンマくんの死体と直面してしまったチホちゃんは、ほとんど人事不省の状態になってしまい。
ランとアヤちゃんの二人で、何とか落ち着かせていたのだった。
手持無沙汰になった俺たちの内、ソウヘイがブレーカーのある場所を探してくれ、使用人室にあることは判明したのだが、いくら操作しようとも電気が点く気配はなかった。そもそも断線してしまっているのか何なのか。とにかく館内は暗いままだった。
そんなこんなで十分ほどが経った頃、三人が部屋から出てくる。
全員の顔色が悪かったが、特にチホちゃんの顔は生気を失ったかのように白く、表情も喪われていた。
心配なのは当然だけれど、下手に声をかけたところで逆効果になるかもしれない。
だから、今はそっとしておくのが最善だろうと思われた。
「とりあえず、動けるのか?」
ソウヘイがランに訊ねる。ランはゆっくり頷いて、
「皆で行動しておく方が安心だしね。ただ……他に心配なことが」
「うん?」
「これ、見てよ」
そう言って彼女が突き出してきたのは、自身のスマートフォンだった。
「……これが?」
「警察に連絡とろうとしたんだけど、ほら……圏外になってる」
「……本当だ」
パニックになって、警察に通報するとかそういうことを失念していたが、確かに。
ランのスマートフォンは今、圏外という二文字を画面上部に映している。
彼女だけがそうなのかと、俺もポケットからスマートフォンを取り出してみるが、表示は同じ。
圏外の文字が、無情にも映し出されていた。
「俺もだ……」
隣から、ソウヘイも驚いたように呟くのが聞こえてきた。他のメンバーも、スマートフォンの画面を見ながら驚愕している。
「まさか、全員か?」
「そんな……」
揃いも揃って、スマホの電波が通じなくなるなんてことがあるだろうか?
こんな、何かに妨害されているかのように。
周囲一帯で電波障害が発生しているとか、そういう現実的な可能性を信じたいが、これは……。
「とにかくこうしちゃいられないわ。電話が繋がらないなら、近くの交番か、最悪民家でもいいから向かいましょう。それしかないわ!」
「そ、そうですね。この事件を誰かに伝えないと……」
俺たちには全く理解不能な事件とはいえ。
まずは外部の誰かに伝え、警察を呼ぶのが先決に相違なかった。
躓きそうな足取りで何とか玄関ホールへと向かい。
俺たちは、外へ出るために入口扉を開いた。
いや――開こうとした。
「……あれ?」
こんなのは、悪い冗談だろ。
そう思いたくなるような、馬鹿馬鹿しい展開。
どんなに力を入れて引こうとも。
両開きの扉はピクリとも動いてくれなかった。
「開かねえぞ、この扉! 鍵が掛かってるわけでもねえのに……!」
「ちょっとレイジ、ふざけないでよ!」
後ろから、ランの怒声が飛んでくる。しかし、俺は至って真剣だ。
本気で扉を開けようとしているのに、全く動いてくれないのだ……!
お前もやってみろという風に、俺は道を開ける。ランは飛びつくようにドアノブを掴むと、力一杯後ろへ引いた。
……が、勿論動くはずもない。
「何よこれ、どうなってんの!?」
「だから、開かなくなってるんだよこの扉は……!」
「……マジかよ」
ソウヘイも念のためにとドアノブを握るが、やはり結果は同じだ。
鍵も掛かっていないはずなのに、外に通じる扉が……開かない。
「……ここは最早、霊の支配する空間だということか」
焦っている俺たちの後ろで、アヤちゃんがそう独り言ちる。
その言葉が真剣そのものだったので、ソウヘイの怒りを買った。
「今は冗談言ってる場合じゃないだろ!」
けれど、アヤちゃんにとってそれは冗談じゃなかった。
彼女は本当に、これが霊の仕業であると信じて疑っていないのだ。
「ソウヘイさん、やめてください!」
突っかかろうとするソウヘイを、勇気を出してシグレくんが止めている。
俺はそれに加勢し、ソウヘイの両腕を掴んだ。
「……くそっ、どうすりゃいいってんだよ」
「俺も分からねえ。でも……とりあえず状況を整理しよう」
俺たちは今、有り得ない状況に陥って混乱しきっている。
こんな頭じゃ、打開策なんて出るわけがない。
「そうね……レイジの言う通りだわ。気持ちを落ち着けるために、一度食堂に場所を移しましょ」
「……分かった」
ランの提案を受け入れ、俺たちはひとまず食堂に移動することにするのだった。
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