幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

14.鈴音学園の七不思議①

公開日時: 2021年10月29日(金) 20:27
文字数:1,976

 渡り廊下まで来たところで、俺たちは校庭に人影があるのを発見した。迷い込んでしまった人間、というわけではない。その動きは明らかにぎこちなく、歪な存在であることを示唆していた。


「に……人形……」


 僅かに捉えられた姿。木製か、はたまた特殊な金属加工を施しているのかは不明だが、滑らかなフォルムの関節人形。成人男性とほとんど変わらない程度の体躯をしたその人形が数体、校庭を彷徨い歩いていたのである。


「また、あのようなものが……」


 過去にアツカから人形を見せられているヒデアキも、未だ現実を受け入れ難いようだ。

 魂魄を詰め込まれた人形が地上を闊歩するだなんて、常識の中で生きる人間なら想像もつかないことだろう。


「……これが、アツカの計画なんだろうな。ゴーレム計画という名前から、予想は出来たけど」

「マキバさんが教えてくれた研究の一つ……人形に魂を込めるという実験」

「ああ。その研究はアツカにとって一番重要なものだった。その実験のせいで母を喪ったという、個人的な理由からな」


 アツカは人形に魂魄を宿す手法を確立させることで、過去の失敗を乗り越えたいという思いがあるに違いない。ともすればそれは無意識下のものかもしれないが、彼女の行動に強く影響していることは確かだ。


「どれくらいの人形が、この学園に放たれたんでしょうね……」

「さてな……しかし、あの人形には魂が込められてるんだろ? なのに、まるでロボットみたいだぜ……あれじゃ」

「だからこそ、ゴーレムなんじゃないですか? マキバさんの話にもありましたけど、ゴーレムは確か主人の命令に従うロボットのようなもの。制約を守らなければ暴走してしまう、危険な存在……」

「……なるほどな」


 ピグマリオンではなく、ゴーレム。

 そう呼称する時点で、あいつの願いは滅茶苦茶に捻じ曲がっているのは明白なのだが。

 それをあいつ自身が分かっていないなら、救いようのない話だ。


「もはや、あいつは実験の成功にしか興味がないのかね。完全な成功と、技術を思うままに利用する力……アツカが目指すのはもう、それだけなんだろうか」

「……そうあってほしくないと、私はまだ願っているがね」


 如何に望みが薄くとも、ヒデアキさんはやはり父親としてその望みを捨てられないのだ。

 俺ももしかしたら、心の奥底で何らかの救済を求めているのかもしれないが……いや、それは甘過ぎる。

 アツカと俺はもう、あの瞬間に訣別したのだから。短い学園生活の全てを、偽りだと捨て去ったのだから。


「……今の校舎内はかなり危ない状況になってるんだろうが、さっさとアツカを止めに行かねえとな。こんなのはまだ序の口な気がする。実験はこれで終わりじゃねえ気がするんだ」

「ええ。慎重に、捕まらないように行きましょう。そして必ず、アツカさんを止めましょう……!」


 人形の監視から逃れつつ、七不思議の解明へ。

 一つ一つ着実にこなし、道を開いていかなくては。





 七不思議は校舎全体に分布しているが、進行具合を分かりやすくするため、俺たちはメッセージの上から順にこなしていくことにした。

 まずは『屋上から墜落する悪魔の首』。美術室に悪魔を模した小さな石像はあったが、普段ならただの作品だなと思うくらいで興味など沸かないものだ。

 それがまさかGHOSTによって設置された仕掛けの一つだとは。……そういうものが、この学園にはいくつもあるのだな。


「……これだな」


 高さ五十センチほどの石像。その頭部に細工がないか調べてみると、ネジのように回して取り外せることが分かった。早速頭部をくるくると回し、胴体から取り外す。どうも中は空洞になっているようで、想像以上の軽さだった。

 そして、気になったのは音だ。頭部を動かしてみると、微かに金属のぶつかる音が聞こえる。中に小さな金属が入っていて、それが表層に当たり音を立てているようだった。

 屋上まで行くのは面倒なので、俺たちは二階に上がって窓を開け、そこから地面に向かって勢いよく頭部を投げ落としてみた。

 ガシャン、という小気味良い音とともに、石片が飛び散るのが見えた。


「……何か光ってるな」

「確かに、コインみたいなのが見えます」


 人形たちに見つからないよう、一階に降りて校庭へ。一度は音を聞きつけて近づいて来た人形も、すぐにどこかへ去っていったようだ。

 シグレが言っていたように、割れた頭部から出て来たのは金色に輝くコインだった。500円玉程度のそれなりに大きなもので、どんな金属で出来ているかは不明だが結構ずっしりとしていた。


「これが、鍵になるのかもしれないな」

「ええ。……鏡ヶ原での、二つの玉のように」


 七不思議だというなら、合わせて7つのコインがあるのだろうか。とりあえず、一つ一つこなしていくしかない。


「……よし、この調子でやっていこう」


 メモ書きの上から一つ目を線で消して、俺たちは次の七不思議を潰しに向かった。

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