ラウンジでの発見は、暗号以外にもう一つあった。新しい部屋の鍵だ。
電気式暖炉の中へライトをかざすと、キラリと光る何かがあって。
手を伸ばして拾い上げると、それは小さな鍵だったのである。
ラウンジの鍵と同様に、今回の鍵にもシールが貼られていた。
書かれていたのは、コレクションという単語。それが示すのは当然の如くコレクションルームだ。
コレクションルームは一階の北西回廊から行けるので、ラウンジからすぐの場所だった。
封印されていた扉を開錠し、俺たちは慎重に中へ入っていく。
「……うおお……」
コレクション、と称するだけあって、室内にはなるほど大量の収集品が保管されていた。
俺たちのような子どもには、具体的な価値など分からないが……きっととんでもない値のつくものばかりなのだろう。こんなものが、大量に放置されているとは。
よく今まで盗みにはいられなかったものだ。いやむしろ、空き巣が入ってもこれを見つけられなかったとかか。
特に目を惹くのが西洋の甲冑で、それ以外にも名のある画家のものらしい絵画や小さなガラスケースに納められた陶器など様々だ。
こんなところに放置されていていいものではないだろう。
その、数あるコレクションの中でも一際大きな物が部屋の隅に置かれている。広げたままだと相当に場所を占有してしまっているそれは、高さが俺の身長ほどもある屏風だった。
「……おい、これじゃねえか?」
屏風に描かれた絵を見るなり、やや興奮気味に言ったのはソウヘイだ。彼に促されて絵を見た俺たちも、すぐに納得する。
「……ぽいですね。とらかりえ」
「なるほど、虎狩り絵ね?」
ランが単語ごとに区切ってわかりやすく発音してくれる。……そう、屏風に描かれているのは虎が獲物である小動物に噛みつかんとする、躍動感のある絵だったのだ。
虎の狩りを描いた絵。これが目当てのもので間違い無いだろう。
「これを見つけたら、そうとしか思えなくなっちゃったわ」
「この絵のどこかに、また何かあるはずだ」
次の暗号か、それとも別の何かか。
とにかくこの屏風を調べてみなくては。
結構な長さがあるので、四人で取り囲むようにして屏風をくまなく調査する。
そして声を上げたのは、シグレくんだった。
「ここに、紙切れが貼ってあります!」
彼が指差したのは、ちょうど屏風の折れ曲がった部分。そこに細長く丸められた紙が貼り付けられていたのだ。
全く、値打ち物に違いない屏風にこんなことをするとはとんでもないな。
「でかしたわ、シグレくん!」
ランが歓喜し、早速紙切れを屏風から剥がす。絵に傷が生じないかが心配だったが、そこはランも考えたか、綺麗に剥がすことができていた。
「……これね」
紙を広げると、また見慣れた文字群が現れる。平仮名五文字、短い暗号だ。
つのがきん
「例によって五文字か。つのがきん……まだこれは簡単そうだな」
「ええ。これまでの暗号で慣れてきたのかもですけど……『角が金』と読み換えればいいんじゃないでしょうか」
「角が金色の何かを探せばいいってことね!」
館内には、廊下や部屋を問わず石像がちらほら置いてあり、その中には女神や悪魔のものがあった。
悪魔の石像には、確かツノがあったはずだ。
ただ、これまでの探索で俺が見た石像は、金色のツノなどではなかったと思うが……。
「石像が一番怪しいし、ツノがあるやつは一つ一つ確認していくようにしよう」
「はーい」
コレクションルーム内にも石像はあるが、一つもツノは付いていない。
暗号については、他の場所で探さないといけないだろう。
とりあえず、新たな探索場所ではあるので、他に手掛かりがないかも探しておく。
物がやたらと多いので苦労したが、その甲斐あってまた別の部屋の鍵を発見することができた。
「会議室、だな」
シールに会議と書かれているので間違いない。確か会議室は二階の南側だったか。
悪魔の石像を探しつつ、会議室に向かう。そのルートでいけばいいだろう。
「じゃ、ここはそろそろ出るか」
「そうね。行きましょ」
紙と鍵を手に、俺たちはコレクションルームを後にする。
このまま順調に謎解きが進み、早く脱出できることをただ、祈るばかりだ。
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