幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

33.桜井令士の推理③

公開日時: 2021年10月3日(日) 23:11
文字数:2,125

「……ここで起きた三つの殺人事件の背景には、GHOSTによる計画が見え隠れしていた。それは、ここへ招待された者のうち、俺たち鈴音学園メンバー以外の人物が皆、ある命令を与えられていたというもの。内容は、鏡ヶ原に隠された『宝物』を見つけ出し、手に入れなければ、大切な者の命が奪われるという最低の脅迫。そしてそれを誰にも告げてはならないという文面に従い、皆は平静を装いながらも、必死になってパーツを探し求めていた……いわばこれは、大切なモノを賭けたデスゲームだったわけだ。

 ……さて。このデスゲームの中で、プレイヤーとして集められてしまった人物が次々と殺されていったわけだが、全員が複雑な事情を抱えていた上に、ここへ来た目的を口外するなという命令のせいで、俺たちの方は状況を中々把握できなかった。それゆえに、何を考えることが解決への糸口なのかすらも、最初は五里霧中だったんだ。

 だけど、不明な部分をもっとシンプルな疑問にまとめることで、俺たちは状況を理解した。この殺人には間違いなく、パーツを巡る幾つもの思惑が交錯しているのだと、確信した……」


 ミステリではよくある手法だ。

 全体としてぼんやり見ているだけでは分からないことも、細分化して一つ一つに道筋をつけることで、真相が見えてくる。

 黒影館でもそうしたように、俺は考えた。

 今回の事件の本質を現す情報について。


「俺は、この連続殺人の犯人について推理するにあたり、事件において重要となる要素をルールとして整理してみることにした。

 この鏡ヶ原で見聞きした情報から、俺がまとめたルールは六つ。


 一。分割された魂魄は、片方が死亡した場合、もう一方に還元される。

 二。魂魄は生体機能を持つ人間、或いは人型の人形にしか宿れない。

 三。聖痕は死亡するか抉り取ることで無くなる。

 四。鏡ヶ原で実験用に製造された人形は三体である。

 五。被害者の殺害とほぼ同時期に、地鳴りが発生している。

 六。被害者は全員、教会で殺害された後、直線状に移動させられ、教会から遠く離れた場所で発見された。


 ……これが、事件を紐解く上で必要なルールであり、手がかりになった」


 今回は、黒影館以上にGHOSTの研究と深く絡んだ事件だった印象がある。人形製作と魂魄分割。その二分野の情報が事件の原因であり手掛かりだった。


「まず、流れの説明からいこう。第一の事件、被害者はミコちゃんだ。

 深夜零時になった瞬間、鏡ヶ原は霊の空間に代わった。それとほぼ同時に、謎の地鳴りが響いた。その後、ミコちゃんがいないと慌てながらマコちゃんがリビングにやってきて、そのまま外に飛び出し、彼女の死体を発見。外で倒れていた死体のそばには、モエカちゃんが呆然と立ち尽くしていた……。

 事件当時、俺とシグレ、そしてソウヘイの三人は一角荘内で共に行動していた。また、マコちゃん、ミコちゃん、マキバさんがリビングに現れたのを確認している。ミコちゃんは一角荘の玄関前で殺害されていたため、犯人候補は学園メンバーを除く三人全員と仮定した。寝ていたはずのミコちゃんが突然、玄関前の地面で冷たくなっていることに不自然さを感じながらも、その時点では考察はできなかった。

 続いて第二の事件では、ミコちゃんの死にショックを受けていたマコちゃんが、後を追うように犠牲者となった。シグレがそばについていたわけだが、彼女はシグレの隙をついて一角荘を抜け出したんだな。探索に出ていた俺とマキバさんは、一角荘前でシグレから話を聞いてそれを知った。丁度そのタイミングで再び地震が発生、その後手分けして探すことになり、南側の洞窟前で、彼女は最悪の結果で発見されてしまった……。

 彼女がいなくなってからは、俺とシグレ、マキバさんはバラバラになって探していたから、アリバイはないと言える。だから、マコちゃんの事件では全員が容疑者になり得るだろう。

 ……最後に、マキバさんが殺された第三の事件。教会地下の研究施設を探索中、マキバさんは俺とシグレの前から逃げ出した。その後に地鳴りが起きて、嫌な予感を拭えないまま彼を探していたが、その予感は現実のものになる。マキバさんは山小屋の前の道に倒れ、冷たくなっていた……。

 と、ここまでが事件の経過だな」


 ほとんど一息に説明を終えたが、特に指摘や確認はない。モエカちゃんの理解も俺たちと同じということでよさそうだ。


「デスゲームという恐ろしい背景を知らなかった俺たちには、被害者がなぜ自ら危険な行動に出るのかが何よりも理解不能だった。でも、蓋を開けてみれば非常に簡単な理由だったんだな。自分が行動しなければ、大切な誰かが危険な目にあう……だから命令された通りにパーツを探すしかなかった」

「……ええ」


 モエカちゃんは小さく頷く。


「ここへ来た人間は……あなたたちを除いた四人は、死に物狂いだった。何気ない風を装いながらも、心は酷く打ちのめされていたのよ」

「それを思うと、俺も心が痛むよ。当事者たちからしてみれば、部外者の憐れみだとしか思われないだろうけど……」


 実際に人質をとられ、そしてその生存がほぼ絶望的と感じてもなお、僅かな可能性のために命を掛けねばならない。

 ああ、それはどれほどの苦痛だろうか。俺には想像もつかない。

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