「……さて、どうするか」
モエカちゃんとの対談を終えて。
ソウヘイに割り当てられた客室に集まって、俺たちはひとまずの情報整理をしていた。
「合計七人が誘われるままやって来たのは分かったわけだが。これから何が起きるか、正直予想できないな」
「黒影館のときみたく、夜になったら……ってのはありそうだが」
「かもしれないですね……」
ソウヘイの言う通り、事が動くなら深夜という可能性が最も高いだろう。全員が活動している日中に堂々と事件が起きるというのは考え辛い。
……仮に、ランに大勢の協力者がいるということになれば話は別だが。
「……なんにせよ、今はまだ平和だ。何も起きていないうちに、ある程度聞き込みとかしておこうか?」
「それでいいんじゃねえ? まだモエカ以外とは話も全然してねえしさ。マキバさんとあの姉妹のこと、もうちょい知っといたほうがいい気もする」
「ええ。……呼ばれたのには、理由があるような気がします。二年前の事故の、関係者なんですしね」
調査には全員が前向きだ。ここらで一通り、登場人物の詳細を探っておくのは重要だろう。
「それじゃ、情報収集といこうか。陽が沈むまでに、色々と見聞きしておこう」
三人で頷き合い、俺たちは聞き込みに繰り出した。
一番近場にいたのはマキバさんだ。さっきから一角荘周辺を離れることはなく、今も建物のすぐ近くで花壇に植わった花を見つめていた。
「……今まで誰が、この一角荘を管理していたんだろうね」
近づいた俺たちの気配を感じたのか、顔を動かさないまま彼は呟く。
「物好きな人がいるんでしょう。俺たちをわざわざ、呼び集めるくらいなんですし」
「はは、言えてるね。誰かは知らないが」
マキバさんは朗らかに笑う。知らないという言葉が真実なのか偽りなのかは判断がつけられない。
「マキバさんは、どうしてここの集まりの引率を引き受けてたんです? やっぱり、アウトドア的なのが好きだったんですか」
「それもあるんだけど、僕は子供の面倒を見るのが好きでさ。無邪気な笑顔を見たり、一緒にいろんな体験をしたり。そういうのが面白かったんだよ。……ふふ、そういうこともあって、一児の親になってからは、すっかり子煩悩なんだ。自分で言うのも恥ずかしいけどね」
「マキバさん、結婚してらしたんですか?」
シグレが驚いて確認するのに、マキバさんは頷いて、
「ああ、ちょうど鏡ヶ原の事故の前にね。妻からは、私たちを置いていかないでくださいよって怒られちゃったな、はは」
まあ、家族が増えた直後という大事な時期に家を空けるのは、たとえ行事といえども奥さんにとっては嫌なことに違いない。
「……何というか、あの事故は転機だった」
「転機、ですか」
「あの一夜を経験してから、僕は何があっても大事な家族のそばにいようと、守り抜こうと。そう思うようになったんだよ」
「……優しいですね」
「いやいや。そもそも家族のそばにいるべきだったんだと反省しているよ。……まあ、ありがとう。アオキくん」
どこか悲しげな表情でありながらも、マキバさんはそう言って口元に笑みを浮かべるのだった。
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