誰かが探索に入った痕跡のある部屋、或いは鍵の掛かって入れない部屋は後回しにして、俺たちは探索を続ける。途中、ソウヘイやシグレくんとはすれ違ったが、収穫はないようだった。
二階の西廊下。左右に扉はあるものの、東側は中庭を見下ろせるバルコニーのような部分に出られるだけ。そこに怪しいものは見当たらなかった。
反対側の扉は二つあり、一つには鍵が掛かっている。もう一つはそもそも鍵穴がなかったのだが、ノブを回しても動こうとはしなかった。
「……レイジさん、ここ」
「ああ、これだな」
チホちゃんだけでなく、俺も気付いていた。ドアの上部に薄いプレートが取り付けられているのを。
色はドアと同じく茶色だが、やはりそこだけ浮き上がっているので、パッと見ただけでも違和感はあった。
何の役に立つかと思っていたが、幸運なことにさっきのドライバーが使えそうだ。プレートの四隅には、十字の窪みがあるネジが嵌っているのだった。
「……幸運、か」
果たしてそうだろうか?
まるで定められている道のように、守るべき手順のように、探索が進んでいる予感がする。
それが良いことなのか悪いことなのか判断はつかないとして。
「……よし」
四隅のネジをすっかり外し終わる。
最後のネジが取れたとき、プレートも重力に従って落下を始めた。
それを上手くキャッチして、静かに床へ置く。
そして、プレートの外れた部分にあるものを確認した。
「……またか」
「みたいですね……」
またしても、さっきと同じカラクリ仕掛けだ。
プレートの向こうにあったのは、押しボタン式のセキュリティだった。
1から0までのボタンがあり、その上部には四桁まで表示されるモニタがある。
つまり、四桁の暗証番号を入力せよ、ということだ。
「暗証番号って何だろうな?」
「ここは、日下さんという人の部屋みたいですし……それにちなんだ番号とか、ありそうですけど」
「ちなんだ、ねえ」
生憎俺は、そこまで日下さんのことを知っているわけではない。
知らずとも解けるような暗証番号であるならいいのだが、そんな都合のいいことがあるだろうか。
……そう言えば。
単なる思いつきでしかないが、今手にしているヒントとしてあるのは、使用人室で見つけた『NAME=PASS』という謎のメッセージだ。
仮にこのネームというのが館の所有者である日下さんの名前を示すというのなら日下敏郎を数字、それも恐らく四桁の数字に読み変えなければならない。
日下……アヤちゃんはクサカって読み違えていたか。
ある程度知識があれば、日下という字でクサカと読んでしまうのもおかしくはない。むしろヒカゲとは読まないだろう。
日本名は難解だ。音読みでも訓読みでもない、意味を元に読み方が決められたものは沢山ある。
クサカという名前にも、他の漢字があったような気はするが……。
「……あ」
そこで、はたと気付く。
まさにこれは、クサカの変換なのではないかと。
俺は急いでスマホを取り出し、クサカで出てくる変換候補を調べていく。
しかしながら、基本の変換機能では俺の求める答えは出てこなかった。
こういうとき、文明の利器が使えないというのは辛い。
ただ、知識を求める場所はまだあるはずだ。
「チホちゃん。ちょっと図書室で調べ物がしたい」
「……何か分かりましたか?」
「恐らく、というのは。ついて来てくれ」
チホちゃんは小さく頷き、そのまま俺の後ろについてくれる。図書室は階下なので少し遠いが仕方がない。俺たちは注意を払いつつ、目的地までの暗い廊下を歩んでいった。
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