幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

28.再び五文字

公開日時: 2021年5月12日(水) 23:02
文字数:1,575

 ガチャリと扉が開いて、ランが出てくる。

 その目には泣き腫らした痕がしっかりと残っていたけれど、涙は拭い去られていた。

 頬を染め、視線を泳がせながらも彼女は言う。


「その、まあ……ありがとね。あんたのおかげで……えと、やる気が出たわ」

「そりゃよかった」

「か、勘違いしないでね! ただちょっと、話してる間に気持ちの整理ができただけなんだから……」

「はいはい、分かってますとも。お前が見かけによらず繊細なこともよく分かってます」

「み、見かけによらずですって?」


 突っかかってきそうなランを制止して、俺は続ける。


「だから、別に抱え込もうとするなよ。ミス研で駄弁ってるときみたいに……何かあればついててやるから」

「……馬鹿」

「はは、それで馬鹿はひでえな」


 さっきよりも愛嬌のある馬鹿だったから、許しておいてやろう。


「……いけるか」

「もちろん!」


 両手でガッツポーズを作り、ランは元気に答える。

 その顔はもう、ほとんどいつもの彼女に戻っていた。


「それじゃ、本当に探索再開と行きましょうか。何か分かったら、すぐに知らせるから!」

「はいはい。だからといって、あんまり暴走しすぎるなよ」

「分かってますよ、だ!」


 言いながら、バタバタと廊下を駆けるラン。

 そのまま五歩くらい進んだところでこちらを振り返ると、


「……じゃね、レイジ!」


 軽く俺に手を振って、再び走っていく。

 暗い廊下だ、すぐにランの姿は闇の中へと消えていった。


「げ、元気になったな……」


 かと言って突っ走り過ぎるのも心配になるのだが。

 あいつのことだし、危険が迫れば大声を上げて逃げてくるだろう。

 すぐに駆け付ける心積もりをしておいて、もし再会したら一緒に行動するようにしよう。


 ――さて、俺はどうするか。


 ソウヘイとシグレくんにニガナの絵の捜索を頼んでいるし、どうなったかの確認に行くべきか。

 まだアヤちゃんの客室にいるかもしれない。合流することにしよう。

 アヤちゃんに割り振られた客室は、ちょうど廊下を北向きに進んでいったところにあった。

 扉は半開きになっていて、中から声が漏れている。まだソウヘイたちがいるようだ。

 一応警戒だけはしておき、俺は静かに扉を開いて中に入った。


「……よ、ソウヘイ。シグレくんも」


 室内ではソウヘイとシグレくんが向かい合い、何か話し込んでいるようだった。俺の声に気付いた二人はこちらを向いて、


「……おう、レイジか」

「どうもです」

「ちょっと遅くなった。……二人で悩んでるみたいだけど、何か見つかったのか?」


 俺が訊ねると、シグレくんはこちらに手を差し出しながら、


「はい。絵の裏には、次の暗号が隠されてました。その暗号で今悩んでいる最中なんです」

「……どれどれ?」


 シグレくんの手中にある次の暗号。

 最初の紙と同じく、古びた紙切れに書かれていたのは五文字のひらがなだった。


「ちはいこい……ねえ」

「残念ながら、俺たちのアタマじゃいい答えは浮かんでこなくてよ」

「手分けして思い当たる場所は探してみたんですけど、やっぱり駄目でした」


 で、合流するため一度この部屋に戻ってきたということか。

 確かに、ランとの会話にニ十分くらいかかったわけだし、二人がずっとこの場所に留まっていたりはしないか。


「んー……『にがなのえ』もそのままだったからな。これだけで場所を示してるんだろうけど……」


 ちはいこい。この五文字が示すものとは何なのか。館内にそんなものがあるだろうか。


「大勢で考えた方がいいかもしれないですね。起きてればですけど……チホちゃんにも考えてもらいましょうか?」

「そうだな……どちらかと言えば調子も気になるし、チホちゃんの部屋へ行ってみるか。まだ寝てたら、ランを引っ張ってきて考えさせよう」

「ほいよ」


 特に異論もなかったので、俺たちはチホちゃんの客室へ移動することにする。

 ちはいこいというワードに、チホちゃんが何か閃いてくれたらいいのだが。

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