幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー【ゴーストサーガ】

観劇者への挑戦状付、変格ホラーミステリ三部作。
至堂文斗
至堂文斗

11.昼は情報収集③

公開日時: 2021年9月9日(木) 20:38
更新日時: 2021年9月12日(日) 22:22
文字数:1,135

「あ、シグレくんたちだ」


 モエカちゃんと別れ、上り坂を進んでいったところに姉妹がいた。二人は石碑のようなものの前に佇んでいて、俺たちがやってきたのを見つけて声を掛けてきた。


「改めて自己紹介するね。私が橘美子。こっちが橘真子」

「難しいかもだけど、覚えてくれたら嬉しいな」


 顔貌は瓜二つだが、あえてそうしているのだろう、二人の髪型と服の色はそれぞれ違っていた。マコちゃんは右のサイドテールに水色の服、対してミコちゃんは左のサイドテールに赤色の服だ。

 こうしたわざとの差異以外で見分けろと言われても、ほとんど不可能に違いない。


「……善処するよ」


 俺は一応そう言ったが、ソウヘイは難易度が高過ぎると小さく呟いていた。


「俺は桜井令士。シグレの友達その一だ」

「んで俺がその二の西条創平」

「よろしくね」

「よろしくー」


 自己紹介とも言えない紹介をとりあえず済ませて、まずは気になったことを訊ねてみる。


「……この石碑は?」

「これはね、教会の事故で亡くなった子たちの慰霊碑なの」

「お墓参りみたいなものだよ」

「そっか。俺たちも祈らせてもらっていいか?」

「うん。お祈りしてあげて」


 了承を貰ってから、俺たち三人は慰霊碑の前で黙祷を捧げた。寂れた丘の上、乾いた風の音が過ぎ去っていく。


「……なあ、ミコちゃん、マコちゃん」

「なんです?」

「二人は事故に巻き込まれたりしてないのかな?」

「……どうしてですか? ピンピンしてますけど」

「生きてますけど!」


 俺の質問に、二人ともピンと背を伸ばしながら答える。年齢は俺たちと同じなはずだが、その仕草がどこか幼く感じられた。


「レイジくん、モエカさんと話したときも、犠牲者は計四人だって言ってたでしょう。この子たちは事故と無関係かと」


 シグレくんはそう言うが、可能性の低いことでも一応は潰しておきたい。

 もしかしたらが現実に、ということは得てして起こるものだ。


「……そう言えば、今は『橘姉妹』なんだね」

「はい。昔は高月でしたけど」

「いまは橘。親戚に引き取られたから」

「親戚に……?」

「両親が、交通事故にあって」

「他界してしまったんです」


 家族との死別。苗字が変わった裏には、そんな悲劇があったのか。決して軽くはない質問だと思っていたが、いきなり踏み込み過ぎたかもしれない。


「……そうなんだね。……すまない」

「……いえ」

「構わないです」


 鏡ヶ原の死。家族の死。

 この幼い双子が、抱えてきたものは存外に大きいようだ。


「また、出直すよ。ぶしつけに色々聞いて悪かった」

「えと、気にしないでください」

「私たちも気にしてないから」

「ん。……じゃあ、また」


 またね、と姉妹揃って手を振ってくれる。

 それがもしかしたらシンメトリになるのかと期待していたが、マコちゃんもミコちゃんも、振っている手は右手だった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート