「あ、シグレくんたちだ」
モエカちゃんと別れ、上り坂を進んでいったところに姉妹がいた。二人は石碑のようなものの前に佇んでいて、俺たちがやってきたのを見つけて声を掛けてきた。
「改めて自己紹介するね。私が橘美子。こっちが橘真子」
「難しいかもだけど、覚えてくれたら嬉しいな」
顔貌は瓜二つだが、あえてそうしているのだろう、二人の髪型と服の色はそれぞれ違っていた。マコちゃんは右のサイドテールに水色の服、対してミコちゃんは左のサイドテールに赤色の服だ。
こうしたわざとの差異以外で見分けろと言われても、ほとんど不可能に違いない。
「……善処するよ」
俺は一応そう言ったが、ソウヘイは難易度が高過ぎると小さく呟いていた。
「俺は桜井令士。シグレの友達その一だ」
「んで俺がその二の西条創平」
「よろしくね」
「よろしくー」
自己紹介とも言えない紹介をとりあえず済ませて、まずは気になったことを訊ねてみる。
「……この石碑は?」
「これはね、教会の事故で亡くなった子たちの慰霊碑なの」
「お墓参りみたいなものだよ」
「そっか。俺たちも祈らせてもらっていいか?」
「うん。お祈りしてあげて」
了承を貰ってから、俺たち三人は慰霊碑の前で黙祷を捧げた。寂れた丘の上、乾いた風の音が過ぎ去っていく。
「……なあ、ミコちゃん、マコちゃん」
「なんです?」
「二人は事故に巻き込まれたりしてないのかな?」
「……どうしてですか? ピンピンしてますけど」
「生きてますけど!」
俺の質問に、二人ともピンと背を伸ばしながら答える。年齢は俺たちと同じなはずだが、その仕草がどこか幼く感じられた。
「レイジくん、モエカさんと話したときも、犠牲者は計四人だって言ってたでしょう。この子たちは事故と無関係かと」
シグレくんはそう言うが、可能性の低いことでも一応は潰しておきたい。
もしかしたらが現実に、ということは得てして起こるものだ。
「……そう言えば、今は『橘姉妹』なんだね」
「はい。昔は高月でしたけど」
「いまは橘。親戚に引き取られたから」
「親戚に……?」
「両親が、交通事故にあって」
「他界してしまったんです」
家族との死別。苗字が変わった裏には、そんな悲劇があったのか。決して軽くはない質問だと思っていたが、いきなり踏み込み過ぎたかもしれない。
「……そうなんだね。……すまない」
「……いえ」
「構わないです」
鏡ヶ原の死。家族の死。
この幼い双子が、抱えてきたものは存外に大きいようだ。
「また、出直すよ。ぶしつけに色々聞いて悪かった」
「えと、気にしないでください」
「私たちも気にしてないから」
「ん。……じゃあ、また」
またね、と姉妹揃って手を振ってくれる。
それがもしかしたらシンメトリになるのかと期待していたが、マコちゃんもミコちゃんも、振っている手は右手だった。
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